京浜急行電鉄(京急)は、スタートアップとのオープンイノベーションにより新規事業の創出を目指す「KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM」(京急アクセラレータープログラム)を実施している。ベンチャー企業の支援で知られるサムライインキュベートと共同のプログラムで、今回は第3期を迎える。第3期の傘下企業を発表するオンライン記者発表会を開催した。
92社のスタートアップ企業が応募し、10社が採択され、発表会では各社が約2分程度のプレゼンテーションをそれぞれ行った。
ロボスタ読者にお馴染みの企業としては、SEQSENSEとMira Roboticsが選ばれた。
京急とスタートアップ各社の共創によりイノベーションを加速
このプログラムは「リアルとテクノロジーの融合によって、新しい顧客体験を生み出す事業共創プログラム」となっている。 今回は、新型コロナ騒動によってスケジュールがやや遅れたが、新型コロナによって社会情勢が大きく変化したことに伴って「ニューノーマル」に併せたイノベーションを創出していくことになる。
ただし、登壇した京急の橋本雄太氏(上画像)は「もともとモビリティ業界は100年に1度と呼ばれる変革期を迎えると言われてきた。それに合わせて京急も準備をしてきた。新型コロナによって多少の変更はあるものの、社会が大きく変わることには変わりない。“withコロナ”“afterコロナ”時代に合わせて新たなモビリティとライフスタイルを生み出すイノベーションが加速する、と考えている」と語った。
92社の中から10社を採択
今期のテーマは「1.沿線地域にこれまでにない新しい体験を付加するもの」と「2.既存事業領域をデジタル・テクノロジーでアップデートするもの」の2つの方向性で、6つのテーマ領域で昨年12月より事業共創提案の募集を開始した。
92社が応募し、書類審査、数度の面談審査を経て、計10社のスタートアップを選出、今回のプログラム参加企業として、京急グループとの事業共創を今後進めていくことになる。
【プログラム参加企業(10社)】
株式会社AIトラベル
株式会社Elaly
株式会社COUNTERWORKS
Carstay株式会社
SEQSENSE株式会社
株式会社シナスタジア
株式会社JX通信社
scheme verge株式会社
Mira Robotics株式会社
株式会社Liberaware
※参加企業の事業内容は記事の後半で。
社会実装への高いコミット
京急は品川や横浜、羽田空港、三浦半島を結ぶ鉄道路線で知られている。鉄道だけでなく不動産や宿泊、観光施設など、手掛けている事業分野と地域、場所は多岐に渡っている。スタートアップ企業にとっては、これら実証実験の現場を得ることで、サービスや製品のテストや改良を加速できる明確なメリットがある。
多彩な事業部門・グループ会社との共創プロジェクトによりサービスの社会実装が具体的に進められる。
前回の第2期の採択企業は5社「1年以内にすべての企業が実証実験(PoC)を実施し、うち4社とは具体的な協業を継続中で、正式なサービスリリースや導入実績が4例を超えた」(橋本氏)と語った。
警備分野のアバターロボットが選出
SEQSENSEとMira Roboticsはどちらも遠隔操作による警備ロボットを展開している。プログラムとしては分野が被るサービスとなる。
それについて、どのような切り分けで分担するのかを京急に質問したところ、「どちらも警備分野での遠隔ロボットだが、強みが異なっていると考えている。シークセンスはLiDARを用いた空間認識能力が高く、空間をDX化するという取り組みに長けていると評価している。街全体の空間をデジタル化することで最適なサービスが新たに生まれ来る、といったことに繋げられる可能性がある。一方、ミラロボティクスは腕を使った作業ができる汎用性の高いロボットだと感じている。警備特化ではなく、消毒・除菌などマルチタスクをこなしてくれると思う。将来的には家事の代行なども展開できるのでないかと期待している」(橋本氏)と、将来への抱負を含めて回答した。
センシングとXRで新体験
もうひとつ興味深かったのはシナスタジアのXRサービス。車両の位置情報、乗客の位置情報、センシング技術を組み合わせた新しいモビリティ&コンテンツ体験を提供する。例えば京急の観光バスに搭乗する乗客がVRゴーグルを使って仮想空間を体験するコンテンツなどが考えられる。
具体的なアイディアを質問したところ「横浜の名所をめぐる観光バスを例にした場合、観光名所に合わせて観光情報コンテンツを流したり、観光体験を拡張するようなコンテンツを考えていきたい。今、まさに議論しているところで例えば、横浜のオープントップバスとの連携も面白いのではないか」(シナスタジア)と語った。また「新型コロナの影響が長引いて博物館などが休館している状況になった場合、博物館の前でバスに乗ったまま館内の展示品を映像コンテンツで楽しむといったアイディアにもつながる」とした。
選択されたスタートアップ企業の情報
株式会社AIトラベル
法人向け出張予約・管理・分析可能なクラウド型サービスの開発提供
https://aitravel.cloud
株式会社Elaly
人気家具ブランドの商品を月額500円から利用できる定額利用サービス
http://elaly.co.jp
株式会社COUNTERWORKS
リテール向けスペースのオンラインマーケットプレイスの企画・運営
https://www.counterworks.jp
Carstay株式会社
キャンピングカーを通した「移動」「宿泊」などを検索・予約・決済を提供
https://carstay.jp/ja
SEQSENSE株式会社
自律移動型ロボット及びその関連製品の開発製造
https://www.seqsense.com
株式会社シナスタジア
XRエンターテイメントの提供自動運転車におけるヒューマンマシンインタフェース開発
https://synesthesias.jp
株式会社JX通信社
自然言語処理/機械学習等の技術で報道機関/一般消費者にニュース関連サービスを提供
https://jxpress.net
scheme verge株式会社
MaaSを基盤とした旅程作成・予約アプリ、 事前決済・簡易認証プラットフォーム開発
https://www.schemeverge.com
Mira Robotics株式会社
警備・清掃が可能な双腕ロボットおよびシステムの開発
https://mirarobotics.io
株式会社Liberaware
狭小空間の点検・警備・計測を行う産業用小型ドローンIBISの開発・提供
http://liberaware.co.jp/index.html
ABOUT THE AUTHOR /
神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。