株式会社パソナと合同会社DMM.comは「Makers Future Program 第6回セミナー Makersたちが語る“Food Roboticsの未来”」と題したセミナーイベントを共同開催した。会場は「DMM.make AKIBA」。
登壇するメンバーは「たこ焼きロボット」や「ソフトクリームロボット」を既に実践投入しているコネクテッドロボティクスの沢登氏、唐揚げやミニトマト等を上手につかむロボットを開発しているアールティの中川氏、下膳ロボットを開発中のスマイルロボティクスの小倉氏の3名で、モデレーターはサイエンスライターの森山和道氏がつとめ、飲食業界の自動化ロボットの最前線を語った。
飲食業界の課題と自動化
今回のテーマは「Food Robotics」。飲食業界では慢性的な人手不足が続いている。パソナは「人材紹介の枠に捉われず、モノづくり企業の更なる発展と、そこで働くエンジニアの人たちが活き活きと毎日を送れる社会の実現に貢献していきたい」として飲食業界の人材育成や人と人とのネットワーキングの場を提供することへの意欲を語った。
人材育成や紹介が重要なことはもちろんだが、少子高齢化が更に進む将来のことを考えると、ロボットによる自動化を望む声が大きい。飲食業界では調理するロボット、配膳/下膳ロボット、生産工場で働くロボットなどが想定されている。では、実際のところ飲食業界向けのロボットや自動化はどこまで進んでいるのか。市場はすぐに起ち上がるのか、注目を集めている分野となっている。こうしたことを背景に3社のロボット開発メーカーと、サイエンスライターによる「Food Roboticsの未来」セミナーが企画された。(各社とも現在エンジニアを募集している)
物流・農業・調理が面白い(森山氏)
森山氏は「ロボットの存在は「設備」から「道具」に切り替わっていて、自動化の対象や規模が拡がっている」ことを指摘した。従来の産業用ロボットは床に固定され、(安全のため)人の立ち入りを制限した囲みの中で使用されてきたが、時代は「協働ロボット」へとシフトし、人とロボットが同じ場所で一緒に安全に作業できるロボットが求められるようになった。使用される環境が拡がっている理由は、ロボットの進化も関連している。人間でいう「目」と「手」と「足」が進化することで、ロボットができることが増えているためだ」と続けた。
森山氏は「今、どの分野のロボットが面白いですか?」と質問された場合、「物流・農業・調理が面白い」と答えているという。特に「調理」には「工程管理」があって、それがロボットと相性が良い由縁だという。
フードテックとして飲食産業を広く対象とした場合、食品加工、調理、配膳、下膳、洗浄・片付けといった工程があり、それぞれの領域でロボットによる自動化が研究・開発されている。
森山氏は「食品工場、中食業界、外食業界など各領域で自動化が進んでいるが、今後は店舗全体を最適化する統合システムが登場、さらに進めばサプライチェーンを最適化するプレイヤーが登場し、プラットフォーマーと呼ばれるようになる」と予測した。
森山氏はトマトのピッキング(ハンドリング)、食肉加工ロボット、食品箱詰め装置、餃子ロボット、パン生地を焼き型に入れるロボット、モンブランケーキの製造ロボット、即席麺用のチャーシュー供給ロボット、懐石料理を配膳するロボット、自動追従型の搬送ロボットなど、フードテック関連ロボットとその事例をいくつか紹介した。既に様々な形で自動化が進められていることに、参加者の多くが新鮮な驚きを感じたようだ。
食品工場、中食業界、外食業界
森山氏が指摘するように、フードテックとひとくくりで言っても、今回登壇した3社が狙う分野は実は異なっている。アールティは中食、コネクテッドロボティクスとスマイルロボティクスは主に外食分野にフォーカスしている。
更に具体的に言えば、アールティは弁当や総菜を箱詰めするような生産工場内で活躍するロボットだ。
コネクテッドロボティクスはたこ焼きを焼くロボットやソフトクリームを作るロボットなど、厨房で活躍するロボットだ。これらロボットは厨房ではあるものの、完全な裏方ではなく、来店客から作業が見える、比較的ホールに近い場所で”見せながら”働くロボットという位置づけ(食器を洗浄するロボットも発表している)。
スマイルロボティクスが開発しているのは下膳ロボットで、場所はホールではあるものの、来店客が帰った後の片付けを自動化しようというものだ。
衛生面への徹底した配慮が重要(中川氏)
株式会社アールティの中川氏は、自社の事業としては、教育現場でのアカデミックビジネスと、製造現場での「ラストワンハンド」を解決するロボットビジネスに主に注力していることを紹介した。
製造現場の中でもまずはフードテックにフォーカスし「Foodly」(フードリー)を開発した。自社開発した画像認識のAI技術を活用し、実務的にはとても難しい「ばら積みされた唐揚げ」や「ミニトマト」をトングを使ってピッキング、お弁当箱に収める様子を動画で紹介した。
中川氏はフードテックで最も重要なことのひとつに「衛生面への徹底した配慮」をあげている。「Foodly」も衛生面に考慮した工夫が導入されていて、料理によってトング類が簡単に交換できるしくみを取り入れた。また、産業用ロボットは人が触れたり近づくと、安全のために停止してしまうものが多いが(当然ラインも一時的に止まる)、「Foodly」は腕などが人とぶつかったり、つかまれたとしても、人を傷つけず、作業も中断しない機能も「協働」のひとつとして取り入れられている。
■ FOODLY PROTOTYPE 2019
コスト削減と同時に売上アップもねらえるロボット
コネクテッドロボティクスの沢登氏は「調理をロボットで革新する」というテーマで講演を行った。
コネクテッドロボティクスは前述のように「たこ焼きロボット(Octochef)」を開発した会社。画像認識を駆使して焼きあがっているたこ焼きや、ひっくり返していないたこ焼きを自律的に認識して調理を進めていく。
また、朝食ロボット「Loraine」(ロレイン)も開発している。たまごを割ったり、コーヒーを淹れたりを器用にこなすロボットだ。
あるいは「ソフトクリームロボット(Soft Serve Ice Cream Robot)」は、既に体験した読者もいるかもしれない。販売は既にはじまっていて、ポッポ等で稼働している。ほかには揚げ物を作るコンビニ向けの「Hot Snack Robot」。最終的には冷蔵庫から食材を取り出して、フライヤーで揚げて作るところまで自動化したい考えだ。
調理だけでなく、食洗器・ラッキングロボットや、シェフと一緒にハンバーガーを作る協働のシェフコラボロボットも開発中だ。
沢登氏は外食産業の市場規模は200兆円、コネクテッドロボティクスはそのうち4500億円をとりたいと、その可能性を試算した。飲食産業が抱える「課題」として、低賃金、過酷な環境、労働力不足、高離職率をあげた。ロボットの価格は年々下がっていて、人件費は上がっているので、やがてクロスして、ロボットの価格の方が安くなる時期がくるだろう、と推測した。また、ソフトクリームロボットなどは作業の自動化だけでなく、可愛さから「売上のアップ」も狙ったロボットだ。コストダウンは重要だが、それよりも飲食業のオーナーには「売上をアップさせたい」という思いがある。ロボットによって売上が上がれば導入するメリットを感じてもらえる、という言葉が印象的だった。
■コネクテッドロボティクスの調理ロボット
導入に当たってはロボットを一括購入してもらうのではなく、調理ロボットとシステムを月額課金で提供する「RaaS」(Robotics as a Service)の形態をとっている。ロボットは汎用ロボットメーカーからリースで導入し、コネクテッドロボティクスはソフトウェア開発やパッケージとして提供する。沢登氏は「調理業務で大変な作業部分を少しでも従業員から解放していきたい」「ロボットを販売・納入して終わりではなく、毎月アップデートをして飲食業向けの最高の製品を提供していきたい」と語った。
元「SCHAFT」のメンバーで飲食業界の自動化に挑む
スマイルロボティクスは、起業してから約半年のスタートアップ企業。メンバーは3人で、全員が東京大学の稲葉研の出身、あの「SCHAFT」(シャフト)の元メンバーだ。小倉氏はトヨタ自動車のロボット「HSR」の開発にも携わった経歴を持つ。技術力の高さはお墨付きだ。
現在は「下膳ロボット」の開発に注力しているという。自律移動して食べ終わった食器類をロボットアームで回収して下膳する。
小倉氏は、外食産業は二極化が進んでいると指摘する。サービス重視の高級店と、サービスは気にせずに超低コストを目指す店だ。小倉氏は「二極化は面白くない、真ん中が必要だ。家族で楽しく食事ができるファミレスなどがロボットを導入することで自動化と低コスト化をはかり、存続していけるようにしたい」と語った。
小倉氏は飲食店のオペレーション業務をキッチンとホールの2つに分類した場合、将来的にキッチンの自動化は専用機械が担っていくだろう(同社の技術が活かしにくい)と予測した。一方、ホールは顧客との接点となるのでお店としては拙速にロボット化を進めたいとは思っていない。ただ、ホールの業務でも「下膳」は顧客が帰った後の作業なので、ロボットによる自動化は適している、と分析している。
■ 下膳ロボットプロトタイプ
下膳ロボットは現在開発中で、2020年に本格的な実証実験を飲食店、ホテル、施設、病院等で行っていきたい考えだ。
なお、各社とも現在エンジニアを募集している。
ABOUT THE AUTHOR /
神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。