ソフトバンク傘下の電気通信事業者、Wireless City Planning株式会社は、ソフトバンクが研究教育用に開発しているロボット「Cuboidくん」を使用して、オフィスビルでの「巡回・見守り」「荷物の配達」を行うデモンストレーションを報道向けに公開した。中でも特に注目すべき機能は、ロボットとエレベータの連動。ロボットがエレベータと通信して自律的にフロアの移動を可能にしている。
Wireless City Planning(以下、WCP)は、総務省の「令和元年度予算IoTの安心・安全かつ適正な利用環境の構築(IoT利用環境の適正な運用及び整備等に資するガイドライン等策定)に係る委託先」に選定されている。その施策の中、パートナー企業と協力し、東京都千代田区と神奈川県鎌倉市で「自律走行ロボットエレベーター連携実証事業」を実施している。
「Cuboidくん」を使って各種通信とエレベータ連動を実証
具体的には、オフィスビルや高齢者施設などで、屋内型自律走行ロボットに巡回や配達業務を行うための実証実験で、特に通信とエレベータ連動についての検証が行われている。
ソフトバンクが開発している「Cuboidくん」は、LiDARや人感センサー、RGBカメラ、超音波ソナーを搭載したロボット。
■Cuboidくん 動画
あらかじめマップを作成しておくことで、SLAMによって自律走行できる。また、実証実験ではさらにLTE、Wi-Fi、LPWA(CAT.1)といった複数の通信(インターフェース)が設置されている。
ROS(Robot Operating System)がサポートするデバイスを37cmの直方体に組み込み、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping:自己位置推定と環境地図作成)、自律走行が可能なロボット。
筐体はホームセンター等で入手できるアルミフレームの組み合わせのため、加工や交換が容易。
構成するデバイスはCOTS(commercial off-the-shelf)の組み合わせ。故障しても代替品やアップグレード品が容易に入手できる。
主な仕様
幅 : 37 cm
奥行 : 37 cm
高さ : 67 cm
重量 : 60 kg
速度 : 0.4 m/秒(最高速度 0.8m/秒)
可搬重量 : 20 kg
価格 : 2,000,000円~ (基本構成, 税別)
https://www.signagekun.com/
人感センサーには、イスラエルのVayyar Imaging社製「vCubeJP」を採用。高周波を利用したレーダーイメージ3次元センサーの一種で、呼吸などに伴う人間特有の動きで人を検知する特徴を持つ。カメラなどに対してプライバシーに配慮でき、暗所でも安定した検出が可能な点を評価した。
実証実験では、通信のカバレッジや実効速度などの電波環境の測定・分析を行い、利用状況に適した通信方式を検討する。また、ロボットの制御、監視、ロボットとエレベータなどインフラとの通信、センサーでの環境情報取得などに最適な通信規格やその組み合わせを検証する。
そして、研究開発の最も目玉となるのが「ロボットの自律的なエレベーターの乗降や複数階にまたがった自律移動の検証」となる。
ロボットが自律的にエレベータを呼ぶ
清掃ロボットや警備ロボット、配達ロボットなどの導入が進められている一方で、ロボットは自律的にフロアを移動することが困難なため、現状で普及のための課題となっているのが、ロボットとエレベータとの連携だ。
今回の実証実験では、三菱電機ビルテクノサービス機器のI/F装置と同社のエレベータが連携したシステムと通信することで、階層フロアの移動を実現している。
今回、3つの通信方式を搭載してするのはそれぞれの方式の利点を検証するためだ。各フロアごとにはWi-Fiを中心に通信を行うが、電波が届きにくいエレベータのカゴ内は通信速度は遅いが広域をカバーするLPWAを試している。検証の結果、帯域の狭いLPWAでも十分にカゴ内のロボットとの通信と制御が可能だったことを成果としてあげた。また、今回の物件ではLTE(4G)でも、エレベータ内を含めて安定した通信が可能であることも確認できた。
同社はこうした実証実験で培ったノウハウをもとに、2020年度中に実用化に踏み出したい考えだ。そのひとつとして、竹芝に建築中のソフトバンク新社屋での導入を予定している。
エレベータと連携した配達のデモンストレーション
当日はWCPによる実証実験の概要、システムの説明、デモンストレーションが行われた。実証実験で想定されているロボットの業務は前述のように「巡回・見守り」と「荷物の配達」。デモンストレーションでは、地下階で荷受けし、タブレットでロビー階の受付を目的に指定すると、ロボットが自律的に動き出し、エレベータを通信で呼び、自動で乗り込んでロビー階に移動、受付まで自走して荷物を届ける、という内容だった。
■ロボットがエレベータと連携して別フロアに配達
現状では個別のエレベータとの連携のみ
現状では個別のエレベータに限定したシステムとなっているため、今後は複数のエレベータとの連携、同社製の他のエレベータ機種の対応など、段階を追って対応範囲を拡大していく必要がある。また、一般的にロボットとエレベータとの連携を普及させるためには、既存のエレベータに対して、ロボットが連携できる装置を後付けにして対応できるキット形態のものが望まれるだろう。それにはオープンプラットフォームによる標準化が求められることになる。
こういった課題はあるものの、実用化に近づくための研究や実証実験は有意義だ。また、エレベータのカゴ内は電波が届きにくい等の課題があるため、実証実験を積み上げることでノウハウが蓄積されていく。今後の動向を引き続き注視したい。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。