Alexaスキル内課金とマネタイズ「約半年で売上は3倍に」環境音スキルが大ヒット!サクセスの秘訣をInvoked Apps社シュワブ氏に聞く

12月13日、アマゾンジャパンはAlexaスキル開発者向けのイベント「Alexaスキル Learning Day」を都内で開催した。その中で、Alexaスキルのビジネス活用とマネタイズについてのセッションも行われた。
そのひとつ、ゲストトークセッション「カスタマーに愛されるスキルの作り方とスキル内課金でのビジネスの作り方」にニック・シュワブ氏が登壇した。シュワブ氏はAmazon Alexa Championの称号を持つスキル開発者。Invoked Apps社のファウンダーでもある。シュワブ氏がここに登壇した理由は、スキル内課金を取り入れた人気のスキルを既に50以上もリリースしていて、売上が7カ月で3倍と、急成長しているからだ。

「カスタマーに愛されるスキルの作り方とスキル内課金でのビジネスの作り方」に登壇したニック・シュワブ氏

シュワブ氏のInvoked Apps社は、ロボスタでも以前記事で取り上げていて、海外でも注目されている企業だ。(関連記事「米国Invoked AppsがリリースしたAlexaスキルのユーザー数が急増」)

環境音スキルをリリースして大ヒット

Invoked Apps社を代表するスキルのひとつは「環境音 : 雨」(Rain Sounds)。リラックスしたいときにBGMとして流したり、周囲の不要な騒音をシャットアウトしてくれる、「雨の音」をひたすら再生するAlexaスキルだ。



自分の悩みを解決したくて生まれたスキル

シュワブ氏はこれを開発した経緯と現状までのプロセスをこう語る。
「私は数年前、引っ越しをしてアパートで新生活をスタートさせたのですが、上の階の住人がとても騒々しかったんです。睡眠不足になるくらいに。そこで、その騒音をかき消したくて、雨の音を再生し続けるAlexaスキルを作りました。2016年のことです。このスキルを再生することで上の住人の騒音から解放され、ゆっくり眠れるようになりました。ところが、同じ悩みを持っている人が世界中にたくさんいたのです。今では私が提供するスキルは数百万以上のユーザーが使っていて、AWS Lambdaの呼び出しは2億5千万以上、月間4TB以上のトランザクションです」
こうしてシュワブ氏はAlexaスキルを提供するようになり、世界中にいる数百万人のEcho端末ユーザーたちから高い評価を得ることとなった。

Invoked Apps社のAlexaスキル(amazon.co.jpのサイトで「Alexaスキル」の「Invoked Apps」でワード検索すると一覧できる)


環境音スキル

シュワブ氏が提供している環境音スキルは、「環境音 : 雨」や「環境尾 : 海洋」「環境音 : 小川のせせらぎ」など、心を落ち着かせる音を再生するスキルが48種類ある。また、それらのいくつかをセットにしたパッケージ・スキルを「周囲の音」や「リラックスした音」などの名称で用意していて、それらを合わせると55スキルになる。
例えば、パッケージ・スキル「周囲の音」ではさまざまな環境音をランダムに再生して楽しんだり、雷雨、雨、海洋、小川のせせらぎ、暖炉、飛行機、扇風機、首振り扇風機、列車、コオロギの鳴き声、カエルの鳴き声などの環境音をユーザーが選択して聴くことができる。リラックスしたいときにBGMとして使うのもいいし、周囲の騒音に悩んでいるとき、睡眠導入や快眠、瞑想などにも便利に利用できる。


【環境音スキル】
「アレクサ、環境音 雨 を開いて」と話しかければ、「雨」のスキルが起動し、
「アレクサ、周囲の音 を開いて」と話しかければ、Alexaがあなたの聞きたい音を尋ねます。
日本語対応のスキルもあるのでぜひ使ってみよう。

■動画 「環境音 : 雨」(サウンドループ)のデモ


スキル内課金でマネタイズ

では、これをどのようにマネタイズしているのだろうか。
スキル内課金はAlexaでは有料の「プレミアム会員」と呼ぶが、プレミアム会員になると例えば、次のような機能がスキルに付与される。

プレミアム会員特典:(「周囲の音」の場合)
+ 2つの環境音(サウンド)をミックスできる(1000通り以上の組み合わせ)
+ 多数のサウンドがプレミアム音質になります
+ ループ機能の強化(1時間ごとではなく、4時間ごとのループ)

ユーザーが「プレミアム会員」へアップグレードする手順を行ってみた。
移行の操作は音声だけで、とても簡単なことがわかる。また、実際に無料のスキルで再生される音と、プレミアム会員向けの音を聴き比べてみると明らかに高音質になっていることがわかる。

■動画 アプリ内課金(プレミアム会員)はとても簡単、やってみた

■動画 ふたつの環境音「海洋」と「雨」を同時に再生する(プレミアム会員)

なお、スキル内課金の金額については日本の場合、149円~299円の幅がある。例えば、環境音1種類を購入する場合は149円、「海洋」と「雨」のように組み合わせるタイプでは299円となる。


マネタイズの方法は3つ

シュワブ氏は講演の中でスキルのマネタイズの方法について次のように語った。

「スキルをビジネス化する、マネタイズの方法は3つあります。ひとつは「消費型スキル内課金」です。米国ではゲームのヒントを99セントで購入したり、音声クイズスキルの問題の選択肢が4つあるものを2つにするといった特典でマネタイズしているものもあります。ふたつめは「買い切り型」です。購入するとクイズの出題数が増える「クイズの拡張パック」などがそれで、コンテンツを追加で買うことです。そして3つめが「サブスクリプション」です。月額で課金が行われます。AWSへの経費、ランニングコストもかかるので、ビジネスとしてはサブスクリプションがいいと感じました。収益の70%が開発者に入ります」

スキルでマネタイズする方法は大きく分けて3つ

更にシュワブ氏は「具体的な売上金額を申し上げることはできませんが、急激に伸びていて、2019年の5月から11月で300%も成長しています」と続けた。

毎月の経常収益の伸び。2019年5月から11月で約3倍に伸びている

Amazon Echoには様々なデバイスがあります。音声だけでなく、画面付きのデバイスも発売されていて、私のスキルのユーザーのうち15%が既に画面付きのEchoを使っています。それらのデバイス向けに最適化することが重要です。画面付きデバイスで再生するときは背景画像を表示するようにしています。今後は動画を取り入れたいと思います。暖炉の環境音を再生するときは暖炉の映像が再生される、などです。

環境音ユーザーの15%が画面付きデバイスを使用しているという

ロボスタではシュワブ氏に単独インタビューする機会を得た。人気のスキルを開発する秘訣や課金コンテンツのアイディア、スキル・ビジネスの成長等について聞いた。



人気のスキルを開発する秘訣

編集部

いきなり核心の質問なんですが、人気のスキルを開発する秘訣を教えてください

シュワブ氏

まず、私が提供するスキルがユーザーにとって「問題を解決するもの」であったことでしょう。リラックスしたい、うるさくて眠れないといった悩みの解決です。次に「シンプルな操作」です。スキルには簡素なインタフェースが求められます。スタート、ストップ、ループのオン/オフ、このくらいで操作できるシンプルさが重要です。また「ワンショットスキル」であることも重要です。つまり、ひとつのことを、すぐに簡単にできることです。たくさんのことができる必要はありません。操作性もシンプルではなくなりますからね。最後に「わかりやすい名前や見つけやすい名前」です。スキル名はレインサウンド(雨の音)です。わかりやすいでしょう(笑)



スキル内課金のヒントはユーザーレビューにある

編集部

無料と課金の差別化はどうやって決めたのでしょうか

シュワブ氏

無料スキルとプレミアム会員特典をどのように分けるかはユーザーレビューにヒントがあります。無料のスキルで提供すると、レビューにさまざまなコメントがもらえます。例えば「レインサウンド」の場合、ユーザーレビューに「1時間ごとに再生が終了するのは嫌だ。もっと長くしてほしい」「雨と波の音を同時に聴きたい」「コオロギやカエルの鳴き声が聴きたい」「雨の音がベーコンを焼いている音みたいだ」といった声がありました。
そこでプレミアム会員特典は4時間のループで聴けるようにしました。更に雨と波や、雨と風の音を同時に聴けるようにしよう、と考えました。そして、”ベーコンを焼く音”に聴こえてしまわないよう、プレミアム会員特典は50%高音質のものを用意しました。

編集部

アプリ内課金でアップグレードする割合はどれくらいでしょうか

シュワブ氏

プレミアム会員になってくれる人は約2%です。無料版を含めて1人あたりにかかる運営コストはだいたい1セント程度です。全体のユーザー数が多いのことあり、2%がプレミアム会員になってくれることで十分にビジネスになります。
米国では、ブラックフライデーやサイバーマンデー、クリスマスシーズンなど、デバイスがたくさん売れる時期が何度かあります。デバイスが手に入れば何かやってみたいということで、そのタイミングでスキルの需要も急激に高まり、課金ビジネスが伸びます。それを繰り返しながら成長していっていると感じています。米国に限らず、海外諸国でスキルの課金ビジネスは毎月急激に成長しています。サブスクリプションの会員もどんどん増えていると実感しています

編集部

日本では米国に比べるとスマートスピーカーの普及率は低く、今はまだスキルや音声テクノロジーがビジネスとして急激に立ち上がっているとは言えない状況です。この状況について考えを聞かせてください。

シュワブ氏

スキルビジネスが普及するのには2つの要素が必要だと感じています。ひとつは高品質のスキルを開発するデベロッパーとそのコミュニティが増えること。日本はドイツと似ていて、音声テクノロジーについては米国とは異なる文化だとか感じています。米国のように普段から音楽との親和性が高まるように、教育を含めて社会全体で啓もうすることが有効だと思います。音楽や音声テクノロジーのある生活が快適だと一度理解されれば、それがきっかけになって普及していくだろうと思います。
ただ、私がこのビジネスに参入したときも、米国ではまだスキル・ビジネスは立ち上がってはいませんでした。私自身も初期の段階ではじめていたからこそ時流に乗り、ビジネスとしても軌道に乗ったのです。だから、日本は今が絶好のチャンスだと感じています。

編集部

とても参考になります。ありがとうございました。最後に日本のデベロッパーにひと言、メッセージを頂けますか

シュワブ氏

デベロッパーの皆さんはそれぞれパッションを持って取り組んでいる分野をお持ちだと思います。その分野において欲しいスキルがあればすぐに開発し、どんどんと市場に出して欲しいと思います。パッションを持って開発したものほど高いクオリティのものになり、ユーザーに受け入れられるものになるでしょう。躊躇することなく行動を起こしてください、これが私からのメッセージです

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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