電力スマートメーターが動いていないなど、電力の利用推移から「不在」と「在宅」を予測して、AIが効率的な配送ルートを決めるとしたら。
日本データサイエンス研究所(以下、JDSC)は佐川急便と東京大学大学院 越塚登研究室・田中謙司研究室で研究開発を進めている「不在配送ゼロ化AIプロジェクト」に、新たに横須賀市とグリッドデータバンク・ラボが参画し、5者共同でこの問題に取り組むことに合意したことを発表した。今後、2020年秋頃に横須賀市においてフィールド実証実験を行うべく、世界初の取り組みとして具体的な準備を推進していくとしている。
スマートメーターから得られる電力データを元にAIが配送ルートを示す
JDSCはAIを用いた電力データ解析・活用技術を保有しており(特許取得済)、東大越塚研究室、田中研究室との連携のもと、スマートメーターから得られる電力データを元にAIが配送ルートを示すシステムを開発。2018年9〜10月に東京大学内で行われた配送試験で不在配送を9割減少させた。2019年9月にこのシステムを用いて佐川急便の持つ配送実績データでシミュレーションした結果、不在配送の削減および総配送時間の短縮など一定の効果が認されたことにより、2019年10月に3者共同研究開発へと至った。
今回、電力データ活用による不在配送解消の社会実装を見据え、横須賀市とGDBLが参画して5者共同で2020年秋頃に横須賀市内でBルート(スマートメーターのデータを家庭用HEMS機器等で直接受信する方式)を用いたフィールド実証を行うことを目指し、準備を進めている。同実証は2018年に行われた東京大学キャンパス内での学術目的の配送実験とは異なり、実際の配送会社、配送手段、実際の受け取り手である市民の協力と参画により行われるものを目指す。なお、スマートメーターは2024年度までに全国で設置が完了する計画となっている。
2018年9〜10月に東京大学内で行われた配送試験
東京大学本郷キャンパス内で行われた実験では、予めキャンパス内の各建物に別途収集した住宅の電力使用データと在不在情報を模擬的に割り振った上で、電力データのみから最適ルートを提示するシステムの性能評価を行った。同システムを用いる場合と、用いらずに人が最短経路を判断し2輪車による配送を繰り返した結果、システムを用いた場合の配送成功率は98%となり、不在配送は91%減少、総移動距離を5%減少した。
一方この実験は集荷・時間指定・宅配ボックスなどの実際の配送条件がない理想環境に基づくものであり、また配送者も、配送未経験の実験参加者によるものであり、実地環境での検証が課題となっていた。
日本が抱える不在配送問題
近年、多様化するライフスタイルとともに電子商取引(EC)が急速に拡大し、宅配便の取り扱い個数が増加している一方、宅配便の再配送はCO2排出量の増加やドライバー不足を深刻化させるなど、重大な社会問題の一つとなっている。(国土交通省2019年6月「宅配便再配達実態調査結果の公表」より)
個人向け配送における「不在配送件数」は全宅配件数のおよそ2割で、走行距離の25%は再配送のために費やされている。これは年間9万人の労働力に相当し、約1.8億時間が1年間の不在配送に費やされていることになる。(国土交通省「宅配の再配達の発生による 社会的損失の試算について」より)
JDSCらはこの不在配送が初回の実証実験のとおり不在率を減少させられた場合は、大きな効果が期待できると考えている。これは国土交通省が2019年1月に「総合物流施策推進プログラム」において設定した宅配便の再配達率の削減目標(不在配送率「-13%程度」)の達成はもちろんのこと、その目標値を大きく上回る結果になることが期待できるという。
横須賀市とGDBLの参画理由
■横須賀市
横須賀市は自動車や船舶などの輸送機械産業を中心に発展した人口約40万人の中核市。近年は少子高齢化が進むとともに、若年層の市外転出が続き、今後、様々な産業における担い手不足が懸念されている。また、平坦地が少なく、谷戸といわれる丘陵地にも多くの市民が居住しているため、人の移動や物流をはじめとした市民生活の維持・向上を図るためにはIoTや最先端のモビリティ技術の活用が不可欠。そこで2018年から産学官連携のもとで、新たなテクノロジーを用いた社会課題の解決に取り組む「ヨコスカ×スマートモビリティ・チャレンジ」を推進している。今回の実証実験もその一環で取り組む。
■グリッドデータバンク・ラボ 有限責任事業組合(GDBL)
GDBLは全国の電力会社が設置するスマートメーターをはじめとする電力データを活用し、社会課題の解決や産業の発展に貢献すべく、その社会実装に向けたユースケース実証や政策提言を行う組織。東京電力パワーグリッド、関西電力送配電、中部電力、NTTデータの4社が組合員となり、120を超える企業・団体とともに運営されている。今回の実証実験は電力データ活用の新たな可能性の検討に取り組むもの。なお、スマートメーターは2024年度までに全国で設置が完了する計画となっている。
日本データサイエンス研究所
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山田 航也横浜出身の1998年生まれ。現在はロボットスタートでアルバイトをしながらプログラムを学んでいる。好きなロボットは、AnkiやCOZMO、Sotaなどのコミュニケーションロボット。