【速報】「駅そばロボット」が生そばを茹でる、洗う、締める!JR東小金井駅で人と協働する調理ロボットが稼働開始

駅にある立ち食いそば店や、そこで提供されるお蕎麦のことを「駅そば」と呼ぶ。中央線JR東小金井駅の構内にある駅そば店で、調理の一部を自動化する「駅そばロボット」がデビュー、実証実験がはじまった。JR東日本スタートアップと日本レストランエンタプライズ(NRE)が協力し、「調理ロボット」はコネクテッドロボティクスが開発した。
実証実験の期間は3月16日から4月15日まで。ひと月間、駅そばロボットが稼働し、安定した品質のお蕎麦をお客様に提供し続けることを目標に行われる。

実証実験で導入された「駅そばロボット」

ロボットは1時間あたり40食を提供する能力がある。店舗全体の約8時間分程度、従業員約1⼈分の作業量を代替する予定。


駅そばロボットが生そばを茹でる、洗う、締める

実証実験が行われるのは「そばいちnonowa東小金井店」。NREはJR東日本圏内に127店舗もの駅そば店を運営している。その中でも「そばいち」のメニューはお蕎麦類のみ、店内で茹で上げる本格「生そば」が特徴だ。実は駅そばの麺には「生麺」と「茹で麺」がある。「生麺」の美味しさは特筆すべきものがあるが、「茹で麺」に比べるとひと手間かかる。ロボットで自動化すれば、そのひと手間を惜しまず、上質のお蕎麦を来店客に提供できる。

実証実験が行われているのは「そばいちnonowa東小金井店」

赤羽や秋葉原、恵比寿など、8店舗を展開しているが、コネクテッドロボティクスのオフィスが東京農工大学 小金井キャンパス(東小金井)が近いことも考慮して、東小金井店で実証することになった。

人間とロボットが協働してお蕎麦をつくる

店内に入ると厨房内でロボットが働いている様子がすぐに目に飛び込んでくる。

狭い空間でも人とロボットが隣り合わせで仕事をする。協働ロボットの真髄

今回のプロジェクトでなにより難しかったのは、狭い厨房の調理スペースでロボットが作業し続けること。スペースは約70cm幅のシンク×1.5m程度。調理スタッフも同じ厨房の中でロボットと協働して作業することを前提に、人の動線の邪魔をしないことも念頭に設計した。

厨房内はこれだけのスペースしかない。この中でロボットと人が一緒に作業する必要がある


「駅そばロボット」が生そばを茹でる、洗う、締める!

スタッフが「てぼ」(網)に生そばを入れる。一度に3食分が作業できる「てぼ」が作られた。これを2つ用意して時間差で作業できるしくみがとられている。

スタッフが生そばをてぼに入れて作業開始

指示を受けたロボットは、てぼを持って茹で機に運ぶ。てぼの把持にはマグネットが使われている。


てぼを茹で機のお湯につけて加熱する

茹でる時間はお蕎麦の味や触感に影響するがロボットは正確だ。ディスプレイには残り時間や作業内容が表示され、スタッフが状況を把握しやすい。

作業状況や茹でる時間はタブレット画面で確認できる

茹であがったお蕎麦を持ち上げると

お湯を切る作業

茹であがった麺は、次に「洗う」(ぬめりを取る)工程に入る。茹で機の横の水を入れたシンクにつける。


ぬめりを取った後は、その隣の冷水に入れて「締める」工程を行う。これが一連の動作となる。お蕎麦を作る工程としてはこの後、スタッフが作業を引き継ぎ、おつゆやかやくを入れたりトッピングを追加する作業にすすみ、美味しいお蕎麦ができ上がる。

■動画


【駅そばロボットの概要】
そば調理の自動化
てぼに生そばを入れれば、あとはロボットが茹でる、洗う、締める工程を自動で行う。
並行処理による効率的な調理
継続的にそばを茹でる。2周分の調理工程を並行して実施でき、提供量も効率的に増やせる。
省スペースの機器構成
アームロボットを壁面に設置し、厨房機器上部からほとんどはみ出ず、狭い店舗でも導入できる。
センサーで自動稼働
三連てぼをセットするだけでロボットが動き出す。調理の進捗は画面で簡単に把握できる。


調理ロボットに期待するのは自動化と安定した味品質

NREの日野社長はロボットを導入する目的として大きく2つある、と強調する。
「ひとつは人件費の削減。しかし、それ以前に最近の外食産業はスタッフを募集しても人員を確保すること自体が大変な状況になっている。自動化を推進しないと、今後も安定して駅そばを運営していくのが困難になることが予想されている」という。もうひとつは味の安定性。「茹でる、洗う、締めるという作業は単純だが、時間の正確性が求められ、お蕎麦の味を決める重要な工程。調理ロボットは決められた時間通りに作業するので、バラツキかない安定した味のお蕎麦を提供できると考えている」と語った。

株式会社日本レストランエンタプライズ 代表取締役社長 日野正夫氏

将来は無人化を目指しているかと、報道陣の問いには「今回の自動化は茹でる、洗う、締めるの工程のみ。ほかにもおつゆを入れたりトッピングしたり、どんぶりを洗ったり、接客したりと、やらなければならないことはたくさんあるので、直ちに無人化を実現できるとは考えていない。自動化できることはさらに拡げていきたいが、まずはひと月間、安定して作業することが目標」とした。


開発期間は約3か月

駅そばロボットを開発したコネクテッドロボティクスは、たこ焼きロボット「Octo Chef」やソフトクリームロボット「レイタ」を開発した会社で、ハウステンボスやセブン&アイ・フードシステムズのイトーヨーカドー店舗内のフードコート「ポッポ」で実用化されている。今回、台湾のTechMan Robot製ロボットをベースに元にシステムを開発した。(関連記事「調理ロボット、飲食業界の自動化の最前線「Makersたちが語る“Food Roboticsの未来”」アールティ、コネクテッド、スマイルが登壇」)

コネクテッドロボティクス株式会社 代表取締役CEO 沢登哲也氏

ビジネスプランと企画で約3か月、ロボットの開発期間も約3か月で、約半年で駅そばロボットを作り上げた。接触センサーや圧力センサーなど、多くのセンサーを使っている。カメラ(ビジョン)は搭載しているものの、今回「作業自体は単純な動きなので、ビジョンはほぼ使っていない」という。
実際の店舗での実証実験なので、万が一のトラブル時には、すぐにロボットを畳んで、人だけでお蕎麦を作れる環境にすることも考慮して開発設計を行った。


JR東日本スタートアッププログラムから生まれた

今回、駅そばロボットを仕掛けたのは、JR東日本グループのJR東日本スタートアップ株式会社だ。スタートアップ企業や様々なアイディアを有する企業から、駅や鉄道、グループ事業の経営資源や情報資産を活用した、ビジネス・サービスの提案をオープンに募る「JR東日本スタートアッププログラム」を行っている。3回目の2019年度は262件の提案が集まった。昨年12月に大宮でパスタロボットやAI利き酒などを展示して話題になった。(関連記事「ロボットパスタカフェや駅弁・スイーツの無人販売など最新技術がズラリ 「未来の駅」を大宮で体験」)

JR東日本スタートアップ株式会社 代表取締役社長 柴田裕氏

柴田社長は「駅や駅構内は、とても多くの人が集まり、行き交う場所。新しい試みをたくさんの人に体験してもらう機会を提供できるし、それだけフィードバックも多い。スタートアップ企業にとってPoCの場所として最適」と語る。
同社が開発を先導してきたプロジェクトに「無人AI決済店舗」(無人のキヨスク売店/無人コンビニ)がある。2年前、大宮から始まり、赤羽でのPoCを経て、ついに無人AI決済店舗の1号店が高輪ゲートウェイ駅に3月23日から常設オープンする(TOUCH TO GO)。同様にたくさんのスタートアップのアイディアやサービスが今後の実用化に繋がることを期待したい。


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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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