アマゾンウェブサービスジャパンがAWSをMaaS基盤として本格展開へ トヨタやゼンリン、小田急のMaaSアプリ「EMot」で連携

アマゾン ウェブ サービス ジャパンは、APIや開発ツールを豊富に用意している「AWS」を、MaaSエコシステム基盤(プラットフォーム)の”本命”を確固たるものにするため、本格展開していく考えだ。8月19日、「MaaS Japan」を推進する小田急電鉄と共同で記者発表会を行い、同システムの開発に協力し、運営を担当しているヴァル研究所がMaaSアプリ「EMot」(エモット)の開発で使用している環境やツールを具体的に発表した。

記者発表会に登壇した3名。
【登壇者】
アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 技術統括本部長 執行役員 岡嵜 禎氏
小田急電鉄株式会社 経営戦略部 次世代モビリティチーム 統括リーダー 西村 潤也氏
株式会社ヴァル研究所 執行役員 CTO 見川 孝太氏

「AWS」は、Amazonが総合オンラインストアの展開で培ってきた技術から生まれたクラウドサービス(クラウドプラットフォーム)「アマゾン ウェブ サービス」のこと。アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社はそれを提供している日本法人。


AWSとMaaSエコステム基盤

AWSジャパンの岡嵜氏は「MaaSとは何か」から触れた。MaaSはMobility as a Serviceの略称。国土交通省の定義を引用し、「複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービス」であることを紹介した。


MaaSをこの視点から捉えた解りやすい例がMaaSアプリ「EMot」だと言える。小田急は2019年10月にオープンな共通データ基盤「MaaS Japan」を活用した「EMot」を開発。その開発と運用に携わるのがヴァル研究所だ。ヴァル研究所は鉄道の乗り継ぎソフト「駅すぱあと」で知られる会社だ。


移動サービスを組み合わせて検索

例えば、「小田急本社」(新宿)から「駒沢オリンピック公園」まで行きたい場合、現状では多くのユーザーが電車の経路、バスの経路などを個別に調べたり、タクシーの料金などと比較するケースもあるだろう。

これまではユーザが鉄道、レンタカーやタクシー、買い物など、それぞれのサービスごとに会員登録、別のアプリを使って情報を得ていた。これからはそれらのアプリやサービスが統合され、より高い利便性が実現する社会をAWSジャパンは描く

「移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行う」MaaSアプリ「EMot」では、新宿駅まで徒歩、新宿から渋谷乗換で三軒茶屋駅までが電車(具体的な路線や時間・料金)、三軒茶屋駅からはタクシーが提案される。これが複数の移動サービスを組み合わせた提案、の意味だ。


更にはタクシーの部分をタップすると、タクシー配車アプリの「mov」と「Japan Taxi」と連携、目安の料金が表示され、配信の指示まで「EMot」からの遷移画面で実行することができる。


「EMot」ではこれらのサービスを、鉄道・バス・タクシー・シェアサイクルなど、様々な交通手段を組み合わせた移動サービスだけでなく、観光サービスや、日常の飲食などの生活サービスに関わる電子チケット購入などにまで拡大したサービスとなっている。

「EMot」の生活サービスとの連携の例。提携のショッピングセンターで買い物をすると、バスなどの公共交通の利用料金が無料になる電子クーポンなどを発行する

「MaaS Japan」に参画・連携している企業の例

ユーザから見れば、鉄道やバスで言えば、小田急だけでなくJRや私鉄各社、バス会社など多くの交通機関と連携してはじめて使いやすいものに感じてくるため、今後はいろいろなサービス事業者との連携が肝になってくるのは間違いない。

小田急もいろいろな事業単位でJR東日本やJR九州との連携を果たしているが、「MaaS Japan」全体の連携でJR各社や私鉄グループ各社との連携が望まれるところだ

そこには企業間の政治・戦略的なものがあるとともに、プラットフォームの課題が大きく立ちはだかる。


AWSジャパンがMaaS基盤の市場を取りに来た

この「MaaS Japan」をシステム基盤として支えているのが「AWS」(Amazon Web Services)だ。もともとAWSは自動運転やコネクテッドカー等におけるモビリティサービスとの連携には積極的だったが、今回はMaaSサービスを支える技術要素とAWSサービスを報道陣に紹介するとともに、MaaSサービスに照準を合わせて本格展開を宣言する格好になった。


awsジャパンが導入や提携の事例として紹介した企業は、ティアフォー、トヨタ自動車、ゼンリンの3社。
ティアフォーは自動運転技術でリードしている日本発の企業。


トヨタとAWSは、コネクティッドカーをはじめとして、トヨタのモビリティサービス・プラットフォームの強化に向けて業務提携を締結したことを8月18日に発表したばかり(正確には、トヨタ自動車株式会社とAmazon.com社傘下のAmazon Web Services, Inc.社との業務提携)。

ゼンリンは地図データの制作・販売を中心に行う企業で、モビリティの分野では道路地図情報などを豊富に持つ。道路情報は次世代モビリティを支える重要な情報となり、膨大なデータは常に最新情報に更新・提供されることが求められ、さまざまなサービスと連携させることがMaaSのポイントになることは間違いない。



AWSがMaaS基盤で提供するコア技術

AWSがMaaSのプラットフォームとして最適だと自負する理由のひとつが、豊富なコア技術を取りそろえ、APIやツール等で提供している点だ。また、前述のように、決済システムで既に利用されていたり、Amazonのエンターテインメントコンテンツとの連携も将来的には可能性を示唆する。


今回、ヴァル研究所が実際に「MaaS Japan」で使用している技術を公開したのも、開発と運用の利便性や、既に開発にAWSを活用している企業や開発会社に向けて、使い慣れたツール群が利用できる点をアピールするものだろう。
なお、ヴァル研究所が公開した構成内容は下記の通り。



いよいよ加速するMaaS。そのプラットフォームを抑えるのはどこになるのか。JRや私鉄各社、自動車メーカー系や交通サービスはどのように連携していくのか。しばらくは目が離せない。

ABOUT THE AUTHOR / 

神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

PR

連載・コラム