AWS、自律レーシングカーで強化学習を学ぶ「AWS DeepRacer」実機を日本初お披露目 大日本印刷が採用、社内レースを定期実施


アマゾンウェブサービスジャパン株式会社(AWSジャパン)は2019年5月23日、強化学習の完全自走型レーシングカー「AWS DeepRacer」や「Amazon SageMaker」など、AWSの機械学習サービスについて説明会を開催した。また同日、大日本印刷株式会社がAI人材育成用教材として「AWS DeepRacer」を採用しており、強化学習手法の性能を競うレーシングカーの社内レースを定期的に開催することも合わせて発表された。



AWS DeepRacer

AWS DeepRacer

「AWS DeepRacer(https://aws.amazon.com/jp/deepracer/)」は、AWSが2018年11月に開催した年次イベント「AWS re:Invent」で発表された、強化学習による完全自律走行が可能な1/18スケールの4輪駆動レーシングカー。日本でお披露目されたのは今回が初めて。1/18スケールのコンパクトサイズのシャーシのなかに、実世界での自動運転のために必要なコンポーネントが全て入っているという。


外装を外したもの。バッテリーは外した状態

CPUはIntel Atom™ プロセッサ、メモリ4GB RAM。ストレージは32GB (拡張可)。Wi-Fiは802.11ac対応、4MPカメラを搭載している。そのほか統合済みアクセレロメーターとジャイロスコープを搭載。車両用バッテリーは7.4V/1100mAhリチウムポリマー。これとは別にコンピュータ用のバッテリーとして13600mAh USB-C PDを搭載する。インターフェースとしてUSB-A 4個、USB-C 1 個、Micro-USB 1 個、HDMI 1 個を搭載。ソフトウェアはUbuntu OS 16.04.3 LTS、Intel OpenVINO ツールキット、ROS Kinetic。バーチャルでの走行速度は5m/s程度。


ロゴは後方に入っている


AWSの機械学習サービス「AWS Machine Learning Services Stack」

アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 技術統括本部 レディネス&テックソリューション本部 本部長/プリンシパルソリューションアーキテクト 瀧澤与一氏

説明会ではまず、AWSジャパン技術統括本部 レディネス&テックソリューション本部 本部長/プリンシパルソリューションアーキテクトの瀧澤与一氏が、AWSの機械学習サービスを紹介した。AWSでは過去20年間にわたって機械学習に継続的に投資を行ってきた。リコメンデーション、フルフィルメントセンター(Amazonの倉庫)で使われているロボットの自律制御部分、スマートスピーカーのAmazonエコーなどに機械学習技術が使われている。


AWSの機械学習技術

今日、機械学習は様々なシーンで用いられている。コンピュータビジョン、自然言語処理、時系列データ・数値データの予測や解析のほか、ロボットのアーム制御やゲームの制御などにも用いられている。


応用分野

AWS Machine Learning Services StackはAPI経由で機械学習技術を体験でき、プロセス全体を支援するマネージドサービス、機械学習に必要なフレームワークと計算基盤を提供している。様々なシーンに応じて使い分けられている。


AWS Machine Learning Services Stack

瀧澤氏は数例を紹介した。「Amazon Personalize」は商品やサービスの購入・利用履歴に応じてエンドユーザに合わせたリコメンデーションを行う。「Amazon Forecast」は過去の履歴から将来を予測する時系列データ予測サービス。いずれもAmazonと同じ技術で、幅広い対象に対して適用ができる。


Amazon Forecast

「Amazon SageMaker(https://aws.amazon.com/jp/sagemaker/)」は機械学習モデルの構築やトレーニング、デプロイなど一連の流れをまとめて行えるマネージドサービスで、数分で開発環境を起動できる。学習や推論環境は柔軟にスケールできる。


Amazon SageMaker

瀧澤氏は具体例としてMLBでのファンの盛り上がりをAWS Machine Learningで取り込んで分析したという事例を示した(https://aws.amazon.com/jp/solutions/case-studies/major-league-baseball-mlbam/)。たとえば野球の中継映像に最初から盗塁の可能性などを提示するなどして、野球に対してあまり知識がない人であっても盛り上がることができるというものだ。




機械学習で自動運転の自動車レースを行う「AWS DeepRacer」

AWS DeepRacer

AWS DeepRacerは、機械学習を使って自律運転の自動車レースを行い、それを通してAWSの機能や仕組みを把握、人材育成すのために使われている。「DeepRacer」はカメラから情報を得て、モデルを使って行動を決定して自律走行する。「Summitサーキット」と呼ばれる実機レースだけではなく、「バーチャルサーキット」でのレースも行われている。モデルで訓練させたあと、実機で走行させることもできる。

瀧澤氏は、AWS DeepRacerについて、「強化学習をすべての開発者の手に届けるためのサービス」だと語った。強化学習とは機械学習の一種だ。特定の環境下で何らかの出力を出し、その結果に与えられる「報酬」をフィードバックすることで、試行錯誤しながらモデルを学習させていく。


強化学習とは機械学習の一種。報酬関数の設計が重要

強化学習のためには、報酬関数の設計が重要となる。機械学習を使わずに自動運転車を作ろうと思うと「if then〜」で書かなければならない。DeepRacerの場合で考えると、車からのカメラ画像の見え(入力)に対して車が取るべき行動(出力)を全て登録できればいいが、実際には無数の見えかたが存在するため、それは現実的ではない。そこでできるだけセンターラインが真ん中に見えるように走るようにインセンティブを与える。最初はハンドルの切り方がわからなくても、多数の探索を繰り返して学習を行わせると、徐々に点数が一番高くなるような行動を取れるようになる。開発者から見ると、報酬関数をいちいち手で作るのは大変なので、その報酬関数の作り方を学ぶことが肝となる。


学習が行われるプロセス

瀧澤氏は、AWS DeepRacerコンソールの使い方を示しながら具体的に紹介した。車がどのような行動をとるのか(ハンドルやブレーキ、アクセルなど)を設定し、報酬関数はたとえば「センターラインから10%の範囲であれば1.0ポイント」といったかたちで与えていく。


行動空間の設定

実際には他にも「次の通過ポイントに対してどのくらい曲がっているのか」など、様々なパラメータがある。学習させていくにしたがって、車両は徐々に高い報酬が得られるように走行できるようになっていく。


試行を重ねるに従って徐々にうまく走れるようになっていく

うまくいったらバーチャルサーキットのなかで走らせてみる。結果はスコア表示される。大会にエントリーすることもできる。1ヶ月に一つずつサーキットは変わっている。いま700人以上の開発者たちが参加しているという。


バーチャルレースには世界中の開発者たちが参加しており、ランク付けされる

シミュレーションで走れるようになったからといって、実世界でもちゃんと走るとは限らない。だが実世界で何度も実験することは現実的ではない。瀧澤氏は環境にランダムな要素を加えるなどして実世界に近づけることで、課題を乗り越えていきたいと述べた。


シミュレーションと実環境の違いは小さくない

学習コンテンツ自体は無料で、90分間・6つの自己学習パートで構成されている。AWSアカウントを持っている人ならば、AWSマネージメントコンソールからDeepRacerを選べばすぐに開発を始めることができる。実機発売日は未定だが、6月のAWSサミット会場では走行できるように準備をしている。技適対応した実機の日本での価格は未定だが、米国amazon.comでの予約金額は399ドル。

なお、DeepRacerの裏では「AWS RoboMaker(https://aws.amazon.com/jp/robomaker/)」が動いている。RoboMakerは知能ロボットアプリケーションを開発できる統合環境で、ROSをクラウドサービスへ接続して拡張する。AWSの機械学習サービス、モニタリングサービス、分析サービスが含まれており、シミュレーション、リモートでのアプリケーションのデプロイ、更新、管理ができる。RoboMakerを使うことでロボット開発の各段階で生じる面倒な作業を取り除けるという。



AWS活用人材を育成を進めるDNP

大日本印刷株式会社 情報イノベーション事業部C&Iセンター 副センター長 福田祐一郎氏

続けて、「AWS DeepRacer」を採用している企業の1社として、大日本印刷株式会社 情報イノベーション事業部C&Iセンター 副センター長の福田祐一郎氏が活動を紹介した。

大日本印刷(DNP)は印刷技術を活用して4つの成長領域(知とコミュニケーション、食とヘルスケア、住まいとモビリティ、環境とエネルギー)に取り組んでおり、AI活用は全てに関わる基礎技術として非常に重要だと考えているという。そのためにはAI技術者の育成が重要だ。


DNPグループが注力する4領域

福田氏は「クラウドを最大限に活用し、サービスを組み合わせて新たな価値を生み出す『ビルダー』の育成が急務だと考えている」と述べた。AWSには既に様々なAIサービスがリリースされている。そのためAIエンジニアを育てるためには格好の環境だと考えており、特に今回、DeepRacerに着目したと語った。


AWSのAIサービスを活用中

DNPでは既に3月からバーチャルレースを開催しており、今後、実機レースも行なっていく予定。目標は「AWS DeepRacer League」で優勝すること。月一回の勉強会などを通して、開発者各人のノウハウを共有、技術底上げを狙っている。特に活動に対するオーナーシップやフィードバック精神の育成を期待しているという。


目標は優勝

現在73人が取り組んでおり、参加者たちは自発的に楽しんで勉強会に取り組んでいるとのことだった。公式レースにも参加しており、シンガポール大会では12位と17位という成績だった。仮想サーキットでは1位、2位を争う成績を獲得しているという。なおこの取り組みは業務の一環として行われている。


DNP社内の勉強会の様子。電光掲示板などはレースを盛り上げるために自作されたものとのこと

6月末の実機発売後には、社外にも公開し、一般のオープンなレースを開催する予定。詳細は6月12日に発表される。DNPグループでは現在2000名のICT人材、200名弱のAI人材がおり、これを5年後にはそれぞれ倍にすることを目指す。


AWS DeepRacer GPは外部公開予定

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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