広島大学病院は、ウシオ電機の222nm紫外線ウイルス不活化・殺菌技術「Care222」を使って新型コロナウイルスの照射実験を行った結果、新型コロナウイルスを不活化する効果が確認されたことを発表した。
これは、中心波長222nm(ナノメートル、10億分の1メートル)の紫外線が、新型コロナウイルスの不活化に効果がある、ということを世界に先駆けて発表したものとなった。また、従来から殺菌などに使用されている波長254nm紫外線と比較して、波長222nm紫外線は人の目や皮膚に安全とされている。
この実験は、広島大学病院 感染症科 大毛宏喜教授、ならびに同大学大学院 医系科学研究科ウイルス学 坂口剛正教授グループが行い、発表したもの。
ウシオ電機は「これまでに立証されていた「Care222」が人体に比較的安全性が高いことに加えて、新型コロナウイルスへの不活化効果が明らかとなったことで、学校や企業、商業施設などの経済・社会活動を止めずに新型コロナウイルスの感染防止を実現する手段のひとつとして「Care222」の活用を更に拡げたい」とコメントしている。
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波長222nm紫外線は新型コロナウイルス対策に有効
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、紫外線などの非接触型ウイルス不活化技術に注目が集まっている。そこで注目したのが「波長222nm紫外線」。この紫外線は、一般的に殺菌などに使用されている波長254nm紫外線と比較して人の目や皮膚に安全とされている。
広島大学病院感染症科の北川浩樹診療講師、野村俊仁診療講師、大毛宏喜教授と広島大学大学院医系科学研究科ウイルス学の坂口剛正教授のグループは、紫外線照射装置「Care222」(KrClエキシマランプより出力された紫外線をフィルターにより狭波長とした222nmをピークとする200~230nm領域の紫外線ランプ、ウシオ電機株式会社)を用いた、中心波長222nm紫外線が、新型コロナウイルス不活化に効果があることを世界に先駆けて明らかにした。(今回の広島大学病院らの検証では、222nm紫外線のウイルスに対する有効性の実験が行われ、安全性の実証実験は行われていない)
この研究では、プラスチック上の乾燥した環境において、照度0.1mW/cm2の222nm紫外線を30秒間照射で、99.7%の新型コロナウイルス不活化を確認した。この研究により、222nm紫外線を用いた新型コロナウイルス感染症に対する感染対策への応用が期待される。
この研究成果は、2020年9月4日付けでAmerican Journal of Infection Control誌のオンライン版に掲載される。
プラスチックに付着したウイルスに「Care222」照射実験
以下、広島大学病院の説明から編集部で加筆。
今回研究グループは、ウシオ電機製の紫外線照射装置「Care222」を使って、新型コロナウイルス不活化効果を調査、プラスチック上の乾燥した環境において、10秒間照射で88.5%、30秒間照射で99.7%の新型コロナウイルス不活化を確認した。一般的に用いられる定量逆転写PCR法(※1)は、不活化されて感染力のないウイルスも検出してしまうため、本研究では培養法を用いて紫外線によるウイルス不活化効果を評価した。
新型コロナウイルス感染症は、飛沫感染、接触感染により伝播すると考えられてきた。実際に、新型コロナウイルス感染症患者を診療した病室のベッド柵などからも新型コロナウイルスが検出されいる。
従来、多くの医療機関において、消毒剤を使用して手による清掃を行ってきたが、紫外線などの非接触型ウイルス不活化技術にも注目が集まっている。
近年は、医療機関において紫外線などの非接触型殺菌・ウイルス不活化技術が徐々に使用されるようになってきたものの、これらの紫外線照射機の多くが「波長254nm紫外線」を使用しているため、人の目や皮膚にも悪影響がある。皮膚がんや白内障を誘発すると考えられている。そのため、人のいない環境に限定されて使用されている(人がいない環境にしてから、自律移動ロボットや遠隔操作ロボットで紫外線を照射して殺菌)。
一方、波長222nm紫外線は、254nm紫外線と同等の殺菌・ウイルス不活化効果を認め、254nm紫外線と比較して目や皮膚への障害性が少ないという報告が増加している。しかし、222nm紫外線によるインフルエンザウイルスや他のコロナウイルスへの不活化効果は報告されていたが、新型コロナウイルスへの不活化効果はこれまで明らかではなかった。
なお、Care222の生体への安全性(エビデンス)についてはウシオ電機より解説があり、222nm紫外線の照射には許容限界値(TLV)が定められていて、万が一、許容値(22mJ/cm2)の数十倍以上照射されたとしても皮膚や目に傷害が起こらないことが、弘前大学、コロンビア大、ハーバード大、神戸大学、島根大学等で確認されている、という。
定量逆転写PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)は、逆転写酵素を用いてRNA を鋳型に逆転写を行い、生成された相補的DNA に対してリアルタイムPCR を行って目的のRNAを定量する方法。
今後の展開
222nm紫外線の目や皮膚への安全性の報告が増加しており、今回新型コロナウイルスへの不活化効果が明らかになったことで、幅広いシーンで、有人環境下での222nm紫外線による新型コロナウイルス感染対策への応用が期待される、という。そのひとつとして照明器具メーカーと連携して、蛍光灯や室内灯に「Care222」を組み込んで使用することが考えられる。
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掲載誌: American Journal of Infection Control
論文タイトル: Effectiveness of 222-nm ultraviolet light on disinfecting SARS-CoV-2 surface contamination
著者: Hiroki Kitagawa, Toshihito Nomura, Tanuza Nazmul, Omori Keitaro, Norifumi Shigemoto, Takemasa Sakaguchi, Hiroki Ohge
DOI: 10.1016/j.ajic.2020.08.022
【研究支援】
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「ウイルス等感染症対策技術開発事業(実証・改良研究支援)」の「既に開発・上市されている機器等(空気清浄機、UV殺菌装置、素材等)によるウイルス等感染症対策への有効性の確認を行う研究支援」
課題名:「新型コロナウイルス感染症に対する222nm紫外線を用いた感染対策に関する研究開発」(研究代表者:大毛宏喜氏)
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。