AIと人間で「漫画の神様・手塚治虫」に挑む「TEZUKA2020」の新作漫画お披露目イベントが講談社で開催された。AIと人間の協業によって、手塚治虫氏に迫る新作を作ろう、というプロジェクトだ。
イベントでは報道関係者向けにAIと人間の分業、トークセッション、本編の購読会が行われた。作品のタイトルは「ぱいどん」、2月27日(木)発売のコミック雑誌「モーニング」に前編が掲載される。(後編の掲載日は未定。3月19日に発表予定)。
AIはプロットとキャラクター(顔)を担当
「ぱいどん」の舞台は2030年の東京。進んだ管理社会に背を向ける男は記憶を無くしたホームレス、小鳥ロボットのアポロと共に事件を解決すべく立ち向かうストーリーだ。
お披露目イベントには、キオクシア株式会社 執行役員技術統括責任者の百冨正樹氏、手塚プロダクション取締役であり、手塚治虫氏の息子、手塚眞氏、AIのエキスパートとして慶應義塾大学理工学部教授の栗原聡氏が登壇した。
今回の作品はAIと人間の協業によるもので、ストーリーとマンガの書き起こしのほとんどは人間が行っている。AIが担当したのはまずは作品のプロット(設定と粗あらすじ)。
手塚治虫氏が描いた漫画のストーリーを学習したAIがプロットだけを提示。それを元にスタッフが検討しながらストーリーを作り上げた。
AIがプロットを作り上げるまで
AIがプロットを作るまでのプロセスはまさに、人間の努力のたまものだ。
(1970~1980 年代の短編作品が一番充実していると判断)
ブラック・ジャック(1973~1978 連載、1979~1983 不定期)
ザ・クレーター(1969~1970 連載、連作短編シリーズ)
ミッドナイト(1986~1987 連載)
メタモルフォーゼ(1976、短編集)
鉄腕アトム(1952~1968、アニメ 1963~1966、1980~1981)
AIが作った約130本のプロットの中から、特に興味深いものを人間が選定。このような奇抜なプロットに決まった。
キャラクター設定にNVIDIAのAIモデルを活用
もうひとつはキャラクターの顔の設定。
当初は手塚氏の漫画の登場人物を学習したAIに、顔のデザインを書き起こさせようとしたが、思い通りのデザインにはならず、異形の者のような顔ばかりになった。
そこで、NVIDIAが開発している人間の顔生成のシステムを応用。膨大な人間の顔画像を元にAIが人間の顔を生成する技術(おそらくGAN)のAIモデルをこのプロジェクトに活用することを決めた。
人間の顔生成システムに手塚氏の漫画のキャラクターを追加学習する「転移学習」を行うと、成果がみるみる向上。その中から「ぱいどん」のイメージにぴったりの顔を採用した。
AIが描いた顔の中から、No.81を「ぱいどん」に決定した。
■AIとロボットが描く「ぱいどん」の顔
多くの人たちの協力を経て、2月27日、いよいよ新作「ぱいどん」がモーニングで公開される。
■ Making Movie ©「TEZUKA2020」プロジェクト
ABOUT THE AUTHOR /
神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。