日立製作所(以下、日立)とAIを活用した細胞分析・分離技術を有するシンクサイトは、細胞分析・分離システムの共同開発を開始したことを発表した。今後、国内外の再生医療等製品の開発・製造を行う製薬企業、研究機関などと連携を進め、同技術の実用化を目指す。
人間の目で判別が容易ではなかった細胞の識別も可能になる
同技術はシンクサイトが開発したゴーストサイトメトリー技術(高速で分析し、目的とする細胞だけを高精度に分離する技術)を基盤技術にしたイメージング技術。高速に細胞の構造情報を取得するイメージング技術とその情報をリアルタイムで処理するデータ処理技術に先端マイクロ流体細胞分取技術を融合させたもの。
特殊な構造化照明を用いて細胞を照射することにより、一次元に変換された構造情報を短時間で取得し、取得したデータから作成した機械学習(AI)モデルにより、リアルタイムで識別した細胞を細胞へのダメージを抑えたマイクロ流体デバイス中で分離する。
このデータ解析アプローチにより人が認識するための画像の再構成が不要になるため、細胞一つひとつの構造分析を高速で行いながら分離することが可能になり、これまで人間の目で判別が容易ではなかった細胞の識別も可能になるという。そのため、従来の方法では選別の目印のために抗体等で染色する必要があった細胞を染色することなく分離することも可能。再生・細胞医薬領域に加え、創薬や体外診断の領域においても革新をもたらす活用が期待されている。
再生・細胞医薬分野の課題である「細胞の安定的かつ低コストでの大量供給」を目指す
白血病向けCAR-T療法が2017年に米国で、2019年には日本で承認されるなど、細胞を治療に用いる再生・細胞医薬品は急速に実用化が進んでいる。この再生・細胞医薬品のグローバル市場規模は2020年の6,300億円から2025年に3.8兆円に到達することが見込まれている(国立研究開発法人日本医療研究開発機構の調査)。再生・細胞医薬品を用いた治療が普及していくためには、治療に用いられる品質の高い細胞が再現性良く選別され、低コストかつ大量に安定供給されることが求められている。
患者から採取した細胞にがん細胞表面の抗原を認識し、攻撃するキメラ抗原受容体(CAR)を作りだせるよう遺伝子改変をした上で再び患者の体内に戻すがんの治療法。
日立とシンクサイトはそれぞれが得意とする技術やノウハウを用い、AIを活用した細胞分析・分離技術の実用化に向け、細胞分析・分離システムの共同開発を開始。シンクサイトが有する細胞を無染色のまま高速かつ高精度に分離する技術と、日立の装置を安定稼働させるノウハウと量産化技術を組み合わせることで、既存の細胞分離技術では困難であった無染色での高速、高精度な細胞分離を再現性良く安定して稼働する装置で実現し、再生・細胞医薬分野の課題である、細胞の安定的かつ低コストでの大量供給を目指す。これにより製薬会社の再生・細胞医薬品を大量に安定して生産可能になり、製造コストの低減に貢献する。
国内外との連携を進め、同技術を再生・細胞医薬品製造の基盤技術とする
今後日立とシンクサイトは、同技術を再生・細胞医薬品製造の基盤技術とするため、大きな需要が見込まれる北米をはじめ、国内外の再生医療等製品の開発・製造を行う製薬企業、研究機関などと連携を進めていく。また、日立グループの情報通信技術開発で培った高速デジタル処理技術も活用し、安全かつ高信頼の装置を、再生医療のバリューチェーンの中に組み込み、再生・細胞医薬品市場の発展に貢献することを目指す。
日立とシンクサイトの取り組み
細胞の自動培養技術などを製薬会社に提供する日立製作所
日立はiPS細胞大量自動培養装置や細胞培養加工施設(CPF:Cell Processing Facility)、生産管理システム、安全キャビネットなどを製薬会社、研究機関に提供し、再生医療などに関わるお客のさまざまなニーズに合わせてバリューチェーンを構築してきた。また、医薬品製造機器、体外診断機器の要素技術開発のため大学や研究機関、企業との共同研究を行い、さらに量産化試作、製造コストの低減に取り組み、再現性良く、長期間安定して稼働する製品の開発を行っている。
高速で分析し、目的とする細胞だけを高精度に分離する「Ghost Cytometry」
シンクサイトは細胞一つひとつを染色することなく詳細かつ高速に分析し、目的とする細胞だけを高精度に分離する技術の研究開発を行ってきた。このような細胞計測・解析技術は病気の診断など、生命科学研究や医療において基盤となる重要な技術であるものの、単一細胞から取得する情報量と分離速度の両立が困難。そこでシンクサイトは、この両立を実現する「ゴーストサイトメトリー技術」(Ghost Cytometry)を世界で初めて開発し、生命科学・医療分野での本技術の活用に向け、製薬企業や研究機関と共同研究を進めている。
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山田 航也横浜出身の1998年生まれ。現在はロボットスタートでアルバイトをしながらプログラムを学んでいる。好きなロボットは、AnkiやCOZMO、Sotaなどのコミュニケーションロボット。