大ヒットしたゲーム「パックマン」は1980年5月22日に誕生した。
NVIDIA Research(NVIDIA研究所)は最先端のAI技術「NVIDIA GameGAN」を使って、40周年を迎えた「パックマン」ゲームを新たに作り変えた。新「パックマン」は基本的なゲームのルールを記述した仕様書もプログラムコードもなく、ゲームエンジンさえないにも関わらず、従来のパックマンと同じゲーム体験をユーザーに提供する。
ごく簡単に言うと、AIは、たくさんの人が「パックマン」をプレイするのを横から見ていて、そのルールやしくみを高精度に模倣して、パックマンと同じ楽しさを体験できるゲームを作り出すことに成功した、というもの。オリジナルの「パックマン」ゲームの配給元のバンダイナムコリサーチの人でさえ、感心するほどのゲームの出来栄えだという(この記事の末尾に詳細)。
「GAN」とは
「GAN」はGenerative Adversarial Networksの略称で、日本では「敵対的生成ネットワーク」と訳されている。
画像認識や物体検出等に活用されている従来のディープラーニングでは、教師あり学習と呼ばれる正解ラベル(メタ)付きのビッグデータによる機械学習が主流だが、GANはそれとは異なる。GANは複数のニューラルネットワークが敵対し、お互いを騙すことを競って成長する生成モデル。生成ネットワーク「generator」と識別ネットワーク「discriminator」を用意し、「generator」が生成した画像等を「discriminator」が識別してダメなところを判定、それを受けてもっといいものを「discriminator」が作って「generator」が判定する。これを繰り返すと、AI同士は勝手に仕事の精度を向上していく。
これもあえて人間で例えると、騙す天才と見破る天才が競い合うことでお互いのレベルを高め合い、どんどん凄いものができていく、そんな感じだ。
GANの代表的なユースケースと生成モデルの例としては、実在しない人物の顔をAIが自動で生成する「StyleGAN」があげられる。たくさんの人物の顔写真が並べられた画像の下に「この人たちは全員実在しません、AIが作った顔です」といったキャプションを見たことがある人もいるかもしれない。あれがGANの実力だ。
「GameGAN」とパックマン
先日、グローバルで行われたGameGANのプレス向けオンライン・ブリーフィングには、NVIDIA研究所からRev Lebaredian氏(Vice President, Simulation Technology)とSanja Fidler氏 (Assistant Professor at University of Toronto/ Director of AI)が出席し、この新技術の解説と記者からの質疑応答が行われた。
発表のあった「GameGAN」はGANをゲームに応用したもの。GANを使ってコンピューターゲームエンジンを模倣したニューラルネットワークのモデルとしては世界で最初のものになる。
視覚的なスクリーンプレイとキーボードアクションを含めてトレーニングされたGameGANによって、約50,000件のパックマンのプレイデータから、パックマンのゲームそのものを生成した。画像内の静的なコンポーネントと動的なコンポーネントを判別し、動的なコンポーネントとキーボードアクションの関係性を理解する。新パックマンはプログラムコードはなし、ゲームルールの洗い出しもなし、基礎となるゲームエンジンなしで完全に動作するという。そしてもちろんそのゲームを人間がプレイして楽しむことができる。
ゲーム開発の効率化、ロボットや自律マシンのシミュレータへの応用など
パックマンのゲーム再生成だけを見ればAIが模倣したケースのひとつにすぎないと感じる人も多いかもしれない。しかし、今後はGameGANによって、まだ存在していない新しいゲームを生成できる可能性を示唆するものだ。更にはゲーム以外でも、自律マシンやロボット、自動走行などの分野でシミュレータに応用できる可能性もある。
NVIDIAのSeung-Wook Kim氏は「今回の研究は、GANをベースにしたニューラルネットワークがゲームエンジンを高精度にエミュレートできるかに挑戦する最初の試みでした。ゲーム内を移動するプレイヤーやコンテンツの動き、すなわち脚本を見るだけで環境のルールを学習できるかどうかにトライし、結果として成功しました」と語った。
バンダイナムコのコメント
オリジナルのパックマンを開発したバンダイナムコエンターテインメントの研究所であるバンダイナムコリサーチ社は「AIがゲームエンジンなしでパックマンのゲーム体験を再現できるなんて信じられませんでした。アイコニックなパックマンの楽しさを、ゲームエンジンなしでAIが再現できるとは思ってもいませんでしたから。しかし、プレイしてその結果に驚いています」とコメントしている。
この研究は論文として発表される。
ゲーム開発者が新しいレベルのレイアウト、キャラクター、さらにはゲームを開発する創造的なプロセスを加速し、開発を効率化する可能性を提示している。NVIDIA は今年の後半、研究結果のデモを直接体験できる形での公開を予定している。続報は「AI Playground」にて掲載される。
■ 詳細は下記のページを参照
NVIDIA blog: https://nvda.ws/2TlDMv0
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。