2020年度から小学校においてプログラミング教育が必修化される。文部科学省・総務省・経済産業省が官民連携で立ち上げた「未来の学びコンソーシアム」では、2019年9月を「未来の学び プログラミング教育推進月間」と設定し、全国の小学校にプログラミングの授業に取り組んでみるよう呼びかけている。この「未来の学び プログラミング教育推進月間」の協力企業のひとつがNTTドコモで、使用する教材がNTTドコモが企画・開発した「embot」(エムボット)だ。
特徴的なのは、主役の「embot」は可愛いらしい姿をしているが、外装はダンボールでできているということ。子ども達が楽しみながらタブレットとロボットを使ってプログラミングが学べるキットになっている。それには実は大きな理由がある。
自分で作ったダンボールのロボットを動かせる
電源を入れると、ロボットのLEDライトが光って腕が動く。子どもにとって自分で作ったダンボールの人形が電気のチカラで動き出した瞬間だ。子ども達はその様子に大喜びした直後、好奇心と想像力を働かせて「ロボットの顔や手に色を塗ってみたい」「紙で自作したアイテムを持たせたい」「洋服を着せたい」等、たくさんの思いをめぐらせる。
「子どもたちの身近にあるダンボールをロボットの外装として使うからこそ、動いただけで驚きだし、塗ったり貼ったりして自分なりのロボットにしようという発想が生まれやすい」とNTTドコモの額田(ぬかだ)氏は言う。
「embot」のキットには、切り抜いてロボットの外装が作れるダンボール、サーボモーターとLEDライト、ブザー、そしてそれらを制御する「embotコア」(メインボードとコネクタ、電池を入れるボックス)が同梱されている。
自作したロボットは専用アプリを使ってタブレットやスマートフォンからプログラミングすることができる。子ども達は自分の想像力を活かして、ロボットを自分なりに動かしたり、LEDライトを光らせたり、ブザーで音階を奏でたり、楽しみながらプログラミングを学んでいく教材に仕上がっている。
では、実際に「embot」はどのように使われるのか、子ども達の反応はどうなのか、企画・開発したNTTドコモに詳しく話を聞いた。
「embot」の3つの特徴
編集部
あらためて、「embot」とはどのような商品なのでしょうか
額田氏
ダンボールで自作したロボットにサーボモーターやLEDライトなどを取り付け、プログラミングして動かすことができる製品です。
2020年度からプログラミング教育が小学校で必修化されますが、「embot」は「未来の学びコンソーシアム」の「未来の学び プログラミング教育推進月間」(略称「みらプロ」)の中で教材の1つとして使用予定なので、実際に学校の授業でご活用いただくケースもあると思います。そんな商品をいち早く使って頂ける、お子様にとっては楽しみながら予習できるツールだと思っています。
編集部
「みらプロ」の中で提案されている指導案「プログラミングを生かしてよりよい生活に」では、embotが紹介されているんですね。「embot」にはどんな特長がありますか
額田氏
お子様にとっては「楽しさ」「学びやすさ」が感じられることを重視し、更には教材として「普及のしやすさ」を意識した3つの特長があります。
ひとつ目は「プログラミングの導入障壁を下げる」ことです。ロボットのプログラミング教材として、ダンボールで組み立てるボディやサーボモーター、制御ボードといった必要な部品をひとつに納め、タブレットを使って簡単にプログラミングが始められるソフトウェアをセットにした「スターターキット」の構成になっています。プログラミング未経験者や子ども達が「やってみよう」「自分にもできそうだ」と感じてもらえると思います。
編集部
なるほど。まずは「やってみよう」「自分にもできそうだ」と感じるキットになっていますね
額田氏
2つめは「楽しい動きをさせるためのステップを短くする」為にさまざまな工夫をしている点です。
子ども達が「これをやりたい」と思ったら、とにかく短いステップで簡単に実現できるようにしたいと考えました。キットを開けたら子ども達は「早く組み立てたい」と感じると思います。マニュアルや設計図がなくても迷わないように、できるだけシンプルにして、「かお」や「からだ」「あし」など、くりぬいて折ったら、どこの部品になるのかが書いてあります。捨てる部品には「×」が書いてあります。組み立てたら次は面倒な初期設定をしなくてもプログラミングに着手でき、短いステップでまずはロボットを動かしてみることができます。そのため、例え低学年だったとしても「動いた!」という感動を短い時間で体験できると思っています。
また、「embot」のプログラミングを行うアプリ画面の設計(UI)にもこだわっています。1~5段階の操作レベルを用意していて、迷わないようにそのレベルに不要なボタンはわざとマスキングして表示せず、できるだけシンプルな操作画面にしています。例えば、レベル1を選択すると、ごく簡単な機能に限定して、まずはとにかくロボットを動かして楽しい体験をしてもらうためのボタンやブロックだけで操作画面が構成されています。
開封してからライトを光らせたりサーボモーターを動かすまでの初期設定が簡単なので、子どもたちが気持ちを萎えさせずに「プログラミングをやってみたい」という興味をもたせ続けるということが出来るのではと考えています。
額田氏
3つ目は「子どもの主体的な創造力を引き出せること」が出来る点です。子どもたちに身近な「ダンボール素材」を使っていて、キットの中に入っているダンボールのシートをくりぬいて、折ったり貼ったり、サーボモーターを組みつけたりすることで、自らロボットを作り上げることができます。
また、子どもにとってダンボールは身近なものだからこそ、ロボットが完成したら、「次は色を塗りたい」、「絵を描いたらどうなるだろう」、「シールを貼ってデコレーションしたい」、「別の形にしてみたい」など、自分なりにアイディアを膨らませまることが出来るのです。この様にカスタマイズしやすいところが、大きな魅力となっています。色のないダンボールのロボットを子ども達に配っただけで、子ども達は自分からすすんで「何ができそうか」を考え始めてくれるんです。
私達も子ども達の想像力と創造力を膨らませるきっかけとなるよう、動画などを通して色々なカスタマイズ例をどんどん紹介していく予定です。
編集部
子ども達にとっては組み立てることがゴールではなく、そこからがむしろ創造とプログラミングの始まりなんですね
■ 子どものアイデアから生まれた、餅をつくembot(embot Instagramアカウントより)
編集部
「embot」は自作ロボットのプログラミング教育キットですが、女の子も楽しむことができますか?
額田氏
はい。授業に参加する前は「女の子はロボットに興味を示さないんじゃないか」と心配しましたが、杞憂にすぎませんでした。授業がはじまると、外装のカスタマイズに関しては女子児童の方が積極的でした。こちらで用意したシールも我先にと使ってデコレーションしてくれている様子を見て、とても嬉しかったです。
人形遊びやゴッコ遊びの延長としてプログラミングがあって、楽しさを体験するきっかけになってくれればいいですね。
額田氏は、学校関係者から「embotはシンプルな動きしかしないが、むしろ子ども達にとって想像の余地を残しているところが良い」と言われたことが印象に残っていると語る。ロボットが手を上げる動作であっても、それは「おはよう」「バイバイ」「ガンバレ」「抱っこして」など、捉え方はひとつではない。シンプルな動作が何を伝えたいのか、子ども達にとってはそれを想像で補完することを促すのも教材の重要な役割なのかもしれない。
外装はさまざまに展開!
現在、キットで用意されているembotの外装はクマのようなロボットのみだが、発想力でどんなものにも応用できるのも魅力だ。
額田氏
例えば、教育現場との意見交換のなかで「身近なものを通して電気のしくみが体験できるものがいい」「身の回りのどんなものが電気やプログラミングで動いているのか理解できるようなものがいい」といった意見がありました。そのような場合は、遮断機や歩行者用信号機を紙で作って、LEDライトが点滅したり、サーボモーターで遮断機が上がるなど、embotを使って図工の授業にプログラミングを取り入れることもできると考えています。
embotをデコレーションしたり、改造したり、自作したり、作ったりしたアイディアあふれる作品は、FacebookやTwitter、Instagramなどで確認することができる。また、横浜美術大学の辻康介准教授の指導のもと、プロダクトデザインコースの学生たちが作ったダンボールロボットも公開されている。
■横浜美術大学 embotのヘラクレスオオカブト
なお、embotはタカラトミー公式ショッピングサイト「タカラトミーモール」で11月30日より販売開始(予定:現在は同サイトで予約受付中となっている)。