ハンドルのない自動運転バスがついに実用化 定常運行は東京の羽田「HICity」が先陣 運行開始セレモニーと体験会レポート

ついに都内でハンドルのない自動運転バスの定常運行が実現した。「HANEDA INNOVATION CITY」(以下「HICity」読み:エイチ・アイ・シティ)。全国では東京都大田区が先陣を切ることになった。
速報としてロボスタの記事でもお知らせしていたが、9月18日(金)に定常運行に関する報道関係者向け発表会と出発式、自動走行バス運行開始セレモニーが行なわれたので、ロボスタ編集部ではその様子をレポートするとともに、試乗した動画を公開。

発表会とテープカットが行われた。当日は快晴だったが強風。「この強風を自動運転バス普及の強い追い風にしたい」とBOLDLYの佐治社長

「NAVYA ARMA」の走行ルートは約1km。敷地内ではあるが、一般車両が通行するため公道扱いとなり、ナンバーを取得して道路交通法に準じて運用する必要がある。走行する速度は法定速度の8km/h。

自動運転バス「NAVYA ARMA」をひと目見ようと多くの報道陣が駆け付けた。カラーリングは先端技術を感じる「青」と、文化産業をイメージした「赤紫」でデザインされている


自動走行バス運行開始セレモニー、関係各社の役割

定常運行する場所は羽田空港に隣接する大規模複合施設「HANEDA INNOVATION CITY」(以下「HICity」読み:エイチ・アイ・シティ)。日本の伝統的な文化と、最新技術が融合・交錯するコンセプトを掲げ、国土交通省からスマートシティのモデルプロジェクトに選定されている。羽田みらい開発が開発を進めてきた。

発表会当日の「HICity」の様子(参考)。ロボットやモビリティが行き交う

使用する車両はフランス製の「NAVYA ARMA」(ナビヤアルマ)。ロボスタの記事でも今まで頻繁に登場してきたのでお馴染みの読者も多いだろう。



今回の発表会では、羽田みらい開発、鹿島建設、BOLDLY(ソフトバンクの子会社で旧SBドライブ)、マクニカ、日本交通が登壇した。

「HICity」の事業主体 羽田みらい開発株式会社 代表取締役社長 山口 皓章氏「自律走行バスは文化と最新技術の融合、イノベーションの種になる」


鹿島建設

羽田みらい開発には9社の企業が結集しているが、鹿島建設はその代表企業をつとめる。大田区から約50年間の委託を受け、産業の創造拠点としてこの場所を開発した。日本全国はもとより世界に向けて日本の産業を発信していく。

鹿島建設株式会社 執行役員 開発事業本部長 塚口 孝彦氏「産業創造の中核のひとつとしてモビリティを据えた。自動運転の実証、実践、応用の場がなによりも大切で重要」

また、鹿島は建設現場や街全体を遠隔から管理できる「3D K-Field」というシステムを持っていてHICityに導入した。スマートシティにおける空間情報データ連携基盤だ。そのシステムによって自動運転バス等がどこを走行中かなどの運用情報を把握できる。

スマートシティにおける空間情報データ連携基盤「3D K-Field」の画面。案内板としても活用できる


BOLDLY

BOLDLYは従来から、様々な車種を使った自動運転バスの開発と推進を行なってきた。4年前にSBドライブとして始まったこの事業は、既に50回以上の実証実験をこなしてきた。佐治社長は「HICityには設計の段階から声をかけていただき、自動運転バスの運用を考慮した町のデザインが行なわれてきた。そのような事例は過去に例がない」と語った。

4月にSBドライブからBOLDLY株式会社に社名を変更。代表取締役社長 兼CEO 佐治 友基氏「いよいよ実用化に踏み出す第一歩。オペレーションを構築する上で、マクニカと日本交通、両社と連携させていただくことはとても意義が深い」

今回のHICityが定常運行では日本初の事例となったが、来月には茨城県境町でも3台を導入して定常運行が始まる(今年春の運行開始予定だったが、新型コロナウイルスの関係で運行開始が遅れてしまった)。その例を紹介し「イノベーションの種が育まれ、自動運転バスの実用化がどんどん進む、ここがそのきっかけになる」と語った。


日本交通

日本交通は創業して80余年、東京最大手のタクシー・ハイヤー会社。タクシーやアプリ等のサービスではロボスタのニュースで今まで何回か登場してきたが、自動運転バスに関わるニュースとしては初めての登場となる。
今回のプロジェクトにおける日本交通の役割は人員の提供だ。自動運転バスは自律運転ではあるものの、現在の法律に対応するため、運転士と保安員が同乗する。また、運行には遠隔監視システムとしてBOLDLYが開発した「Dispatcher」(ディスパッチャー)が導入されるが、それを使って監視・運用する人員が必要となる。運転のプロを抱え、育成に力を注いできた日本交通が携わる。

日本交通株式会社 常務執行役員 佐藤 真吾氏「以前は自動運転によって運転士の仕事が奪われる、と考えられていたが、昨今の自動運転技術の進化を見ていると私たちの仕事を変革していく必要がある、と感じている。将来の自動運転社会で、運転のプロの技術を活かす仕事を開拓していく必要がある」


マクニカ

マクニカは自動運転バス「NAVYA ARMA」の日本総代理店。車両の輸入、販売、メンテナンスやサポート面を担当する。マクニカは半導体やセキュリティシステム、ネットワーク等の分野の販社としても知られるが、エンジニアを多数抱えて開発面でも定評がある。自動運転事業には5年前から携わり、自動運転AIアルゴリズム開発、実験車両のインテグレーションやパッケージソリューションなど幅広く手掛けている。今回は自律走行バスの導入と保守、安全運用の面で力を注いでいく。

株式会社マクニカ 代表取締役社長 原 一将氏「車両の輸入、車検やナンバーどり、日本の公道を走るための運用・技術支援、アルゴリズムやセンシング等の技術サポートを行っている」

なお、マクニカはこの自動運転バスのプロジェクトの他に、低速モビリティサービスの運用でも参加している。当日はHICityの2階の広場で自律走行低速電動カートの試乗会も行われた。また、事業としては、自治体や企業が指定した車種を自動運転対応に改造し、開発運用サポートするサービスも用意している。

■セレモニーと出発式の様子


GPSに頼らない自動走行システムを内製で開発(BOLDLY)

ハンドルのない自動運転バスの実用化に先陣を切ったのが「東京都」になったことは、ある意味で意外であり、偉業だといえる(新型コロナの影響で結果的にそうなったとはいえ)。実用化プロジェクトに伴って、導入される自動運転バス「NAVYA ARMA」にも改造が施されている。今回は施設内の屋内が一部走行エリアに含まれるため、GPSが使用できないコースに対応する必要がある。それにはGPSに頼らず、3Dマップとセンサーで高精度の走行が求められる。

施設内の屋内コース(公道扱い)を走る「NAVYA ARMA」。屋内コースでは衛星と通信するGPSは使用できない

そのためにNAVYA社の技術提供をベースに、BOLDLYが内製でほとんど誤差のない正確なマップデータを生成するシステムを開発した。その結果、自己位置推定率の精度が従来は85%程度だったものが、99~100%に向上、自律走行に活かせるようになった。


メディア向け試乗会では佐治社長が運転士に

発表会の後、メディア向け試乗会が開催された。車両には運転士と保安員が各1名乗車するが、運転士にはなんとBOLDLYの佐治社長が搭乗。出発や進行のボタンを押す簡単な操作だけで、自動運転車両が走る様子が披露された。
自動運転バスとその技術、動向に興味がある人には必見の内容になっている。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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