パナソニックが少しユニークなプロジェクトを展開している。プロジェクト名は「D+IO」(ドゥーイングアイオー)。先日、そのプロジェクトの第2弾としてペットの活動量や体重、飼育する環境の温度・湿度などが測定できる「小動物ヘルスケアデバイス」のレシピを発表した。
パナソニック? ペット? 小動物のヘルスケア? レシピを公開!?
謎だらけのこの発表、いったいどんなものなのか、メディア向け先行個別体験会に参加してみた。
「小動物ヘルスケアデバイス」のレシピとは
みなさんペットは飼っているだろうか? 新型コロナウイルス感染症によるテレワークや外出自粛によって、自宅で過ごす時間が長くなり、その結果、ペットを飼う人が増えたらしい。なかでも、ハムスターや小鳥などの小動物は飼育しやすいことから人気とのこと。
そこで「D+IO」プロジェクトは考えた。「犬や猫用に比べて、小動物用のヘルスケア製品は市場に多く出回っていない。小動物の健康状態や飼育環境をIoTセンサーで可視化して、健康管理を行うことで病気の早期発見を促進し、みんなを笑顔にしよう」。
使用するセンサー類
こうして誕生したのが、5種類のセンサーを使ってハムスターの生活を数値化、温度や湿度はもちろんのこと、体重、運動量、回し車の回転数、活動時間などを計測するシステムが「小動物ヘルスケアデバイス」だ。
歪みセンサー
ハムスターが箱の上に乗ると体重がわかる。これで毎日の体重計測もらくらく数値化。
環境センサー
小動物の飼育にとって重要な、湿度と温度を計測して数値化。
ドアスイッチ
回し車の回転数などを計測できるぞ。
モーションセンサー
動きを検知し、活動時間を計測。
測距センサー
特定のエリアの通過回数を計測できる。おうちの出入りの回数を測っちゃおう。
小型のコアモジュール「M5Stack」にセンサーを接続
これらのセンサーをArduino環境で開発できる小型のコンピュータ(コアモジュール)「M5Stack」(3,500円程度)に接続してハードウェアを構成。センサー類を適宜、ケージの適所に設置すれば完了。
パナソニックのビジネスとは無関係
ここまでの解説を読んで「小動物ヘルスケアデバイス」の概要は分かっていただけたのではないかと思うが、あのパナソニックとこのデバイスが結びつかない、と首をかしげる人も多いと思う。その通り、「小動物ヘルスケアデバイス」はパナソニックが発売する製品ではない。同社はペットを追尾するカメラなどのスマートホーム製品はたしかに開発し、とり扱ってはいるが、「小動物ヘルスケアデバイス」製品でペット産業に参入しようというわけではない。
担当者の川島さん(冒頭の写真)は「みなさんが自分たちで簡単に作れるように、つまり”DIY”できるようにレシピを公開しました」と話す。
つまり「小動物ヘルスケアデバイス」のコンセプトムービー、制作するためのレシピを紹介するムービーを公式サイトで、必要な超小型のコンピュータやセンサー、作り方を、ソフトウェア開発のプラットフォームで有名な「GitHub」(ギットハブ)で公開。みんなに自作して欲しい、と促しているのだ。
ソフトウェア開発のプラットフォームとして「GitHub」はエンジニアには知られているが、ソフトウェア開発者じゃない人にはちょっと難しいのでは? しかし、川島さんによれば「一般の人、ペットを愛でている普通の人にも「小動物ヘルスケアデバイス」が作れるように、部品リストとその購入先、配線図、組み立て手順、使い方などをやさしい手順でレシピを公開しています」ということだ。
超小型のコンピュータやセンサーは特にパナソニック製品というわけではなく、「一般にオンラインショップで販売されている、買いやすいパーツを選んで紹介しています」(川島さん)
■小動物ヘルスケアデバイスの作り方
それではパナソニックの売上に繋がらないではないか・・。
その問いに対して川島さんは「例えば、コロナ禍で店頭でマスクが足りなくなりましたが、必要なモノは自分で作る、しかも自分のためだけでなく家族や友人など身近で大切な方のためにつくる、そんなモノづくりを応援したいと考えています。「D+IO」では、パナソニックの売上に関わらず、大切な身近な人やペットを思ったものづくりを目指し、たくさんの人が利用してもらうことがミッションなんです」と語った。
「小動物ヘルスケアデバイス」の等のDIYを通じて、人間の創造力を取り戻そう、というわけだ。
「FUTURE LIFE FACTORY」とは
「D+IO」は、パナソニック株式会社デザイン本部の「FUTURE LIFE FACTORY」で取り組みが行われている。FUTURE LIFE FACTORYが取り組んでいる「大切な人に届けたいモノづくり」を応援、具現化する活動だ。
■D+IO-人間の創造力を取り戻す -FUTURE LIFE FACTORY by Panasonic Design
だれでも自作できるプロダクトを企画・設計する。例えば今回の「小動物ヘルスケアデバイス」。設計はデザインエンジニアが担当し、自社デバイスにはこだわらず、一般的で購入しやすい材料や電子部品で構成する。そのレシピをオープンソースとして「GitHub」に公開。制作と利用を促す。
その第一弾として「CO2換気アラートデバイス」を既に公開。室内のCO2濃度を計測し一定の二酸化炭素濃度を超えると音と光でアラートを出し、換気を促すデバイスを作成するレシピだ。
そして第二弾となるのが「小動物ヘルスケアデバイス」だ。「面白そうだ」と感じたら、「GitHub」にアクセスしてレシピを入手してみてはどうだろうか。可愛いハムスターや小鳥たちの健康管理と、IoTデバイスの工作体験が一度に実現できるにちがいない。
「Maker Faire Tokyo 2020」でみられる
なお、実際に「小動物ヘルスケアデバイス」を見てみたい、という人は、10月3~4日に東京ビッグサイト 西4ホールで開催される「Maker Faire Tokyo 2020」のスポンサーブースにD+IOが出展される(ハムスターはたぶん昼間は寝ている)。コロナ感染防止対策をしっかり行ったうえで、足を運んでみるといいだろう。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。