「ibuki」(いぶき)と呼ばれる子ども型のアンドロイドを知っていますか。
子どものデザインが採用されていることには大きな意味がある。多くの人は「子どもを守ってあげたい、手を差し伸べたい」という感情を持っている。ibukiは周囲の人に助けを求めながら社会の中でどう振る舞うか、という人間性の研究に活用されている。
「JST ERATO 石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクト」(HRIプロジェクト)が、8月6日に開催した研究&成果発表のための第四回シンポジウムの中で、大阪大学基礎工学研究科 助教の仲田 佳弘氏が「人と共に行動する車輪移動型 子どもアンドロイドの研究開発」というタイトルで「ibuki」を紹介、その研究内容と、現在の開発フェーズを公開した。
HRIプロジェクトは人間と親和的に対話することができる自律型ロボットの実現に向けた研究を進めている。(関連記事「ヒト型ロボット「知的システムの実現への構成的アプローチ」人間らしい会話と社会での共生「石黒共生HRIプロジェクト」成果発表」)
■動画 ibuki Joy of living
車輪移動型 子どもアンドロイドの研究
ibukiが発表されたのはおよそ2年前。発表ではハードウェアが中心に紹介され、当時は遠隔操作ロボットという位置づけだった。
自律動作ロボットに進化
その後、センサー類を追加し、それらの統合システムや、自律化と動作の自動生成といったソフトウェア連携の研究開発を進めた「バージョン2」へと移行している。
現在は、カメラ、マイクアレイ、IMUセンサー、自律移動のためのレーザーレンジファインダー等が搭載されている。
自律動作にはシュミレータが重要になってくる。開発中の動作プログラムを実際にibukiで稼働させる前に、シミュレーション上で実行して正しく意図通りに動作するかをチェックする。そのシュミレータシステムも開発されている。
ibukiを活用した研究開発において、もっとも重要なポイントは3つある。
歩行にも感情表現
ibukiにもHRIプロジェクトらしい研究が詰まっている。まず、人の歩行を身体全体で表現することだ。ibukiは移動できる車輪機構を持っているが、人が歩行する動作を模倣し、車輪機構でありながら、移動時には上半身を上下に動かして、身体全体で歩行を表現するためのアクチュエータが下半身に組み込まれている。
■動画 Walking-like motion
また、移動中の動作にも感情表現を与え、嬉しそうに歩く、怒って歩く、悲しそうにトボトボと歩くなどを表出し、その感情が周囲の人にどのように受け止められるかを実験した。
■Perception of Emotional Gait-like Motion of Mobile Humanoid Robot Using Vertical Oscillation
「GAN」を用いて「人らしい動作の自動生成」
更には最新のAI技術のひとつ「GAN」を用いて「人らしい動作の自動生成」を行なっている。46自由度を使って人らしい動作を生み出すしくみにGANを使った。「GAN」はGenerative Adversarial Networksの略称で、日本では「敵対的生成ネットワーク」と訳されている。GANは複数のニューラルネットワークが敵対し、お互いを騙すことで競い、自動的に学習・成長を繰り返すAI生成モデルのこと。
人と手を繋いで歩くことの意味と重要性
冒頭の動画の中でも人とロボットが手を繋いで歩くシーンが見られるが、このように手を繋いで移動することで人の感情にどのような変化がみられるかを調査した。
「対話以外の方法で人に意図を伝えられるか」人の移動での感情表出も、コミュニケーションのひとつとして大きな意味がある。手を引いてもらっているときは、肩関節のセンサーで人の位置を把握し、引いてくれている人についていくような動きを行う。
更には、ibukiが人に道案内をするケースも想定して実験が行われた。手を繋いでいない場合、ibukiに案内してもらっている人はibukiに視線が集中しているが、手を引かれている場合はibukiに視線を置かず、周囲に広く視野を広げていることがわかった。
子どものデザインが採用され、車輪機構を持つユニークなアンドロイド「ibuki」は、それを受け止める周囲の人間の反応の変化や影響を調査するために研究と開発が進められている。それは人間とアンドロイドの結びつきや連携、コミュニケーションなど、多くの分野で役立つものだ。
今後もibukiの研究結果や成果、進化に注目していきたい。
■ ibuki -Breathing life-
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。