実物大18mもの巨大なガンダムを動かすプロジェクト。「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」(GGC)と呼ばれている。
想像するだけでワクワクが止まらないプロジェクトは2020年夏、横浜の山下ふ頭で公開される予定だ。しかし、今までほとんどその進捗は聞こえて来なかった・・。GGCはいったい今どうなっているのか、計画はちゃんと進んでいるのだろうか。
そんな疑問に応えるように、開催中の日本ロボット学会 学術講演会2019では特別トークセッション「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」が行われ、GGCの現状が語られた。
計画は着々と進んでいる
登壇したのはGGCプロデューサー、ガンダムのアニメ制作会社サンライズの志田香織氏、GGCテクニカルディレクター石井啓範氏、早稲田大学の名誉教授でGGCリーダーの橋本周司氏の3名。異なる立場からGGCプロジェクト発想の経緯、実現への過程、「感動の創造」についてを語った。
GGCのゴールは2020年夏、横浜の山下埠頭で18mのガンダムを動かし、ガンダム世代が長年思い描いてきた夢の一端を叶えるとともに、見た人に感動を届けようというものだ。
公開されている情報はその程度で、今回のトークセッションでも、ガンダム本体がどのような仕様で、どのように動くのかは、いっさい公開されなかった。その点は残念だったが、計画は確実に進んでいることが石井氏によって報告された。
開発チームは現在、主に隔週の定例会を行い、コミュニケーションをはかっているという。
スケジュールとしては順調、現在は部品の製造を行っている段階だという。山下埠頭にはまだ動くガンダムの姿は見えないが、既に当該地面を整地にするなど、建築は進められているという。
今回はガンダムがどのように動くのか、詳しい仕様などは明かされなかったが、その代わりにGGCで検討した技術課題や項目が公表された。どれが採用されたかはわからないが18mのガンダムは、このような技術や項目をもとに検討されたという。
「2020年に18mのガンダムを動かそう」その経緯と苦悩
もともとこの計画の発端は東京都とのコラボで誕生した、お台場潮風公園に立つガンダム像(RX-78)だった。巨大なガンダム像は首を動かして宇宙(そら)を見上げるだけしか動かなかったが、それでも会場に詰めかけた人はそれにどよめき、歓喜した。52日間で415万人を集めたというその数字だけでもその時の熱気を感じられるだろう。
当時リーダーだった、現バンダイナムコエンターテインメントの代表取締役社長、宮河恭夫氏のひとこと「このガンダムを動かした方がいいんじゃない?」「もっと人が集まってくれるんじゃない?」がGGCのきっかけだった。
そして、プロデューサーの任についた志田氏にとって苦悩の日々がはじまった。ガンダムがどのように動く姿を人々は求めているのか、どのように動かすべきか・・。アイディアを募集し、世界中の人々の意見に耳を傾けた。
最適な人材を募集(ゲット)するため、志田氏は「GET」を掲げたと言う。
G ガンダムへの理解
E エンタメとしての楽しさを追求する
T ロボット技術、重機技術の両方の知識を持つ
そして、一般社団法人ガンダム GLOBAL CHALLENGEを設立、この夢を実現するための活動が実際にスタートした。
必要なのは、技術が追いかける「夢」
志田氏にとって苦悩は続いた。ガンダムでやる以上はエンターテインメントでないと意味がない。現存する技術のアタラシイ組み合わせで何が生み出せるのか。
しかし、それではダメなのではないかと気づいた。「今できる技術からガンダムで何ができるのかをずっと考えてきたが答えはきっとそこにはない」。関係者を集めて再び意見を聞くところに立ち戻った。ガンダムの特徴とは何か、他のロボットにはないガンダムならでは魅力とはいったい何なのか、それを突き詰めたいと思った。
そんなとき、リーダーの橋本周司氏が言った言葉に肩の力がすっと抜けた。今の時代、ファンタジーに技術(現実)が追いついてきた。そんな時代だからこそ技術が追いかける果てしない「夢」が大切だ、と。
富野監督が激怒
アニメの世界でガンダムを作り上げてきたメンバーズが、GGCのリーダーズとなって計画は進んでいる。
ガンダムに原作から携わってきた富野由悠季氏はどのようにかかわっているのだろうか。志田氏の話に会場が沸いた。「技術者とクリエイターが相談して決めたGGCの仕様を富野監督に話したら、机の上に乗るくらい激怒されました(苦笑い)。私たちの考えはまだまだ監督の希望にはほど遠かった。もっと考えて持っていかなければいけなかった。しかし、富野監督は「クリエイター側が持つ夢に現実を突きつけられて、すぐに妥協したらそこまで・・もっと頑張らないといけないとは思わないだろう?」と語ったと言う。最終的に妥協するにしても、監督が檄を飛ばしてくれることが、もっともっと考えよう、という原動力になる」と話した。
今回、具体的にGGCのガンダムがどのようなものになるのかは語られなかったが、「山下埠頭に置いてただ動いただけではアニメ級の感動を与えられないと思う。ダイバーシティのユニコーンガンダムでは映像や音を使った演出を行っているが、やはり「感動する空間」として考えないといけないと思っている」という言葉に力強さを感じた。
ガンダムファンが待ち望む瞬間、2020年「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」の夏はもうすぐそこだ。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。