池袋駅南口から徒歩2分、養老乃瀧「一軒め酒場」内に、ロボットがお酒を入れて楽しく接客してくれる「ゼロ軒めロボ酒場」がオープンした。楽しくて居心地のいい空間をロボットが演出する。2020年1月23日(木)から約2カ月、実証実験として行われ、ロボット・システムの開発はQBIT Roboticsが担当した。
QBITの接客ロボットサービスは、上島珈琲(UCC)と提携して運営しているロボットカフェ、JR東日本スタートアップと大宮駅で実証実験を行ったロボットパスタに続く3ケースめとなり、居酒屋での導入は初となる。
今回の記事ではロボット酒場を実際に体験してみた。作業の流れやAIによる接客など、詳細に解説したい。また、注文のスキャンから完成までをワンショットで撮った動画も紹介する。
5種類のメニューからロボットがお酒を用意
「ゼロ軒めロボ酒場」のメニューは生ビールやサワーなど全5種類。ロボ生ビール、スコッチハイロボール、ロボレモンサワー、白加賀でつくったロボ梅酒ソーダ、ロボと泪とカシスとソーダ、桃色ロボ想い・・など、ロボ感たっぷりの名称がつけられている。
ロボットが作るドリンク提供までの時間は生ビールが約40秒、その他サワー類等が100秒となっている。
商品の価格は1杯500円。養老乃瀧「一軒め酒場」より量がやや多く、割安に接待されている。
商品のチケットはレジで購入する。QRコードのチケットになっている。
コーヒーは券売機で購入する方式だが、今回は酒類なので、レジのスタッフが未成年者ではないかをチェックするしくみを取り入れている。
購入したチケットをコードリーダーにスキャンする(一度スキャンしてロボットに注文が通るとコードは無効になる)。
注文されたお酒をロボットが作り始める。
ビールはロボットがビールサーバにコップをおいて注ぐ作業のみなのでシンプル。40秒でできあがる
できあがったビールを受け取る。
ビール以外のハイボール、レモンサワー、カシス、ピーチ、梅酒類はアイスやソーダを混ぜてロボットが作るので100秒ほどかかる。もちろん、その作業を見ているのが楽しい。
ソーダを加えた後、仕上げはマドラーで、クルッとひと回し。
作っている間も、ロボットは顧客にいろいろと話しかけてくれる。ここにもポイントがある。
ロボットの接客会話は上達する
QBITの接客ロボットサービスで、エンタメ機能としてポイントとなるのは、顧客の動きや表情を読んで、その反応から接客に適した会話を学習していく点だ。ロボットの上部には左右4つのカメラが設置され、性別や年齢層など顧客の属性を解析する。
カメラの映像からゾーニングをして、人の移動を判別する。来店客がロボットに近づいてくれば「いらっしゃいませ」、離れていく場合は帰る人と判断して「もう一杯飲んでいきませんか」という声掛けも可能だ。また、性別や年齢層に合わせておすすめのお酒の種類を変えることもできる。
さらに現在の天気の情報なども加味して、最適と行われる会話シナリオで接客を行う。顧客が笑ったことを認識すれば、ロボットは自分がいま話した会話は顧客を喜ばせることができたと判断してその会話のスコアを自律的に引き上げる。会話すればするほど、経験を積むほど、精度が上がっていくしくみを取り入れている。
いつも驚かされるのが、接客ロボットの動作にはカメラ(ビジョン)を一切使っていないことだ。コップを掴んだり、お酒を注いだり、マドラーをつまむのに映像解析を使わず、正確な動きでこなしている。そのためには、コップをとるときに次のコップの位置がずれてもきちんと元の位置に戻るしくみや、マドラーを返却するときにも元の位置に寸分違わず戻す工夫がされている。
QBITの接客ロボットサービスの導入費用は。今回のケースで約1千万円前後。
今までの実績で言うと、三宮で行われているコーヒーを淹れてくれるロボットの場合、エンタメ効果で月間、数千杯の規模で販売個数がアップしているという。エンタメ効果による集客や売上アップは期待できそうだ。
■ロボット酒場の動画
人手をかけずに最大のエンタメ効果
初日となる本日23日、「ゼロ軒めロボ酒場」オープニングレセプションが行われた。
養老乃瀧の取締役の土屋氏によれば、「ゼロ軒めロボ酒場」の狙いは2つあるという。ひとつは「人手不足」の問題。もうひとつは「笑顔の集う場所としての価値の提供」だ。
QBITの接客ロボットサービスは、ロボットが注文を受け、ドリンクを作って提供するため、ホールスタッフを追加せずに運営できる。実際に「ゼロ軒めロボ酒場」の開店(ロボットの導入)にあたっては、スタッフが必要な作業は毎日の開店・閉店時と飲料等の補充のみ。0.1~0.3人程度で運営が可能とみている。ロボットがお酒をつくり、来店客と楽しい会話を交わすことでエンタテインメント効果は大きいと期待する。
更に、経済産業省による「ロボット実装モデル構築推進タスクフォース」が立ち上げられ、外食産業の現場でも革新的な取組みが展開されていく。今回のような社会的実証実験を行うことで、課題の改善に繋がる糸口にしたいとの考えだ。
QBIT Roboticsは産業用ロボットをサービス業への活用に応用してきた。CEOの中野氏はロボットと人が協働する時代は必ず訪れる、ロボットのエンタメ性を活用した新しい体験を提供したいと語り、「養老乃瀧様と共にロボット酒場の先駆者として外食業界全体の生産構造改革に寄与したい」とした。
人手不足の解消には、ロボットによる自動化が期待されている。どのような展開へと進むのか、今後の動向から目が離せない。
▼ 『ゼロ軒めロボ酒場』概要
期間 | 2020年1月23日(木)~3月19日(木) |
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場所 | JR池袋駅南口 徒歩2分「一軒め酒場」店内(東京都豊島区西池袋 1-10-15 1F) |
名称 | ゼロ軒めロボ酒場 |
営業時間 | 8:00~24:00 (ラストオーダー 23:30)*1月23日のみ17:00~ |
メニュー | ● ロボ生ビール ● スコッチハイロボール ● ロボレモンサワー ● 白加賀でつくったロボ梅酒ソーダ ● ロボと泪とカシスとソーダ ● 桃色ロボ想い |
価格 | いずれも一杯500円(税込) |
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。