【動画あり】ハンドルのない自動運転バスがついに公道へ 対向車や歩行者が行き交う街を走る 試乗会参加レポート

ついにハンドルがない自動運転バスの公道での試験運転と実証実験がはじまった。場所は東京汐留近くのイタリア街、電気で動く白いバスが約300mの公道ルートを時速15km未満で走行した。ハンドルのない自動運転バスが公道を走るのは日本では初めての試み。


実証実験は3日間、1日8便(各便6名)、約150人が試乗する予定。対象はマスコミ、大学や研究機関の有識者、認定に関わった政府や警察など関係者が試乗する。一般の乗客は乗れない。早速、ロボスタ編集部も乗せてもらい、公道を走るバスを撮影してきた。

自動運転電気自動車「NAVYA ARMA」は基本的には前後を意識しない設計になっているが、道交法にあわせて国内では前部・後部を設けている

ソフトバンクの子会社、SBドライブはフランスNavya社製の自動運転電気自動車「NAVYA ARMA(ナビヤ アルマ)」を日本の道交法にあわせたカタチで改造し、特別な認定を受けて、実証実験のために公道を走るナンバーを取得。本日より東京汐留近くのイタリア街の公道を走らせる。



ハンドルのないバスが公道へ

これまで10数回実験を重ねてきた。例えば東京大学の柏キャンパスの中野研究室と共同で行われてきたキャンパス内の走行実験もそのひとつ。それら積み重ねてきた成果として公道の実証実験へと踏み出した。

コイン駐車場をスタート/ゴールに実証実験と試乗が行われた



公道走行までの道のり

実証実験の開始にあたって、SBドライブのCEO、佐治氏から、「NAVYA ARMA」の改造点や技術、公道を走れるようになるまでのプロセスなどの説明があった。

SBドライブ株式会社 代表取締役社長兼CEO 佐治 友基氏。ナンバープレートを取得した「NAVYA ARMA」と

もともとこの車両にはハンドルも運転席もない。しかし、現行の道交法では、運転席や操作するための機器を社内に設置することが義務づけられている。認可を受けてナンバープレートを取得するために、その基準に合致するよう、運転席に相当するシートとゲーム等で使用されるコントローラを設置することでこの課題(自動運転レベル2)をクリアした。

集まった報道陣に公開されたハンドルがないバス「NAVYA ARMA」。こちらが前部。後部もほぼ同様のデザイン。

ルーフトップ(屋根)に3DのLiDAR、膝の高さとバンパー部に2DのLiDARを搭載している。前後に同じLiDAR構成で、両側側面に各1個のLiDAR、合計8個のLiDARを搭載している。カメラは使用せず、いわゆるSLAMで走行するしくみだ。

ルーフに3DのLiDAR、フロンドガラス下部にドライブレコーダー用のカメラ(自律走行技術には使用しない)、膝の高さとバンパー下部に2DのLiDARが見える

コントローラで車両を操縦することができ、運転手はコントローラを持って乗車するものの、実際には完全な自律運転で基本的には走行していく。

認定を受けるために後部席に設置されたドライバー席とコントローラ。ドライバーがコントローラを持っているものの実際には自律走行を行う(緊急時にコントローラを使用して安全を確保する)

前部シートは後方を見る方向に設置される対座式の構成だ。対座は乗客の会話がしやすいため、地方などでは乗客同士のコミュニケーションの促進に繋がると評価されている

また、ライト(照明)の改善や、タイヤが車両からはみ出さないように改造するなど、日本の交通法規や車両規定に合わせた改造も複数行われている。

運用面では、国土交通省関東運輸局長から道路運送車両の保安基準第55条による基準緩和認定を受けた。海外でも同様の緩和認定が積極的に行われているもので、走行範囲やルート、走行シーン(渋滞しない場所、人通りが激しくない場所等)、気象条件など、決められたルールの中で実証実験を目的として安全に実施することを約束した上で得られる認定だ。


こうしてナンバープレートを取得した上で、次は警察署の許可を得た。イタリア街の場合は愛宕署に申請したが、これもあくまで実証実験のための走行に限られることになる。
こうしてさまざまな規制や条件があるものの、ハンドルのない自動運転バスが公道を走るという、大きな一歩を踏み出したことは重要で社会的な意義も大きい。




監視システムも併用

SBドライブの自動運転バスは、遠隔から監視者が車内の安全を確認したり、非常事態には車両を遠隔操縦する「Dispatcher」(ディスパッチャー)という技術を開発し、今までの実証実験でも活用してきた。今回の実験でもDispatcherは監視としてのみ使用している。車両の位置や映像を遠隔から監視している。将来的には「NAVYA ARMA」のサービスにも、遠隔から操縦したり、必要に応じて発車のダイヤを変更するなど、Dispatcherによって遠隔から制御できるよう検討していくという。

佐治氏は、今後「ドライバーの高齢化やバスの運行が減るなど、日常的な交通の足に不便を感じている地方や過疎地域が多い。また、都心部でも少子高齢化によってバスのニーズは高まるだろう。一般の人が安くて日常的に使える足として利用してもらえる自動運転バスの実現を早期に目指す」とした。

■公道を走るハンドルのない自動運手バス「NAVYA ARMA」




ロボスタ編集部も試乗

バスに乗り込むと、スタッフや運転士から簡単注意点の説明を受け、早速スタート。バスは駐車場からゆっくりと公道へ出ていく。時速15km以下で走行するため、乗っていて不安はまったくない。ブレーキがかかるときは人間が行うより多少は乱暴に感じるが、それも不安には感じない。むしろ、危険を察知するためにはある程度メリハリある制動の方が安心するくらいだった。


公道なので対向車や歩行者が周囲に通行しているが、歩行者が近付いたときは速度を落として安全を確保していた。途中で配送業者のトラックが路駐して荷下ろしをしていたが、ゆっくりで時間がかかるものの、車線変更してうまくパスしていた。そのほか、低速走行のためタクシーなどが追い越す動作を見せていたが、もちろん事故なく走行実験が行われていた。

路駐のトラックも上手に避けて、走行を続ける


また、要所要所では運転士が操作画面の「OK」ボタンを押すことで走行の再スタートを指示しているようだったが、全体時にとてもスムーズで、特に地方の交通量の少ない道路で決まったルートを巡回するにはすぐに活用できそうだと感じた。

歩行者が多いところは徐行して走行

■自動運転バスに公道で試乗した様子

高齢者ドライバーの事故が問題になっている。過疎地域では運行バス会社の採算性の都合から路線バスの減少も見られる。少子高齢化社会を迎え、こうした課題を解決できるのが自動運転バスだ。
しかし、そこには安全へのエビデンスが必要だ。今回の実証実験は公道でエビデンスを積み上げるための、価値ある第一歩を踏み出したと言えるだろう。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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