東日本電信電話株式会社(「NTT東日本」)は、バイオマスリサーチ株式会社と連携して、「畜産・酪農分野における持続可能な地域循環型エコシステムの構築」をコンセプトとした新会社を設立することを発表した。まずは家畜の糞尿をバイオガスプラントに入れるだけで糞尿処理を自動化するシステムや、牧畜の運用管理や保守を遠隔化し、IoT、AIで効率化をはかる。
新会社は「株式会社ビオストック」、本社は北海道帯広市。設立日は2020年7月1日を予定。資本金は1億円。出資の過半はNTT東日本で、NTT東日本のグループ傘下(連結子会社)となる。(冒頭の写真は、マスコミ向けオンライン発表会に登壇したビオストックの主要メンバー 熊谷智孝社長(中央)。両隣りはNTT東日本(左)、バイオマスリサーチ(右))
当面、帯広、札幌、東京、福岡の4拠点で運営。サービス提供は月額制のサブスクモデル。現時点では金額は未定だが、業者委託など手作業で運営するのに比較して、2割から5割程度の削減を見込んでいる。また、生成されたバイオガスはビオストックが買い取って月額と相殺するモデルも検討中。
ビオストックは、人手不足や悪臭に伴う近隣からの苦情など、畜産・酪農家が抱える悩みを解決するため、糞尿処理を大幅に省力化できるバイオガスプラント等の次世代畜産・酪農施設や、IoT/AIを活用したデータ駆動型畜産・酪農関連ソリューションを提供する。
NTT東日本のIoT/AI、通信、顧客サポート、バイオマスリサーチの農業・バイオマス、研究開発、農村地域とのネットワーク、がビオストックの強みとなる。また、牛舎や牧場の映像を遠隔から監視する業務などには、5Gを積極的に活用していく予定だ。
人手不足が深刻化する畜産・酪農業、課題も山積
国内の畜産・酪農家の数は30年間で1/3に減少している。畜産・酪農家にとって休日は月に1日強、労働時間は全産業の2倍と試算されている。1農家あたりに求められる家畜の飼育頭数が急拡大。また、家畜の頭数を増やしたいが人手不足、頭数を増やすことで糞尿の悪臭が増す可能性から、地域住民とのトラブル等の悩みが深刻化している。そのため、とりわけ家畜の糞尿処理にかかる稼働・費用や悪臭対策は大きな課題で、課題解決にはバイオガスプラントの設立が有効ではあるものの、個別の対応では費用が高値であることから自己資金・借入での対応が難しいのが実情だ。
このような背景を踏まえ、NTT東日本のICT技術と、バイオマスリサーチのバイオガスプラント分野のノウハウを掛け合わせた新会社を設立することで、地域循環型エコシステムの構築に取り組む考えだ。
具体的には、自治体・JA・畜産・酪農家・地域企業と連動し、安価なバイオマスプラントの提供を行う。また、ICTを活用した複数プラントの運用管理を通じて、畜産・酪農業の効率的な運営や、糞尿処理で発生したエネルギーの地域への還元などを目指していく。
主な事業内容
ビオストックは、ICTを活用した次世代畜産・酪農施設(バイオガスプラント等)の提供・運営を行う。
具体的には、バイオマスリサーチが独自に開発した小規模バイオガスプラントに、NTTグループのICTを活用したプラント遠隔管理システムを組み合わせる。それによって、これまで導入のハードルが高かったバイオガスプラントを畜産・酪農家が利用しやすい「初期コスト不要、月額利用型モデル(ビジネスモデル特許出願中)」で提供するという。
また、バイオガスプラントの運営を通じて、NTTアノードエナジーと連携しながら、バイオガスプラントから創出される再生可能エネルギーを活用。自治体・JA・畜産農家・地域企業とともに地域循環型エコシステムの構築に取り組む。
また、データ駆動型畜産・酪農関連ソリューションの提供も行う。
糞尿処理以外の営農業務についても、遠隔で人手を介さない姿を実現していく。そのためには、IoT/AIを活用した高度な環境制御や、環境・飼育データの分析による最適な飼養管理システム等を、多彩なパートナーとの連携を通じて提供していく。
今後の展開
バイオマスリサーチが既にバイオガスプラントの調査・導入支援を実施している自治体、JA、畜産・酪農家を中心に、ICTを活用した次世代畜産・酪農施設の提供・運営や、データ駆動型畜産・酪農関連ソリューションの提供を行う。
また、バイオガスプラントから発生する余剰熱をNTTアグリテクノロジーが提供する大規模施設園芸で活用する研究を進めるなど、NTTグループのアセットとバイオマスリサーチのノウハウをベースに、パートナーとの連携を通じて、畜産・酪農分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進していく、としている。
各分野からのエンドースメント
炭谷 茂 氏 (恩賜財団済生会理事長(元環境事務次官))
畜産糞尿は各地で水質汚濁や悪臭など大きな環境問題を発生していますが、バイオガス事業は、環境問題を解決するだけでなく、地域分散型エネルギー、有機肥料の生産、雇用創出など地域社会に多様な効果をもたらします。
バイオマスリサーチは、長年、北海道を拠点に日本各地、そして海外でこの分野のパイオニアとして実績を積み重ね、高い評価を得ています。
この豊かな経験をもとに、今後はNTTグループとの連携によるAI導入などを進めることで、環境と経済両面にわたる一層のご貢献を期待しています。
硲 一寿 氏(興部町長)
本町は、バイオマス産業都市構想、環境省地域循環型共生圏構想を活用し、バイオマスの活用によるまちづくりを推進しています。現在、町内ではバイオガスプラント3基が稼働、乳牛糞尿、生ごみから地域エネルギー、有機肥料を生産しています。バイオマスリサーチには、構想の策定、プラント設計、工事監理など本町のバイオガス事業にご尽力いただきました。
バイオマス事業で日本を元気に、ビオストックのご活躍を期待しています。
梅津 一孝 氏 (帯広畜産大学 教授)
バイオマスリサーチは、メタン発酵の研究では約半世紀の実績のある帯広畜産大学発ベンチャー企業であり、本学の研究成果を活用した全国各地でのバイオガスプラント事業の構築に貢献してきました。
国内だけでなく、キルギス共和国でのバイオガス事業、有機農業の普及にも貢献してきた実績を有する国内外で活躍するバイオガス事業のプロフェッショナル企業です。
ICT・通信事業のプロフェッショナル企業であるNTT東日本とのパートナーシップによる、新たな農村づくりに期待しています。
野村 敏充 氏 (北海道釧路市 野村牧場)
本牧場では、バイオガスプラントで乳牛糞尿を処理して15年になります。
悪臭の軽減等による牧場の衛生面の改善、メタン発酵後の消化液の農地散布により土壌の改善、牧草品質の改善、牛体の健康改善に効果が表れています。
これまで、バイオガスプラントの導入に関心のある多くの方に視察いただき、バイオマスリサーチと共にバイオガス事業に関する情報提供をさせていただきました。
ビオストックの事業を通じて、バイオガスプラントが全国に拡大することを期待しております。
本部 博久 氏 (宮崎県新富町 本部農場)
現在、本農場では、バイオマスリサーチの設計・監修の元、バイオガスプラントを建設中です。
このプラントを利用することで糞尿処理の労働力削減を図り、更なる規模拡大を進めて行きたいと思います。
糞尿の衛生的な処理、消化液の農地還元、バイオマスエネルギーの利用により、
ワクワクする酪農を地域とともに創造していきます。
ビオストックの九州でのご活躍を期待しています。
(2)本社所在地 :北海道帯広市
(3)事業内容 :
ICTを活用した次世代畜産・酪農関連施設(バイオガスプラント等)の提供、運営
データ駆動型畜産・酪農関連ソリューションの提供
(4)資本金 :1億円
(5)株主 :NTT東日本、バイオマスリサーチ
(6)設立年月日 :2020年7月1日(予定)
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。