ユカイ工学の次世代版コミュニケーションロボット「BOCCO emo」(ボッコ エモ)に、シーマン人工知能研究所のAI日本語エンジンをベースにしたロボット言語「BOCCO語」が搭載される。両社は報道関係者向け発表会を開催し、その概要とシーマン人工知能研究所が開発するユニークなAI日本語エンジンの一端が説明された。また、元アスキー編集長の遠藤諭氏を加えたキーマン3人による内容の濃いトークセッションもおこなわれた。
シーマンとユカイ工学が連携
「第壱回 先端怪奇人工物 大博覧會」で2つの雄の連携が発表された。
ひとつの雄はシーマン人工知能研究所。『シーマン~禁断のペット~』としてドリームキャストというゲーム機用に発売された、あのシーマンだ。最初の作品が発売されたのは1999年7月、つまりシーマンが誕生してから20年が経過したことになる。シーマンはゲーム内のキャラクターとユーザーが音声だけで会話を楽しむことができるある意味初めてのゲームだった。
そのシーマンを開発したのが斎藤由多加氏だ。現在はシーマン人工知能研究所で、斎藤由多加流のユニークなAI会話エンジンを開発していることで知られている。
もうひとつの雄はユカイ工学だ。子どもの見守りなどをテーマに展開するロボット「BOCCO」や、心を癒やすしっぽの付いたクッションロボット「Qoobo」、脳波で動く「necomimi」などを開発している。そして今、業界で注目されているのは開発中の次世代版コミュニケーションロボット「BOCCO emo」(ボッコ エモ)だ。
この両社が提携するのは新たな会話エンジン「ロボット言語」と、更にその先にある「日本語会話生成エンジン」の開発と販売となる。
●共感する対話エンジン「ロボット言語」の共同開発
●ユカイ工学による、「日本語会話生成エンジン」(シーマン人工知能研究所、2020年リリース予定)の販売代理店事業の展開
「BOCCO emo」はロボット言語を話す
ユカイ工学は、次世代版コミュニケーションロボット「BOCCO emo」を2020年初旬のサービス開始を目指して開発を進めている。手に持てるデスクトップ型サイズのロボットで人と会話することができる。従来のように一方通行型の会話(命令)ではなく、双方向で継続する会話ができるようにする。
人の会話を認識して継続した会話ができるものの、返答は「ロボット言語」で行うという。「ロボット言語」は日本語ではない。意味のある発音と文法体系で構成されたロボット専用の言語だ。聞いているうちに人もある程度は理解できるようなものになる、そんな言語を開発したいとしている。
「ロボット言語」の解りやすい例が、スターウォーズのR2-D2だろう。R2-D2は人の言葉を理解して何かを回答するが、その内容は人間の言語ではない、いわゆる専用の言語を話す。それでも人とはある程度の意思の疎通ができるし、C-3P0や他のドロイド系ロボット達とロボット同士で会話しているかのような場面もある。これがロボット言語のイメージであり、BOCCO用のロボット語がBOCCO語ということになる。
ユカイ工学はつい先日、音声認識で実績のあるフュートレックとの業務提携を発表したばかり。今後は会話ロボット市場の拡大を目指すと言う。ユカイ工学は会話ロボットや会話デバイスを開発するためのボードは製品化しているものの、実は会話ロボットをこれまで開発もリリースもしてこなかった。多くの会話ロボットが成功していない中で、この選択は堅く賢明なものに思えた。そのユカイ工学がいよいよ会話認識のフュートレックと提携し、シーマンの会話エンジンを採用することを発表し、いよいよ会話するコミュニケーションロボットへの挑戦を始める、そんな図式となった。
会話エンジンの共同開発を2019年夏から開始し、2020年初旬の「BOCCO emo」のサービスリリース時にはロボット言語「BOCCO語」で返答する機能を予定している。また、その後、日本語会話エンジンを開発し、将来は「BOCCO emo」にも搭載することでBOCCOも日本語で返答する会話に発展させたい考えだ。
シーマンが開発しているユニークなAI日本語会話エンジンとは
シーマンの斎藤由多加氏が取り組んでいるユニークなAI日本語会話技術は、日本語の文法ではなく日常会話の法則に沿った会話エンジンだ。「メロディ言語」など、そのコンセプトの詳細は過去の記事「「シーマンの知見を活かして次世代の日本語会話AIをつくる」シーマン人工知能研究所・斎藤由多加氏インタビュー」をご覧頂きたい。
実に興味深い日本語会話へのアプローチであるものの、今までは実際の会話エンジンの片鱗は見ることができなかった。ところが、今回は初期のプロトタイプとして報道陣にその一部が特別に公開された。それは斎藤氏らしいコミカルなデモになっていた。
まずは多くのスマートスピーカーやロボットで使われているシナリオベースの一問一答式。それでもユニークさの片鱗がうかがえる。特にAI音声アスシタントに年齢を聞かれた斎藤氏が「50台半ば」と応えると「55歳ぐらいですかね?」と聞き返すやりとり等が面白い。
続いて、一度会話した内容の中から、重要な情報を保持しながら次の会話へ進み、永続的に会話が続く対話手法を取り入れたもの。こうした技術をベースに開発が進められている。
20分以上にわたるデモは全般的に興味深く、今までのロボットとの会話とは違うユニークなものに仕上がっていた。10月頃には更にブラッシュアップされたものが公開されるかもしれないとのこと、楽しみだ。
遠藤諭氏を加えたトークセッションも
イベントの後半では、斎藤氏と青木氏、更に元月刊アスキー編集長で、角川アスキー総研主席研究員の遠藤諭氏を加えた3人でのトークセッションが行われ、会場はとても盛り上がった。
BOCCO語の発想は面白い
遠藤氏は今回の発表の感想を聞かれて「BOCCO語の発想は面白い。斎藤さんが言うように日本語は文法があるようでなくて超やっかいなので、そこをあえてスペックダウンして、ロボットの領域のBOCCO語で人間も話すようなったら楽しそうだ」と語った。
これを受けて斎藤氏は「R2-D2が話す言葉のように、BOCCO語には規則性があって、ユーザーはBOCCOと話しているうちになんとなく意味が理解できるようになってくるのではないか」とした。
青木氏は「日頃から、どうしてロボットの会話って、こんなに面白くないんだろう、と思っていた。そこでシーマンの斎藤さんとお会いして、いろいろなトリックを使って会話を面白くしていく、そんな話に圧倒されて、一緒に何かできないだろうか、ということでスタートした」と、プロジェクトのきっかけになつたエピソードを話した。
遠藤氏は「ロボスタの発表した資料によると、コミュニケーションロボットは既に市場に60種くらいある。ただ、どれも饒舌でリッチな会話ができるロボットを追い求めているし、ユーザーもそれを期待する。一方、BOCCOはよい意味で超プリミティブと言うか控えめと言うか、ミニマルのロボットだ。それでいて実践的に世の中に出していろいろなプロジェクトをやってきた。その例として、BOCCOレンタルのキャンペーンが終了するとき、返却時にBOCCOが話すお別れの言葉を聞いて、一緒に過ごした家族の子どもがもっと一緒にいたいと泣いてしまったというエピソードもある。極端に言えば、線何本かで描けるようなシンプルなデザインのBOCCOでありながら、人間側がそれに感情を大きく揺さぶられる存在になり得るということ」と賛辞を送り、更に「4年目にようやくBOCCO側が感情を表現する側になろうとしているが、これはとても健全な進化だと思う」と続けた。
良いバーテンは聞き上手、シーマンは更に高度で変則
遠藤氏は「評判の良いバーというのは、バーテンダーが聞き役であること。バーテンダーが喋りすぎるバーはお客に嫌われる。ところが「叱られバー」みたいに立場を超えていろいろ言われるバーもあったりする。しかし、そのときはそこで交わされる言葉だけではない凄い帯域の広いコニュニケーションが行われている。シーマンも聞き役なんだけどただの聞き役じゃない。斎藤さんの言うメロディ言語も、”あぁ、なるほどな”と思った。次の進化にシーマンの技術、ゲームのようなエンタテインメント分野でコンテンツを作り込んできたアーティストと連携した技術が「製品」となってやがて出てくるのはとても楽しみ」と語った。
青木氏はそれを聞いて「ありがとうございます、そのような言葉をもらって感動しています」と笑った。
ただ、その後に遠藤氏から「でも、BOCCO語ってどこまでできてるの?」と聞かれ、斎藤氏は「この発表が終わってから本格的な開発をスタートしようってことになっています(笑)」と応えながら苦笑いしていた。
ABOUT THE AUTHOR /
神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。