ロボットが解き放たれるためには信頼と生態系の形成が重要 アクセンチュアのテクノロジービジョン
アクセンチュア株式会社は8月5日、年次で発表しているテクノロジートレンド「Accenture Technology Vision 2020」について記者説明会を行った。アクセンチュア株式会社 テクノロジーコンサルティング本部 インテリジェントソフトウェア エンジニアリングサービス グループ 日本統括 マネジング・ディレクターの山根圭輔氏が概要を解説し、特にロボットについては、「トラスト(信頼)」とエコシステム形成が重要だと強調した。
「Accenture Technology Vision 2020」のテーマは、「ポストデジタル時代を生きる企業が『テック・クラッシュ』を乗り切るには」。いまや生活者にとってデジタルは日常の一部として浸透している。アクセンチュアによれば世界人口の半分以上がネットに接続しており、平均して1日あたり6.4時間をオンラインで過ごしており、52 %の人が「テクノロジーが日々の生活において重要な役割を果たしている」もしくは「ほぼ全ての側面に深く根付いている」と回答している。
そして新型コロナウイルスによってデジタル化はさらに急加速している。このような状況のなか、従来の経緯によって作られてきたモデルを踏襲することはリスクを伴う。たとえば医療においてはエコシステムが閉じられており、患者中心のデータモデルになっておらず、企業中心のデータモデルになっているので、顧客が横断してデータをマネージすることもできない。
アクセンチュアが「ポストデジタル時代」の企業課題として挙げる「テック・クラッシュ」とは、生活者と企業のギャップによるトラスト(信頼)の喪失のこと。生活者は、テクノロジーは生活に溶け込んでおり、意識せずに利用できる状態になっていて、そういうものだと思っているにもかかわらず、企業は企業視点の選択や囲い込みに止まっており、テクノロジーは既存業務の効率化手段だと考えいている。ここに起こってくるのが「テクノロジークラッシュ」だという。
つまり、提供側の古いスタイルと先進的な生活者のスタイルがテクノロジークラッシュを生み出す。企業側の提供するサービスに対して生活者がトラスト(信頼)を損失してしまう。これがテクノロジークラッシュの本質であり、山根氏は「企業は、より顧客中心に考え直さなければならない」と述べ、あらゆる企業は「デジタルを利用する企業」ではなく「テクノロジー企業」になっていかなければならないと語った。
https://newsroom.accenture.jp/jp/news/release-20200218.htm
・Technology Vision 2020 紹介ページ
https://www.accenture.com/jp-ja/insights/technology/technology-trends-2020
https://www.accenture.com/jp-ja/insights/technology/tech-vision-coronavirus-trends
「テクノロジー企業/テクノロジーCEO」が取り組むべき5つのトレンド
アクセンチュアは、以下の5つのトレンドを「テクノロジー企業/テクノロジーCEO」が取り組むべきものとして挙げている。
・体験のなかの私
・AIと私
・スマート・シングスのジレンマ
・解き放たれるロボット
・イノベーションのDNA
体験のなかの私
「体験のなかの私」とは、一人一人にカスタマイズされた「ライブエクスペリエンス」だ。よりよいカスタマイズが重要となる。いっぽう生活者にとっては勝手にパーソナライズされることについては懐疑的だと答える人が多いという。つまり、「自分向けだ」と感じる体験には好意的だが、「あなたはこうでしょ」という一方的な決めつけには懐疑的だというわけだ。これをどう解消するか?
山根氏は「提供から共創へ」と変わっていくことがポイントになっていると述べた。顧客が能動的に参加できるかたちへと、企業が生活者と共に作り変えることが重要で、それをリアルとバーチャルを組み合わせたかたちで持っていくことが重要だという。そしてNetflixのマルチエンディングドラマやマクドナルドでのメニュー切り替えなどの事例を挙げた。
新型コロナウイルス禍の影響については、よりパーソナライズされた相互作用(共創)的体験が重要になっていると述べた。ライブや教室など、今まではリアルのみが前提だった体験の多くがバーチャルと組み合わせた新しい顧客との盛り上がり体験を提供し始めている。短期的影響としてはデジタルを前提とした新しい生活様式にどう企業が追随するか、生活者変化を捉えたパーソナライズの再考といった問題があり、長期的に考えると、企業と生活者が共同でサービスを作り上げる体験が重要になるという。
AIと私
二つ目のトレンド「AIと私」は、人間とAIの協働によってビジネスを再創造を目指すもの。79%の企業幹部は人とマシンの協働が必要不可欠だと考えている。だが準備は不十分だ。フォルクスワーゲンとオートデスクは人間だけでは開発できない革新的デザインを生み出そうとしている。
また、アクセンチュアでもRPAロボットを全社員に配り、様々な作業を自動化していくことを狙っているという。AIを使いこなし、「タッグを組むバディ」のようなカルチャーを社内で醸成することを目指しているという。
新型コロナウイルス禍による影響については、「チェンジメーカー」としてAI受け入れを加速させ、長期的に見るとAIへの信頼を壊さないことが重要になり、そのためにはいかに人間中心デザインにするかが重要だと述べた。
スマートシングスのジレンマ
3つ目は「スマートシングスのジレンマ」だ。ソフトウェアをアップデートできるスマートプロダクトは「永遠にベータ版」であるというジレンマを抱えている。ユーザー変化に対して柔軟に新機能をリリースし続けていくことはビジネス負荷が大きい。製品体験を軸にした顧客と企業の信頼関係の構築が重要だという。
すでにスマートプロダクトならではのトラブルも起こり始めている。OSアップデートによってリリース済みのiPhoneのパフォーマンスが低下したり、Googleのスマートホームデバイスの管理アプリの統廃合が顧客から反発を受けるといった事例だ。アップルやGoogleのような会社ですら、こんなことが起きている。
山根氏は「ポスト・デジタル時代のサービス提供は顧客体験に近いデータの継続的取得・活用がカギ」だと述べ、iRobot社によるルンバのサブスク化と顧客体験に近いデータの取得・サービス提供を事例として紹介した。データ利活用ポリシーを製品に確実に組み込んでプライバシーを保護することが重要だという。
新型コロナウイルス禍に対しては、スマートシングスは戦うためのツールになりつつあるとし、症状の特定や患者の監視、研究に役立つデータをいかにとっていくかといった用途が探索されていると紹介した。長期的にはβ版の足かせはどんどん強くなると考えられ、プライバシー保護を重視して新機能を導入する方法を検討する必要があると述べた。
解き放たれるロボット
4番目、「解き放たれるロボット」。ロボットが様々な場所に解き放たれつつある。ザンビアでドローンが血液検体を空輸したり、図書館でドローンが書架の点検を行うようになったり、「DNAオリガミ」と呼ばれる技術を使ったナノロボットの可能性が探索されている。産業的にも設備保全や配送、介護など、さまざまな領域でのロボット活用が検討されている。
ロボットを解き放つカギは「エコシステム形成」だという。山根氏は事例としてトヨタが構想中のコネクテッドシティ「Woven City」と、羽田空港の「Haneda Robotics Lab」を挙げた。
そしてMira Roboticsなどを例として、現場での継続的なテストと更新の実施が重要だと述べた。更新のためにはトラストとエコシステムの形成が重要だ。「様々なトラストをどのように構築していくかが非常に重要なポイントだ」とまとめた。
新型コロナウイルス禍については短期的にはロボット導入が加速されると述べ、長期的にはデータと知見を共有する仕組みを確立してロボットを育てていくことが重要だと述べた。
イノベーションのDNA
最後の5つめは「イノベーションのDNA」。継続的なイノベーションエンジンをどう生み出していくのか。ポストデジタル時代はテクノロジーを使いこなすだけでは不十分であり、「サイエンスとテクノロジーを企業のDNAに組み込む」ことが重要だという。そして自社成果を自社以外にも展開して遍在化していくこと、サイエンスの進歩を取り込み業界に破壊的インパクトを与えること、「DARQ(ブロックチェーン、AI、拡張現実、量子コンピューティング)」に、いち早くリーチすることが重要だとした。
先進企業はデジタルテクノロジーの成果を展開・遍在化して新しい価値を生み出し始めている。たとえばスターバックスは自社のモバイルアプリとロイヤリティプログラム技術をライセンス化して、Brightloom社に提供し、無店舗レストランの「ゴーストレストラン2.0」モデルのプラットフォーム化を目指しているという。このほか、セルロースナノファイバーを使ったコンセプトカー、ウォルマート・カナダでのブロックチェーンソリューションの活用などを事例として紹介した。
サイエンスとテクノロジーを企業のDNAに組み込むのが、アクセンチュアのいう「テクノロジーCEO」だ。「テクノロジーCEO」とは、単に技術に詳しいCEOではなく、企業の核にテクノロジーを融合して考えられるCEOのことだという。
新型コロナの影響については、今回のパンデミック自体が「イノベーションへのストレステスト」のような状況となっており、イノベーションを組み込んでいるかどうかで差がつき始めている。今後、新しいパートナーシップや製品が、新しい世界のビジネスとテクノロジーを新定義する可能性があるとした。長期的な視点については、今後も企業は世界と共に変化し続けなければ遅れをとってしまうとした。
最後に、「テクノロジー企業」とは「ビジネスの核にテクノロジーが融合している企業」だと改めてまとめ、単に技術に詳しいだけではなく、ビジネスの核にテクノロジーが融合している状態を作らないといけないとし、「テクノロジー思考」の重要性を強調した。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!