もしも、いま会話している自律型FAQやチャットボットが、自然な表情を持ち、まるで生きているかのように感情を表わすことのできたなら、ユーザーは「AIが共感してくれている」と感じたり、もっと安心感を持って接することができるのだろうか。ソウルマシーンズのデジタルヒューマン「サム」(SAM)がその答えの一端を示してくれるかもしれない。
会話の相手は「サム」完全自律型会話アニメーション
ユーザーの感情を表情等から認識し、新しいジャンルの完全自律型会話アニメーションプラットフォームが日本に上陸する。海外のスタートアップ企業「ソウルマシーンズ」(Soul Machines Co., Ltd.)が開発する技術だ。日本語対応版が報道関係者向けにデモ公開された。
近未来を描いたSF映画に登場するAIはしばしば、あたかも存在するかのような人間の姿をしている。SiriやAlexa、Googleアシスタントやその他多くの音声アシスタントやチャットボットが、もしも人間に似た顔を持っていて、会話の内容に合わせて表情を変えるとしたら、ユーザーはどのように感じるのだろうか?
落ち着く? 共感しやすい? それとも警戒する?
■動画
報道関係者向けに公開された会話システムでは、上記サムの女性が画面に登場し、日本語の音声会話でやりとりできた。
「ソウルマシーンズのこと」「技術的なこと」「音楽について(雑談)」などを会話してみた(デモでは選択式が基本)。「サム」はこのシステムが「デジタル脳」「デジタルDNA」「自律的アニメーション」という3つの革新的な最新技術で実現されていることを説明してくれた。
女性が回答するときは口の動きや表情が変化した。所感としては好印象、AIチャットボットが身近に感じた。また、この会話の最中、サムはカメラを通じて私(ユーザー)の表情を見ている。私の表情に合わせてサム自らの表情も変わる。興味深いことに、サムの瞳の中に私の姿が微かに写ることがある。リアリティへのこだわりと言えるだろう。
ソウルマシーンズは次のように語る。
従来のチャットボットのような自動会話プログラムでは、これらのような高度な認知システムを駆使することは不可能と言われていました。
そんな中、ヒトと面と向かって話すことができるほどの個性と性格を持つ、人工知能の革新により、今後さらに懸念される人件費の削減や、業務効率化、また、COVID-19のパンデミックでセンシティブな傾向になりつつある対面接触の対策などの一翼を担う存在になると期待が寄せられています。
たとえCGでも相談しやすいキャラクター性が必要
サムの認知システムは、感受性や共感力といった普遍的なヒューマンスキルが組み込まれているという。すなわち、ヒトと対面で話すことができるほどの個性と性格を持ち、従来のチャットボットでは実現できなかった、共感や親しみ、安心感を感じることができるとしている。
この技術の有用性を分かりやすく例えると、警察署にチャットで通報したときを想定するとよいかもしれない。チャットの画面に警官を思い起こすユニフォームを着たデジタルヒューマンが登場し、応対してくれるほうがきっと安心する。会話の内容が相談なら明るい表情で出てきて欲しいし、緊急通報なら真剣な表情の方がいいだろう。
航空会社ならパーサーや受付担当者のユニフォームがいい。そして、それぞれの状況に応じて自分に親身になってくれる表情や、優しく相談乗ってくれる対応をユーザーは心のどこかで望んでいるに違いない。
国内では「SK-II」が導入へ
では、ソウルマシーンズはどんな会社なのか? 人工知能学、神経科学、脳科学、心理学、芸術、発達心理学の専門家メンバー達で構成されているという。サンフランシスコ、ロサンゼルス、ニューヨーク、ロンドン、メルボルン、オークランドなどに拠点を持ち、約130名の従業員がいる。そして今回、東京にオフィスを構えて、日本での本格的な事業展開を発表するに至った。
また「サムの国内導入は着々と進んでいます」という。
既に、高級スキンケアメーカーのSKIIが、国内で初めて導入を発表、2019 Cannes Lions Festival of Creativityで明らかにしている。
■ 動画 Soul Machines
過去にIBM Watsonともコラボ
ソウルマシーンズは実は2017年にIBM Watsonとコラボしたデモが公開されている。これは、このシステムがFAQシステムやチャットボットなどのシナリオベースのシステム部分は他社のものと連携できることを示している。既存のシナリオベースの会話システムがあれば、ユーザーに対面するインタフェースに、「サム」のような表情豊かなキャラクターを組み込むことができる。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。