PCR検査での感染リスクを遠隔操作ロボットで軽減 モーションリブ、慶応大、横浜国大が力触覚ロボットで基礎検証

PCR検査に必要な検体を採取する作業は、医療従事者と被検者が直接対面して行うため医療従事者には感染リスクが伴う。その作業を遠隔ロボットで行おうという試みが始まっているが、鼻の奥から検体採取するには医療従事者の触覚が重要になる。

モーションリブ株式会社、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュートハプティクス研究センター、国立大学法人横浜国立大学は非対面でPCR検体採取を可能とする遠隔操作システムを開発。医師と共に技術の基礎検証を行ったことを発表した。

このシステムは機械/ロボットの力加減を自在に制御することができるリアルハプティクス(※1)力触覚伝送機能を有しており、医療従事者は作業中に手先の感覚を確かめながら遠隔操作で検体採取作業を行う事ができる。
また、遠隔操作を通して蓄積した動作データを利用することで、将来的には自動で医療従事者の動作を行うシステムへと発展させることが可能となる。


模型を用いた基礎検証実験で遠隔操作システムを通して感覚的に作業可能であることを確認する医療従事者の映像。挿入及びスワブの角度の変更に2つのモーターを用いており、これらのモーターの角度センサーから、反力などのハプティック情報を受け取り、コントローラー側のモーターへと伝送するシステムになっているようだ。

また、今回の実験ではカメラやスピーカ等視聴覚情報に基づく医療従事者の別室からの誘導と本システムの自動動作を組み合わせることで、検体採取作業の自動化が見込めることも検証・確認された。
このように、医療従事者の感染リスクを低減するだけでなく、自動化、省力化をすすめることで、秋冬で本格化する可能性がある新型コロナの第二、第三波のパンデミックに備えることができそうだ。


※リアルハプティクスについて
リアルハプティクスとは、機械/ロボットの力加減を自在に制御することができる、慶應義塾大学の大西公平教授(ハプティクス研究センター・副センター長)が発明した力触覚技術です。この技術により、力触覚の可視化・分析、遠隔操作、自動化、感触再現が可能となる。




将来的には自動PCR検体採取も?コア技術となる汎用力触覚ICチップとは

今春からの新型コロナウイルスで一躍有名になったPCR検査。しかし、そのために必要な検体採取作業は医療従事者と被検者が直接対面して行うため、医療従事者の感染リスクが存在する。また、医療従事者をハブとした感染の予防には、防護服を中心とした多くの物資が必要となるため、医療機関への負担が大きい。

しかし、今回開発したシステムでは、医療従事者がロボットを遠隔操作して検体を採取することで、被検者と医療従事者が物理的に隔離された状態での検体採取が可能となるため、医療従事者の感染リスクの低減が見込まれる。

従来の遠隔操作型ロボットでは難しかった、繊細な鼻孔の奥から検体を採取する作業。
それを実現する上でキーとなったのが、機械が力触覚を自在にコントロールするようにするキーデバイス「AbcCore」だ。
「AbcCore」は力センサや特殊なモータなどを必要とせず、市販のモータの位置センサの情報を使って力加減や力触覚伝送の制御を実現する事ができるマイコンボードだ。
機械が力触覚を自在にコントロールするために必要なリアルハプティクスを社会実装する慶應発のベンチャー、モーションリブが開発したAbcCoreは、すでに60社以上の企業に先行提供されており、共同研究や実用化が始まっているという。


このシステムではコントローラーを通して「ロボットに伝わる感触」が医療従事者にフィードバックされるため、被検者を傷つけないやさしい動きが可能になるのだという。


ロボットの活動分野を広げていくリアルハプティクス技術

従来から指摘されている少子高齢化による人手不足や、今回のコロナ禍による労働集約型の業務に対するロボティクス化の一つにティーチングの難しさや、力制御の難しさがあった。

リアルハプティクスにより「ちょうどよい力加減」でショートケーキを潰さないように掴み上げるロボット。力加減をデジタルデータとして扱えるため、力の拡大/縮小をすることで「ちょうどよい力加減」「ちょうどよいフィードバック」などを自由自在にコントロールすることも可能だ。

しかし、AbcCoreのように、特別なモーターや力覚センサなしに力制御、力覚伝送が可能なデバイスが増えていけば、遠隔操作や、遠隔操作時に蓄積したデータによる技能のアシストや自動化などが今後様々な分野に広がっていくことが予想される。

ハプティクスはまだまだアカデミック分野での研究も必要な分野だと思われるが、今回のように、大学とスタートアップがうまく連携することで、研究分野をスピーディに社会実装することも可能そうだ。
新型コロナウィルスの流行を機に変化する新たな社会の形に、ハプティクスがうまく乗れるか、自動化やロボティクス関係者は今後も観察していく必要があるだろう。
ロボスタでも注意深くお伝えしていきたいと思う。

【モーションリブ株式会社】
モーションリブ株式会社は、機械が力触覚を自在にコントロールするために必要なリアルハプティクスについて、機械への実装を可能にするための研究開発から、キーデバイスである「AbcCore」の製造販売まで行う慶應義塾大学発ベンチャーです。 「AbcCore」は力センサや特殊なモータなどを必要とせず、市販のモータを使って力加減や力触覚伝送の制御を実現する点に技術的優位性をもっています。この「AbcCore」は、すでに60社以上の企業に先行提供されており、共同研究や実用化が始まっています。
また当社は、共同研究を行う「ソリューション事業」、「AbcCore」を提供する「デバイス事業」、技術を提供する「ライセンス事業」の3つの事業を柱に、お客様の製品企画から量産販売までをサポートできる体制を構築しています。モーションリブ株式会社では、リアルハプティクスの実用化をさらに加速するために、共同研究企業様の募集を積極的に行っています。
https://www.motionlib.com/
【慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュートハプティクス研究センター】
慶應義塾大学はリアルハプティクス技術の研究機関としてコアとなる特許群を所有しています。また、ハプティクス研究センターは、この技術を広く遍く世界の市場や産業界の人々が利用可能となることを目的に、民間企業が参加するリアルハプティクス技術協議会を運営し、共同研究企業様を募集し、新技術の研究を進めています。
http://haptics-c.keio.ac.jp/
【国立大学法人横浜国立大学(工学研究院下野研究室)】
横浜国立大学は、実践的な学術の国際拠点として「グローバル・エクセレンス拠点大学」を目指しています。実践とは理論だけでなく、その応用としての社会貢献を重視することです。この一環として工学研究院下野研究室では、医療・福祉・介護といったヘルスケア領域へのリアルハプティクス技術の実用展開を目指した研究を推進しています。特に、力触覚の制御性能を高めるための独創的なアクチュエーション技術や先進的なネットワーク制御技術といった基盤技術を研究すると共に、医療デバイス、リハビリロボット、手術ロボットなど様々な人間支援システムの試作開発を行っています。
http://www.tsl.ynu.ac.jp/

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梅田 正人

大手電機メーカーで生産技術系エンジニアとして勤務後、メディアアーティストのもとでアシスタントワークを続け、プロダクトデザイナーとして独立。その後、アビダルマ株式会社にてデザイナー、コミュニティマネージャー、コンサルタントとして勤務。 ソフトバンクロボティクスでのPepper事業立ち上げ時からコミュニティマネジメント業務のサポートに携わる。今後は活動の範囲をIoT分野にも広げていくにあたりロボットスタートの業務にも合流する。

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