東京オフィスビルで久米島のサンゴの人工抱卵を実現 世界初のIoT活用で時期制御した人工産卵へ 東大発ベンチャーのイノカが発表

環境移送技術を研究・開発する東京大学発ベンチャー企業の株式会社イノカは、IoT技術により水温を沖縄の久米島付近の海面水温と同期させた完全閉鎖環境内でサンゴの人工抱卵を実現したことを発表した。

株式会社イノカ 虎ノ門オフィスにある人工産卵実験水槽


実験ではIoT技術を用いて採種元の環境を再現

実証実験ではイノカが独自で研究開発を進める「環境移送技術」を用い、虎ノ門にあるオフィスビル内の会議フロア一角にて実施。沖縄産の成熟したサンゴを利用し、アクアリウム用のサンゴライトで紫外線を当てて、昼は太陽を浴びるような明るさ、夜間は月明かりに照らされる程度の明るさにすることで、水槽内の環境を採種元である沖縄の海に可能な限り近づけた。水槽内では水温の調整のほか、水流をつくることで沖縄の海のような波を人工的に発生させている。

産卵実験時のシステム。24時間ライブ配信し、産卵の予兆を常時監視
環境移送技術とは
水質(30以上の微量元素の溶存濃度)をはじめ、水温・水流・照明環境・微生物を含んだ様々な生物の関係など、多岐に渡るパラメータのバランスを取りながら、自社で開発したIoTデバイスを用いて実際の自然環境と同期させ、特定地域の生態系を自然に限りなく近い状態で水槽内に再現するイノカ独自の技術のこと。

5月中旬にサンゴを折って確認したところ、体内での抱卵を確認。その後、例年の産卵タイミングである6月中旬に、再度サンゴを折って確認したところ、サンゴの体調の悪化に伴い、卵が確認できず、産卵には至らなかった。


左:産卵実験の対象のサンゴ。右:抱卵を確認した際の写真。ピンク色の卵が確認できる。

同社はサンゴが産卵しなかった原因を「体調不良によってサンゴ本体に卵が吸収されたのではないか」と考えている。これは、生物ではよくある現象で、体調悪化を食い止めるため卵を自分自身のエネルギーに変えたことが考えられるという。



2020年8月より再び実証実験を開始

同社は上記の結果をもとに、2020年8月より再び実証実験を開始する。次回はできるだけ生体へのストレスを低減できるよう、水槽内の各パラメータをさらに精緻に調整。また、サンゴの健康状態の判別のために画像解析技術も応用しながら、世界初の産卵時期をコントロールした人工産卵の成功を目指す。さらには暑い時期を経験させず、かつ次の産卵タイミングまで最短でたどり着くように季節を3ヶ月ずらし、11月の水温設定から実験をスタートさせ、約半年後の2021年3月に産卵を目指していく。

イノカは今後も、国内初のサンゴの人工産卵の成功を目指しながら、地球温暖化や環境汚染などの危機に対し、生態系の価値を「のこす」ための取り組みを進めていくとしている。


海洋生態系の中心的な機能を果たすサンゴ

WWF(世界自然保護基金)の調査では、全世界のサンゴ礁が生態学的多様性による経済にもたらす資本価値は、観光業、漁業、沿岸の保護、研究価値といった観点から推定8,000億ドルと試算されている。地球上の全海洋面積のうち、サンゴ礁が占める面積の割合は世界の0.2%程度にすぎない一方で、そこには約9万3000種(海洋生物種の25%程度)の生物種が生息し、1平方キロメートルのサンゴ礁が年間15tの食料を生産している。このように、サンゴは海洋生態系の中心的な機能を果たしているにも関わらず、その重要性はまだ一般的には広く認知されていない。


産卵実験の対象のサンゴ

さらに、サンゴの生態系は大気中の二酸化炭素を吸収し、炭素を海洋に固定するブルーカーボン生態系としても注目されている。同社は温室効果ガスの抑制効果も期待されていることから、世界的に減少を続けているサンゴを保護し、残していくことでSDGsに貢献できると考え、2019年10月より実験を開始。本来、自然界における産卵は年に1回と限定的だが、水槽内の各パラメータの調整で、理論上、産卵の時期をコントロールすることが可能となる。その結果、ハツカネズミやショウジョウバエのように何世代にもわたって研究調査を行うモデル生物としてサンゴを扱うことができ、サンゴ保全に大きく寄与すると考えられる。


小型水槽内での人工産卵技術が確立すれば、ビルなどの一般的な都市空間のような場所でも人工産卵が可能になる


生態系の価値を「ひろめる」「いかす」「のこす」 株式会社イノカ

東大発ベンチャー企業の株式会社イノカは「自然の価値を、人々に届ける」をミッションに2019年に創業。国内最高峰の「生態系エンジニア」とAI・IoTエンジニアを中心に、生態系の理解と再現(『人工生態系』技術)の研究開発および社会実装を推進する東京大学発スタートアップ企業。



東京大学 暦本研究室にてAI研究を行っていたCEO高倉氏、ブロックチェーン開発経験など高い実装力を誇るCTO栗田氏をはじめ、IoTデバイス開発や機械学習の高度な知見を持った最先鋭のエンジニアチーム、メガベンチャー出身のマーケティングチーム、大手広告代理店・プロダクトデザイナーのクリエイティブチームを有し、社内外の先端プロダクト開発を積極的に手掛けながら、生態系の価値を「ひろめる」「いかす」「のこす」という3つの事業領域を拡大している。


株式会社ミスミと開催したイベントの様子(サンゴや水生生物飼育の課題を解決し、その価値を最大限に引き出すためにエンジニアリングがどう活用されているか実演を交えてプレゼンした)

「環境移送サービス」を含む、生態系の価値を「ひろめる」事業としては、AIやICT技術を活用して都会で本物の自然を観察できる環境教育プログラムのほか、イノカラボ(港区虎ノ門)のサンゴ礁水槽を教材にした「本物のサンゴ礁に触れる」ワークショップ、生態系の価値を五感で味わう「食べリウム」、サンゴの蛍光タンパクを利用した光るカクテルイベント、さらに最近ではライブ配信を活用したオンライン授業など、ユニークな環境教育を展開している。


桐朋学園小学校での授業の様子(サンゴ礁水槽と教室をライブカメラで繋ぎ、水生生物の魅力と環境問題の現状を伝えた)

日本水産株式会社との共同イベントの様子(サンゴについて子どもと一緒に学べるイベント)

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山田 航也

横浜出身の1998年生まれ。現在はロボットスタートでアルバイトをしながらプログラムを学んでいる。好きなロボットは、AnkiやCOZMO、Sotaなどのコミュニケーションロボット。

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