最先端領域の研究や社会的意義の大きい研究に取り組む学術機関に支援を行っている「公益研究基盤機構」(以下PPRP)が「東大発ベンチャーカオスマップ 2020年版」を発表した。
このカオスマップには東京大学の研究室の成果を事業化する目的で創立されたベンチャー企業を中心に、67社を掲載。
PPRPは、このカオスマップを通じて外部に大学発ベンチャーの存在をアピールし、大学の研究成果が社会に還元され、学術研究者が正当な評価を受けられる社会の実現を目指すという。
「東大発ベンチャーカオスマップ2020年版」の解説
今回のカオスマップでは、総勢67社の東大発ベンチャーをAI・ロボティクス・モビリティ・医療・バイオ・エネルギー・教育・その他の8つの分野に分類。
既に一定の業績をあげている企業から創業して間もない企業まで広く掲載されている。
ロボスタ読者が特に興味を持ちそうなAI部門では、
・株式会社DeepX:建機を始めとした様々な機械の自動化
・株式会社ACES:画像解析をベースとしたDX推進
・NABLAS株式会社:KaggleのMasterクラスが3人在籍するAI総合研究所
といった東大松尾研発ベンチャー企業をはじめ、数多くのベンチャー企業が名を連ねている。
音声認識・機械翻訳・音声合成・スマートスピーカーなど、音声技術でたびたびロボスタのニュース記事にも登場する「フェアリーデバイセズ株式会社」もおなじみだ。
また、ロボット部門では
・株式会社MUJIN:産業用ロボットのモーションプランニングに定評があり調達金額が75億円に達した新進のロボットベンチャー
・スマイルロボティクス株式会社:元SCHAFT incのCEO率いるロボティクスカンパニー。人共存型モバイルマニピュレーターを開発
・コネクテッドロボティクス株式会社:様々な種類の調理ロボットシステムの開発
・BionicM株式会社:自然な動きを実現する小型かつ軽量な高機能義足を開発
・株式会社 FullDepth:様々なインフラの点検などに利用できる水中ドローン(ROV)の開発
などロボスタでよく見る企業も挙げられている。
また、バイオ部門の「Green Earth Institute 株式会社」、エネルギー部門の「エクセルギー・パワー・システムズ株式会社」といった、東京大学エッジキャピタル(U-tech)からの出資を受けながら、急速に事業拡大している企業も見受けられる。
なお、大学とベンチャーの間は様々な形でつながっているが、今回のカオスマップでは、「大学で達成された研究成果にもとづく特許や新たな分析、ビジネス手法を事業化する目的で創立されたベンチャー」(研究成果ベンチャー)を中心に取り上げているとのことだ。
公益研究基盤機構と、カオスマップ制作の背景
公益研究基盤機構(PPRP)は、日本国内で最先端領域の研究や社会的意義の大きいとされる研究に取り組む学術機関に対して、総合的な支援を行う一般社団法人だ。
研究者が自身の研究に打ち込むことができる環境を構築すると共に、研究成果が正当に評価され、社会へ還元される仕組み作りをしたいという想いを抱く東大・京大出身者が集まり、運営している。
PPRPのような団体が今回カオスマップを制作したのは、投資家・VCや民間企業をはじめ多くの関係者に大学発ベンチャーへの認知を広げていこうという強い動機がある。
日本の大学では生まれる発明が収益化されておらず、社会に実装されていないことが問題視されている。国内の特許の1件あたりのライセンス収入は米国の22分の1にとどまり、企業から大学への投資も海外に比べて小規模だ。
この状況下で学術活動やその成果を適正に評価・活用できなければ、優秀な人材が流出し、研究の土壌がさらに痩せ細るといった悪循環も懸念される。
しかし、これはあくまで一般的なイメージであり、東京大学発ベンチャーという視点でみてみると、バイオのユーグレナから、ITのグノシー、医薬のペプチドリームまで、幅広い業種で卒業生や在学生、教員たちが活躍する日本一の「起業家輩出校」となっている。
これは、東京大学がこれまで、長期に渡って大学発ベンチャーを支援するエコシステムを整えてきた成果だ。
そこで、学術研究の社会的意義、認知を広めていきたいPPRPとしては、このエコシステムを更に広げるため、今回は業績や成果物がキャッチーな「東大発ベンチャー」の存在を強くアピールするカオスマップを制作することで、今後社会からのサポートを広くうけていくための土壌を作っていこうとしているのではないだろうか。
実際、今回のカオスマップを見ると、様々な企業が有望そうな芽を伸ばしているのがわかると思う。
もし読者の中にベンチャーキャピタルや協業先を検討している企業の担当者がいるようなら、これらを情報は要チェックなのではないだろうか。