赤い協働ロボット「Sawyer」について住友重機械とQBITが共同ウェビナー 国内販売累計は200台

住友重機械工業株式会社 メカトロニクス事業部が日本国内販売代理店をつとめる協働ロボット「Sawyer」(ソーヤー)に関する30分ウェビナーが6月22日、7月13日の2回連続で開催された。ウェビナーでは「Sawyer」など協働ロボットを活用してサービスロボットソリューションを展開中のQBIT Robotics(キュービット・ロボティックス)社の活動紹介も行われた。二回分をまとめてレポートする。


協働ロボット「Sawyer」 国内販売累計は200台

Sawyer」については、住友重機械工業メカトロニクス事業部営業部の山岡直輝氏が紹介した。「Sawyer」は赤いボディの協働ロボット。開発・展開したRethink Roboticsは2018年にいったん事業をクローズしたが、その後、HAHNグループがRethink社の資産を全て取得し、新規に設立したRethink Robotics GmbH が事業を継続している。「Sawyer」については住友重機械工業が国内販売権を持っており、技術アドバイス、保守、購入後のサービスを一貫して提供している。

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「Sawyer」は人と並んで生産ラインに入ることもできる協働ロボットなので、変更が多い変種変量ラインでの活用のほか、非製造業分野では店員ロボットとしても活躍している。住友重機械工業からの販売累計台数は200台。納入している「Sawyer」のうち1/3は自動車関連会社が対象で、愛知県方面が多いが、全国に顧客がいるとのこと。

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導入にあたっては、住友重機械工業では同社の横須賀製造所内で顧客の希望するワークを再現。作業工程の実現可能性や治具、ハンド構成などを実際に検討し、ロボットが働きやすい環境まで含めて顧客に提案している。技術者と製造所、二つのリソースが同社の強みだという。

横須賀製造所でワークを実演して検証




QBIT Roboticsによる飲食店での協働ロボット活用ソリューション

株式会社QBIT Robotics 代表取締役社長兼CEO 中野浩也氏

株式会社QBIT Roboticsは2018年1月創業のロボティクスサービスプロバイダー。ロボットを使ったサービスソリューションを開発している。代表取締役社長兼CEOの中野浩也氏は「SIer(システムインテグレーター)」ではなく「ロボティクスサービスプロバイダー」と名乗っている理由について「ロボットを入れるだけではサービス業ではうまくいかない、企画段階から運用に至るまで手がけけないとサービスが提供できないと考えているため」だと紹介した。中野氏は、以前は長崎のハウステンボス株式会社情報システムの責任者として「変なホテル」のロボット関連の取り組み、「変なバー」「変なカフェ」などを手がけてきた。

QBIT社の強みは企画設計から加工、組み立て、運用支援までできる技術と体制だという。ロボットは不安定な環境は苦手だ。しかしサービス業における現場は工場ほど安定した環境は望めない。そのため、安定した環境も含めて作る必要がある。QBITは今までの様々な知見から比較的高速に立ち上げることができるという。ソフトウェア面でもロボット制御技術は画像認識発話エンジンなどを持ち、低コストで素早い立ち上げが可能だと述べた。

QBIT Roboticsの強みは低コストで素早いシステム立ち上げ

QBITでは「&robot system」というパッケージを販売している。上下水道・電源・カメラなどがすべて組み込まれた協働ロボットシステムで、同社の接客AI「おもてなしコントローラ」と組み合わせることで、ロボットカフェなどを素早く立ち上げることができるシステムだ。

「&robot system」

このプラットフォームを用いて、これまでに居酒屋「養老乃瀧ゼロ軒めロボ酒場」でのビール提供(2020年1月23日〜3月19日まで)のほか、2019年12月には大宮駅でパスタを作るロボットの実証実験なども行なった。

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「Sawyer」はティーチングが容易

「Sawyer」は、渋谷MODI地下1Fに2018年2月に開いた「変なカフェ」のロボット店員として用いている。「高性能な自動販売機」ではなくアームロボットを使ってコーヒーを作る工程を見せることを趣旨としたロボットカフェだ。「Sawyer」の生みの親である著名なロボット研究者 ロドニー・ブルックス氏が来日した折にも、実際に店舗に足を運んで見てもらったという。

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「Sawyer」を選んだ理由は「ティーチング操作のしやすさ」。中野氏は、アームに操作ボタンが付いていて、アームを持ったままダイヤル操作するだけでティーチングができるため非常に直感的に操作ができることと、また「顔」が表示されているパネルが良いと述べた。またアームに7自由度があり、取り回しが容易な点もよかったという。いっぽう、動作音が大きい点はマイナスだと指摘した。工場では気にならなくても、サービス業においては静音性も重要だ。

中野氏は、アームロボットでコーヒーを入れるということについては、一緒に開発するSIerはなかなか理解してくれなかったと紹介した。当時を振り返りつつ「サービス業向けロボットSIer(システムインテグレーター)は探してもいなかった。今でもあまりいない。サービス業に普及させるにはサービスロボットのSIerがもっと必要だ」と語った。

ちなみにロボットカフェの完成は記者意見の40分前だったそうだが、その後2年間は、大きなトラブルもなく運営できているという。サービス開始当時はドリンクのみの提供だったが今は物販を追加している。ドーナツをアクリルケースに入れて利用者に提供するほか、スムージーも追加した。各種機械をソウヤーがボタンを押して提供する。様々な業務を「Sawyer」がこなしている。

では、ロボットカフェは儲かるのか。中野氏は売り上げるコーヒーが同じだったととすれば、ロボットを使ったほうが設備投資・維持管理費は高いが人件費・地代家賃が安くすみ、ロボットカフェのほうが営業利益が高くなると述べた。

ロボットKIOSKカフェと人が対応するKIOSKカフェの比較

中野氏は、世界的に見るとサービス業向けのロボットについては日本よりも海外のほうがアグレッシブに開発を進めていると指摘し、サービス業向けアームロボットの活用に大きな可能性を感じていると語った。


アフターコロナは非接触がキーワード

アームロボットを使った飲食サービスは、人が多く集まる場所、人に待ち時間がある場所、兼任で人が保守できる場所、最低限の家賃で運営できる場所などに向いているという。課題は、ロボットはまだ薄利のサービス業にとってはコストが高いこと、多岐にわたる飲食業の仕事全てをこなせるわけではないこと。ただし繰り返し作業などはロボットに適している。いっぽう、インフラや設置場所、また食品衛生法などの問題は残っている。

たとえば給湯器付きのカップ麺自動販売機の設置には飲食店営業の許可が必要だ。食品衛生安全を担保するのは人だという前提があるからだ。つまり今の飲食業はロボットだけが行うことは認められておらず、ロボットと人との共存においては法律が追いついていない側面もある。QBIT社では、2019年11月に経済産業省が立ち上げた「ロボット実装モデル構築推進タスクフォース」にも参画して、ロボットの社会実装を進めていきたいと考えているという。

中野氏は、国内の飲食業むけのサービスも複数の会社が手がけ始めているが、海外に比べると盛り上がりに欠けると述べ、海外の飲食向けロボットやデリバリーロボットなど数社の取り組みを紹介した。

新型コロナ禍によってロボットには非接触という新たな価値も生まれ始めている。QBITもサラダを運ぶ搬送ロボットを二子玉川の玉川高島屋S.C.南館6Fのレストラン三笠会館「THE GALLEY SEAFOOD & GRILL」に提供している。

THE GALLEY SEAFOOD & GRILLで稼働中の搬送ロボット

QBITでは現在、搬送ロボットとアームロボットを連動させるコントローラーを開発中で、中野氏はデモをウェビナーで実演した。搬送ロボットがSawyerの近くまで走り、近くまで来るとSawyerがカップを搬送ロボットのトレイに置く。置かれたことを検知した搬送ロボットは指定位置まで走っていくというものだ。PC一台でこのような連携が可能だという。

搬送ロボットとSawyerの連動
関連サイト
QBIT Robotics

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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