NVIDIAとメルセデスが描くシミュレータの中の「自動運転の未来」。
BMWの工場で活用されているシミュレータをもとに作った未来の工場。
「GTC 2020」秋の基調講演は全9章で構成されている。ロボスタ読者が最も注目する内容に触れているのが第8章「Everything that Moves will be Autonomous」だ。「NVIDIA Jetson Nano 2GB」については別の記事で紹介したので、今夏の記事ではその続きを解説しよう。内容は、「NVIDIA Isaac」「Omniverse」「NVIDIA DRIVE」「NVIDIA DRIVE Sim」だ。
ロボティクス シミュレータ プラットフォーム「NVIDIA Isaac」
今までロボスタでも何度か紹介してきたが「NVIDIA Isaac」(アイザック)はシミュレータだ。設計して構築したシステムやロボットをシミュレータの仮想空間で動作させてブラッシュアップし、その過程を経て現実社会で試す、現在のデバイス開発はその手順で行われている。基調講演ではAIサーバDGXを使ってシステムを構築し、Isaacでシミュレートし、エッジデバイスに組み込まれた、Jetsonのような小型のAIコンピュータで実行される。
ファン氏は「システムの設計やプログラム、シナリオが正しいかどうかを確認するためにIssac simulationが活躍するのです」と語る。「Issac simは、Omniverse(後述)上で展開します。それはとてもリアリスティックな世界で、ロボットをデザインしたりトレーニングしたりするためのものです。Issac Simでは、USD universal scene description and URDF(Unified Robot Description Format)のファイルをインポートします」と続け、BMWの工場で使われているシステムを基にした1本の動画を紹介した。
「このシミュレーションは、将来のファクトリーを示したものです。このロボットたちはIssac Stackの中で動いていて、リアルタイムにファクトリーと他のエージェントと繋がっています」と語った。
■The Factory of the Future
NVIDIA Omniverse ベータ版を公開
ここで「Omniverse」(オムニバース)というキーワードが登場している。今回β版の公開が発表された。「Omniverse」はリアルタイムでグラフィックス・スタジオのワークフローを共有・効率化するオープン コラボレーション プラットフォームだ。Autodesk Maya、Adobe Photoshop、Epic Games Unreal Engineなどに対応している。複数のアプリケーション間でモデリング、シェーディング、アニメーション、ライティング、視覚効果、レンダリング情報を共有・交換できるPixar「Universal Scene Description」(USD) 技術にも対応している。このプラットフォームとIsaacは連携して動作する。
以前に公開された「Omniverse」の動画をまず紹介しておこう。
次に最新の「Omniverse」に関する動画。
■Robots Building Robots
メルセデスの自動運転車が仮想空間を走る
次に紹介したのは、NVIDIAの自動運転システム。ここでもまた「AIのスタート地点はDGXサーバによるトレーニングシステムです。このAIスーパーコンピュータは、膨大なデータから学習し、トレーニングをすることで成長します。そして、自動運転用AIソフトウェアが自動運転車にデプロイされ、車載用の「NVIDIA DRIVE AVコンピュータ」によって自動運転が行われます」と付け加え、シミュレータの重要性が語られた。
NVIDIA DRIVE Sim
「NVIDIA DRIVE Sim」は、自動運転用のAIが学習を行うためのシミュレータだ。基調講演ではメルセデスとの強固な連携に基づき、シミュレータ環境で自動運転車に指示を出し、自分をピックアップしてもらい、目的地まで自動運転で快適に走行する様子が公開された。
「実際の道路でのテストの前に、私たちのエンジニアは「Omniverse」上に作られた「DRIVE Sim」(シミュレータ)を使って、バーチャルの自動運転車を仮想空間で走行させます。「Omniverse」のリアリティが、シミュレータと現実世界との景色の差異を減らし、反復してトレーニングを実施することを可能にしています」
自動運転技術は成熟してきているが、まだ決定的に足りないものがある。それは経験だ。人間に比べて応用力が劣るAIは、人間より多くの経験から運転を学ぶ必要がある。それは昼間だけなく、夕方、夜、雨、風、霧などの様々な天候も経験しなければならない。
■NVIDIA DRIVE Sim Software Built on NVIDIA Omniverse
フアン氏は「2024年には「NVIDIA DRIVE AV」が自動車に搭載されるでしょう。左側がRTXのサーバーで世界中の景色とセンサーのデータを仮想空間の中に作り出します。右側が「NVIDIA Drive AVコンピュータ」です。この2基は接続されていて「Drive sim」で作られる世界の景色を見て「Drive AVコンピュータ」のAIはDriveシミュレータの中で走行しているのです」
「Drive AVコンピュータは実際の自動運転車用スタックを走らせています。おそらくですが、このAIシステムは”自分が仮想空間にいる”ということを自覚していません。もしかしたらAIだけでなく、いつの日か私たちも仮想空間にいるのか現実社会にいるのか区別がつかなくなる日が来るかもしれませんね」と締めくくった。
■字幕 NVIDIA GTC October 2020 Keynote Part 8: Breakthroughs in Autonomous Machine Development
字幕が出ないときは↓
その他、今回の基調講演で登場した「気になるキーワード」を一部だけだが紹介しよう。
NVIDIA MAXINE
コロナ禍もあって、ビデオ会議が注目されているが、映像の解像度を上げたり、音声ノイズを除去したり、本人や背景をエフェクトしたり、別の言語に瞬時に翻訳したり、リアルタイムのアクセラレーションやエフェクト処理を行う技術「MAXINE」が発表された。
百聞は一見に如かず。動画を見た方が理解しやすいはずだ。
https://developer.nvidia.com/maxine
DPU(Data Processing Unit)
データセンターを高速化・効率化し、ビジネス効率もアップさせる「DPU」というワードが新しいプラットフォームとともに登場した。「DPU」はData Processing Unitの略称。
同社によれば、従来のデータセンターのプロセッシングシステムのサーバは、ネットワークや記憶装置、セキュリティ、データのやりとりなど、稼働するための基本的なインフラ管理のために約30%ものシステムリソースを消費していたという。DPUは基本的なインフラ管理をサーバのハードウェア側で処理することで、ソフトウェアが利用できるシステムリソースを大幅に拡大するというもの。
それを担う「DPU」製品がNVIDIA「BLUE FIELD-2」「BLUE FIELD-2X」だ。NVIDIAが買収したMellanoxのプロダクトの延長となる「Data Center Infrustructure-on-a-Chip」と銘打たれている。「BLUE FIELD-2」はGPUなし、「BLUE FIELD-2X」はGPU搭載モデルだ。
「BLUE FIELD」向けのSDKや各種APIなど、DPUアーキテクチャとして「DOCA」(ドカ)が発表された。
NVIDIA DPUのロードマップ。「X」あり/なしのモデルが、2023年にはGPU内蔵ベースのものに統合され、1000SPECint、400TOPSに達する予定。
同社はプレスリリースを通じて「ASUS や Atos、Dell Technologies、富士通、GIGABYTE、H3C、Inspur、Lenovo、Quanta/QCT、Supermicro といった、世界中の大手サーバー メーカーが、自社のエンタープライズ向けサーバー製品に NVIDIA DPU を組み込む予定です」と語っている。
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GTC2020 October
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。