ドローンのTEAD、点検ソリューションのイクシス、パワースーツのGBS KBIC入居の3企業が取組みを紹介

川崎市にある「かわさき新産業創造センターKBIC」が2020年7月7日、オンラインマッチングイベントを開催した。KBICに入居しているロボットサービスを事業としている、農薬散布用ドローンのTEAD株式会社、インフラ点検ロボットの株式会社イクシス、パワースーツ「Cray X」のGBS株式会社の3社がピッチを行なった。


農業用マルチコプター TEAD株式会社

TEAD株式会社 ソリューション事業部 事業部長の河野拓雄氏

UAVの企画製造を行うTEAD株式会社は2016年創業。本社は群馬県高崎市にある。日本でドローンが認知され始めたころから扱ってきた。主力機は農業用のマルチコプター。主に農薬散布に用いられている。事業分野はアグリ事業部、企画開発事業部、ソリューション事業部、そしてオペレーター育成を行うスクール事業部からなる。全方位でドローンの社会実装を進めている。

ゴルフ場での活用

TEAD ソリューション事業部 事業部長の河野拓雄氏は、ドローンを用いたゴルフ場での農薬散布例を示した。たとえば、草の成長を抑制する薬剤を撒くことでゴルフ場キーパーの省力化を行うことができるという。

薬剤散布のほか、コース管理にも用いることができる

現在はドローンの自動化に取り組んでいる。TEADにはもともとラジコン好きなメンバーが多く、現場力を持っている点が同社の特徴だと述べた。今後はインフラ点検分野での取り組みも進める。

ドローン自動化を進めている




AI+ロボットでインフラのデジタルツインを作成、予防保全へ 株式会社イクシス

株式会社イクシス代表取締役Co-CEO兼CTO 山崎文敬氏

株式会社イクシスは1998年創業。創立20周年にあたる2018年9月に第2創業を行い、社名をイクシスリサーチからイクシスへ変更、共同代表を加え、外部資金も入れて現在活動を進めている。社員は2020年4月で40名。ポリシーは「ロボット×テクノロジーで社会を守る」。ロボットとAIなどを組み合わせた社会貢献を目指している。ロボットだけでなく、AI関連、建築・土木に精通した社員も在籍し、専門資格を持っている社員もいる。技術者とフィールドに強い社員が同じ場にいる点が強みだという。

ロボットだけではなく施工管理や測量など現場を知っている人間も社員として抱える

イクシス創業者で代表取締役Co-CEO兼CTOの山崎文敬氏は、ソリューションの事例として、橋梁点検の様子を示した。フォトグラメトリーや3Dスキャナーを使うことで構造物を正しく形状復元し、当時の設計時の図面にない配管や補修跡までをすべて3次元化する。それを建築・土木で用いられている3次元データ形式のBIM/CIMに変換し、作成した3DCADモデルに対して必要な精度を持ったセンサーデータを貼り付け、発生している破損をAIを活用して認識・表現してマップを重畳する。そうすることで、3次元空間上のどこにどんな損傷があるのかを濃淡を付けた表現が可能になる。山崎氏は「世界中どこからでも現場の様子が手にとるようにわかる。まさにデジタルツインだ」と述べた。

橋梁点群データと損傷マップ

山崎氏は橋梁点検の例と、体育館床面点検の例を示した。たとえば3Dスキャナーで体育館を形状復元したら、床面の損傷をAIで検出し、3次元データ上に表現する。そしてアセットオーナーは、どこにどんな損傷があるかわかるようになったデータを補修会社に渡す。そして業者が現場に行って補修するという手順だ。

高度経済成長期につくられた産業インフラは半世紀近くたって多くが老朽化している。日本は災害も多い。構造物の老朽化に対しては近々に対処しなければならないが作業員は高齢化で減っている。またコストも問題だ。

インフラを取り巻く環境

いっぽう技術に目をやると、3次元スキャン技術やAI、ロボットなどの技術が登場しており、国交省もiConstructionを推進している。今後は多くの施工がすべてデジタル化されて施工管理されることになっている。技術を組み合わせて社会課題に挑む必要がある。

情報化施工が進む

では、どうやったら解決できるか。山崎氏は定期点検サービスの一例を示した。現在の維持管理のやり方は、人が現場に出向いてアクセスして網羅的に調べる「外業(がいぎょう)」と、そのメモを見て点検調書に転記し、補修をどういうふうにするかタイミングを見計らう「内業」とに分かれている。

ロボットを使った効率化というと、現場の点検作業をロボット化しようとする場合が多いが、イクシスでは外業よりも事務所内のデータ整理である内業の時間・手間の短縮にフィーチャーしている。ここがボタン一つで済むようになれば、毎日いろんな現場に行けるし、従来と同じ人数で三倍、四倍の現場を回ることができ、同時に一箇所あたりのコストは1/3、1/4とすることができるからだ。

イクシスによるロボットとAIを用いた点検業務の改善の考え方

現場で使ってデータ収集するためのロボットも自前で開発し、販売・レンタルを行なっている。

イクシスの点検ロボット

各種現場でデータを収集し、クラウドにアップロードすると、ロボットからのデータが並び、それをAIを活用して損傷判定し、報告書を自動作成することができる。3次元データ化すれば再利用性も高い。デジタルツインで構造物の生い立ち全てを3次元データに埋め込むことができるようになる。

イクシスクラウド

山崎氏は橋梁の下面やダムの堤体点検を行うロボットの様子を示した。点検もドローンでいけるのではないかと言われることも多いが、ロボットを使っている理由は高精細で正確な位置情報をもれなく取得するためだ。0.1mmのヒビをとるとなるとロボットのほうがいいのだという。取得した画像はそのままAIの教師データにもなる。そのため、綺麗なデータを取得することにこだわっているという。

橋桁点検ロボットの例。ロボットが写真を自動撮影して点検箇所を自動検出していく

ダム堤体点検ロボット

無人点検を行うための仕組みもサービス展開しようとしている。山崎氏はKBICのある新川崎の建物をスキャンしている様子を示した。まずは3Dスキャナーでビル全体の形状を取得する。取得した3次元点群を3DCADデータに変換すれば、最新の構造物の様子がパソコン上に再現できる。そのモデルを用いて、ロボットに対してどのように巡回するか、 あるいは途中の通過点などを指定すると、ロボットが自動巡回していく仕組みだ。

ロボットが取得した3D点群

自動巡回して写真を撮影していく

ロボットは指定したウェイポイントで写真を撮影して、クラウドサーバ上に写真を蓄積していく。システムは、その画像に変化があったら、アラートを出す。アラートに基づいて、オーナーは現場に足を運んで確認する。このような仕組みによって、工場などの自動巡回の手間が減る。かつデータが図面上に配置されるので探す必要がなくなる。自動判定なので判定にも人によるバラツキが出ない。山崎氏は「社会インフラの維持・管理に寄与できる技術だ」とアピールした。

3次元画像上に損傷を表現できる

また質疑応答では、「ロボットを事業にするとロボット自体に注目が集まるし、皆一個一個の機能を開発しがち。しかしロボットはあくまで現場で使ってもらわければならない。そのために使ってもらう現場の課題をよく知らないといけない。我々がロボットとAI、3Dデータを作る人材だけでなく現場を熟知した人間も社内にとりこんでいるのはそれが理由。現場は、すごいロボットをもっていったら便利になるかというとそんなことはない。現場の受け入れ体制が整ってといけない。現場視点で見ている点が他社との差別化ポイントだ」と語った。

将来的には遠隔地でも現場の状況が手に取るようにわかる仕組みであるデジタルツインを活用することで、補修必要時期の予測などを行い、ライフサイクルコストを定量評価して提案していきたいという。そしてデジタルツイン上で過去に遡るだけではなく未来も見られるようにしたいと考えているという。




パワースーツ「Cray X」 GBS株式会社

GBS株式会社代表取締役社長 山下英夫氏

GBS株式会社はパワースーツ「Cray X」を展開する装着ロボット機器メーカーだ。腰部のアクチュエーターで最大25kgをサポートできる。German Bionic日本法人 代表取締役社長の山下英夫氏は将来の現場は、現在の現場がヘルメットを付け、安全靴を履くのと同じようにパワースーツをつけるようになるだろうと将来像を語った。装着ロボット機器を使うことで労働者の腰痛を防ぐことができ、自動化や省人化にも貢献できるという。

GBSのパワースーツ「Cray X」

ヘルメットをかぶるようにパワースーツをつける時代を想定する

サブスクモデルで製品導入を行なっており、一番安いプランは84,000円から。7月1日に第4世代を発表した。カーボンファイバーを使った製品で、出力も最大28kgサポートに上がっており、そのためにアクティブクーリング機能などが入っている。ライバル製品に比べて、サポート力が大きい点が差別化ポイントだという。

導入はサブスクモデル

第4世代の「Cray X」はカーボンファイバーを採用、パワーを向上させた

山下氏は、物流現場に話を持っていくと「うちは自動倉庫だから」と言われることが多いが、在庫の入庫については人手に頼っている現場が多いと述べた。入庫作業ではパレットからカゴ車への載せ替え、ベルトコンベアへの投入作業などで人が重量物を持って作業しているケースが多い。またソーター出口でのかご車への積み替えなどはかなりの重労働になると述べ、実機を使ったデモンストレーションを行なった。

デモンストレーションの様子

「Cray X」の装着時間は早い人だと30秒くらい、だいたい1分足らずで装着できるという。電源を入れたあとは、最初にキャリブレーションを行う まっすぐ立って、ボタンを押す。そのあとは普通に作業ができる。

COVID-19以降、オンライン販売へのシフトが加速し、同時にエッセンシャルワーカーが新たな雇用の受け口としても重要になっている。また現場では複数の人がよいしょと持ち上げる「チーム・リフト」が課題となっているという。感染リスクもあるので二人作業をパワースーツを使うことで一人で行えないかと語った。

新型コロナウイルスで需要が急増


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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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