ソフトバンクと村田製作所は、世界最小クラス(※)のLPWAの通信モジュール2機種を共同で開発し、2019年9月以降に発売することを発表した。電気やガスなどのスマートメーター、自動販売機、家電、温湿度計などに組み込んで利用でき、ロボットやAGV、ウェアラブルやモバイル機器にも利用できそうだ。(※村田製作所調べ)
今回の記事では今後のIoTデバイスの動向や最新技術についても解説していきたい。
IoT機器に最適なLTE「NB-IoT」と「Cat.M1」
LPWAとはLow Power Wide Area(省電力・広範囲)の略称で、今回対応する通信規格は「NB-IoT」と「Cat.M1」に対応する。「NB-IoT」と「Cat.M1」(カテゴリーエムワン)は、IoT機器向けのLTE規格。LTEというと高速性をイメージするが、LPWAは逆で、LTEの周波数を使用するものの通信速度は遅く、広域をカバーでき、ローコストで通信できる分類のことをさす。センサーが取得した小さいデータを安く送りたい時に重視される規格だ。(最大通信速度は、NB-IoTが27kbps/63kbps、Cat.M1が0.8Mbps/1Mbps(いずれも下り/上り))
IoT普及を加速させる通信モジュール目指す
発表された2機種とは、「Type 1SS-SB」(NB-IoT対応)と「Type 1WG-SB」(NB-IoT/Cat. M1対応)。ハードウェアとソフトウェア部を主に村田製作所が開発し、IoTプラットフォームをソフトバンクが開発した。
「Type 1SS-SB」と「Type 1WG-SB」は、7月18~19日に開催される「SoftBank World 2019」で展示され、詳細の説明や質問についても対応する予定。
LPWA「NB-IoT」の商用サービスは1回線月額10円~
ソフトバンクは、2018年4月に「日本初」と「1回線当たりの通信料が月額10円から」をうたって、LPWA「NB-IoT」の商用サービスを開始している。LTE基地局を利用するため、既に99%のカバー率を達成し、IoTの普及にも準備完了の状態だ。
しかし、その一方で通信モジュールのベンダー(メーカー)ごとに機能にバラツキがあったり、インターネットの技術的な知識がなくても開発や利用ができるようにして欲しい、といった意見がユーザーから寄せられていたと言う。そこで、ソフトバンクはユーザーが簡単に開発し、運用できるIoTプラットフォーム上を構築して提供していくことにした。そこに今回の2製品の通信モジュールも乗っかる。
世界最小クラス、通信量・電力消費を抑制、高い安全性
世界最小クラスのLPWAの通信モジュール。従来の同等品(18.0×16.0×2.0mm程度)と比較して、底面積比で約50%の小型化を実現した。(Type 1SS-SBは10.6×13.2×1.8mm)
「OMA Lightweight M2M」(LwM2M)に対応する。ユースケースによるが、httpsと比較して通信データ量を約20%程度に抑えることができる。通信量を削減することで通信時間や電力消費も抑えられる。
また、IoTデバイスはセキュリティ面で脆弱性が指摘されているが、このモジュールは高セキュリティをうたう「NIDD」技術にも対応する(現在開発中)。「NIDD」はNon-IP Data Deliveryの略で、通信時にIPアドレスを使用せず、基地局(コアネットワーク)と個体のデバイスで直接やりとりをするため、IPアドレスで端末を特定する方式より安全性がはるかに高いという考え方がある。いわば、インターネットからの攻撃を携帯電話やスマートフォンは受けにくい、といった理屈に似ている。
なお、NIDD(IPアドレスを使わない通信)では通信データの容量も少なくなり、LwM2Mとの組み合わせて一層の通信量と電力消費の抑制効果がある。LwM2MとNIDDの両方に対応しているモジュールは世界初だと言う。
LwM2MやNIDDをはじめとした、開発に関わるソフトウェアやシステム関連の多くをIoTプラットフォームで提供するため、開発者はこのモジュール製品を組み込んだデバイスを短期間とローコストで開発しやすい、と両社は考えている。
例えば、「現状ではスマートメーター化が滞っているケースが見られるが、それは開発コストや通信コスト、通信モジュール等の消費電力などの課題があるため」と村田製作所は分析している。「この製品を使用することで、開発が簡単になり、消費電力も抑えられ、通信コストも下げられる可能性が高いため、スマートメーター化が進むのではないか」とみている。
IoTデバイスの普及を後押し
ソフトバンクでは、2035年にはインターネットに繋がるデバイスが累計1兆個に達すると試算している。少子高齢化、社会インフラの老朽化、自然災害など、センサーやIoTデバイスの活躍の場はますます広がるとみている(AIの市場規模よりはるかに大きいとみている)。
そこでLPWA通信モジュールを提供し、IoTプラットフォームの利用を促進したい考えだ。また、IoTで危惧されている高いセキュリティを保つには外部からの攻撃を抑える、IPのないNIDD環境の構築も併行して進める。
ソフトバンクのIoTプラットフォームについては、パナソニックと家電に内蔵するための実証実験も行っているが、「今後は今回発表した通信モジュールの実用性も検証していく」とした。
「家電では特にWi-Fiなどのネットワークの初期設定でつまずくユーザーも多いが、この通信モジュールやIoTプラットフォームを利用することで、電源ONしたらすぐに使える(ブートストラップ)環境が実現できる」と語った。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。