人型ロボット vs スマートスピーカー「ホテル客室でのおもてなし勝負」の結果は? サイバーエージェントらが検証・考察、論文発表へ

例えば、ホテルの一室で、スマートスピーカーやロボットが積極的に話しかけることは親切なのか?
エージェントとしてスマートスピーカーとロボットではどちらが最適か?
見た目は印象や利用度に影響するのか?

サイバーエージェント、大阪大学、東急不動産ホールディングスらが行った共同実験と考察の結果をレポートとしてリリースした。この結果は世界的に知られる国際会議「IROS 2020」で論文として発表される。


スマスピやロボットが話しかけることは親切なのか?

2018年3月から、サイバーエージェント、大阪大学基礎工学研究科、東急不動産ホールディングスの3社は、人間の業務代行だけでなく「人をもてなし、満足度を向上させるロボット」を実現する共同研究プロジェクトを進めてきた。これは、近年のサービス業における人材不足やインバウンドの増加を背景にしたもの。


ホテルではスマートスピーカーの活用が進む

人間の業務を代行する手段のひとつに、ホテルにおけるパーソナルアシスタントとしてスマートスピーカーの活用が進んでいる。主にホテルの設備やサービスなどに関する情報検索や、居室内家電の操作を行うための音声端末として利用され、ホテル利用者の利便性を向上する可能性が期待される。

一方で、ホテル利用者の満足度を向上させるためには、ホテル側からの積極的な気配りや働きかけが不可欠、とする。しかし、プライベートな空間であるホテル居室内において、スマートスピーカーやロボットが、自発的に利用者へ対話やサービス提供を行うことが、はたして利用者にどのような影響・印象を与えるのか、これまで調査されてこなかった。




人型ロボット vs スマートスピーカー

このような背景のもと、ホテル居室内にスマートスピーカーや小型のヒューマノイドロボット(Sota)を設置。これらのパーソナルアシスタントが利用者に対して、積極的な情報サービスの提供や対話を行うことにおいて「サービス提供を行うパーソナルアシスタントの見た目」は、人に対しどのような心理的影響を与えるか、実験検証と考察を行った。

検証にあたっては、2019年9月にこの論文のもととなる実証実験を東急リゾーツ&ステイ株式会社が運営する、東急ステイ門前仲町の居室にて実施。実証実験では居室内に、パーソナルアシスタントとして「スマートスピーカー」または「ヒューマノイドロボット」を設置し、あらかじめ実験参加許諾を得たホテル利用者60名に対して対話サービスを提供した。



スマスピとロボット、どちらに親しみを感じる?

ホテル利用者はそれぞれ「スマートスピーカー条件」もしくは「ヒューマノイドロボット条件」の部屋に割り振られた。1泊のホテル滞在中に、ホテル情報の提供や雑談、周辺施設の推薦などの対話サービスを、スマートスピーカーやロボットから受けた。
スマートスピーカー、ロボットともに同じアルゴリズムによって自律的に制御され、見た目のみが異なる状態で、人がパーソナルアシスタントによるサービス提供をどのように感じるか、その影響を比較した。



ヒューマノイドロボットが圧勝

主な実験結果として、下記の差異が確認できた、としている。

・ヒューマノイドロボット条件の方が、全体の会話量が多く、中でも短い雑談や周辺情報に関する会話が多い

・ヒューマノイドロボット条件の方が、サービスに対する満足度(再び利用したい意向や他者に勧めたい意向)が高い

・ヒューマノイドロボット条件では、あたたかさや楽しさに加え、寂しくないと感じる人が多い

・ヒューマノイドロボット条件では、アシスタントが推薦した周辺の店舗に「実際に行った・行きたいと思った」と回答する割合が多い傾向がある

・スピーカー条件の利用者の50%はアシスタントの自発的な発話を禁止する(ヒューマノイドロボット条件では13%)

※論文ではインタラクションの評価に関する一部結果のみ掲載


「人間に近い見た目をしていること」は重要

これら実験結果により、ホテル居室内でのサービス提供では「人間に近い見た目をしていること」が、利用者にポジティブな影響を与えることを示した。

これは「人らしさを感じやすい見た目をしたパーソナルアシスタントのほうが、居室内においてより高い満足度を実現できる」ことを示している。
更に「居室内というプライベートな空間においても、人らしい見た目のパーソナルアシスタントであれば積極的なサービス提供が利用者に許容される」という可能性を明らかにしており、学術貢献と実応用の両側面において重要な発見であった、とレポートしている。


「IROS 2020」で論文を発表

この結果を含め、株式会社サイバーエージェントは、大阪大学と共同で発足した先端知能システム共同研究講座の特任助教(常勤)の中西惇也氏と、人工知能技術の研究開発組織「AI Lab」研究員の馬場惇氏らによる共著論文として、ロボティクス分野の国際会議「IROS 2020」(IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems ※1)に提出、採択されたことを発表した。

「IROS」は世界中の様々な研究者が一堂に集い、毎年開催される国際会議。「ICRA」「RSS」「HRI」などと並び、ロボティクス分野で権威あるトップカンファレンスのひとつとされている。「AI Lab」から採択された論文は、2020年10月にオンラインで開催される「IROS 2020」で発表される。


広告展開への期待と今後

「AI Lab」は、人と信頼を築けるパーソナルアシスタントの実現は「心地よいおもてなしによる利用者の満足度向上」だけでなく、その信頼関係の上に成り立つ情報推薦によって「ローカルな特性を持つ広告媒体の実現」への貢献も期待できるという。
今回発見した知見をベースに、さらに居室内において強力に信頼関係を築けるパーソナルアシスタントを探索する実証実験を、今後も積極的に実施していく予定だ。

また、今後も、大学・学術機関との産学連携を強化しながら様々な技術課題に取組むとともに、「人とロボットが共生できる世界」を目指し、より一層ロボットを含めた対話エージェントによる接客対話技術の研究開発に努めていく、とレボートでは締めくくっている。

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ロボスタ編集部

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