赤ちゃん型ロボットでの疑似体験は「生きがい作りや癒しの効果があるか」 ヴイストンらが長期的に実証実験
国際電気通信基礎技術研究所(以下、ATR)、ヴイストン、社会福祉法人隆生福祉会、独立行政法人科学技術振興機構(以下、JST)は、ATRとヴイストンが共同開発した赤ちゃん型ロボット「かまって『ひろちゃん』」との触れ合いが認知症高齢者(要介護者)とその介護者に及ぼす効果を検証する実証実験を2020年10月下旬より6ヶ月、隆生福祉会の介護施設「特別養護老人ホームゆめパラティース」(兵庫県尼崎市)で開始することを発表した。
放置すると機嫌が悪くなる赤ちゃん型ロボット
「かまって『ひろちゃん』」は赤ちゃんサイズのロボット。ユーザーがひろちゃんに「抱っこ」や「たかいたかい」をすると機嫌が良くなり、放置すると機嫌が悪くなる。最終的には泣き出してもしまう。1歳頃の人間の赤ちゃんの録音音声を使用しており、笑い声や泣き声、喃語(乳児が発する「あっあっ」や「ばぶー」のような意味のない発声)を発する。石黒浩氏が提唱した人のミニマムデザイン(人の存在を感じるための最低限の要素のみで人工システムをデザインするアプローチ)を用いており、要介護者に好きな表情や顔を想像してもらうことで、いっそう愛着が湧く効果が期待できる。価格は5,000円(税抜)。
■ 癒し系の介護用品 かまって「ひろちゃん」
データベース「かまって ひろちゃん」
生きがい作りや癒しの効果があるかなどを長期的に検証
今回の実証実験では要介護者が赤ちゃんをあやす行為をひろちゃんで疑似体験することで、生きがい作りや癒しの効果があるか、介護者の負担を軽減できるか、長期間の運用実験を通して検証する。まずは1ヶ月、介護施設「ゆめパラティース」において要介護者10名程度を被験者とした予備実験を行い、その後、被験者数や施設数を増やして本格的な実験を行う予定(ひろちゃんのように要介護者に働きかけるロボットを「インタラクティブドール」と呼ぶ)。また、インタラクティブドールによるセラピー効果を検証することで、要介護者と介護者を支援する新たな産業分野「インタラクティブドールセラピー」分野の創出を狙う。
今後は、この実験の状況を紹介したり、ひろちゃんを使った介護レクリエーションの方法を紹介する、Webサイト(ひろちゃんコミュニティサイト)を開設し、情報発信を行うとともに、コロナ禍で孤立しがちな高齢者施設の社会的な繋がりを支援していく。
なお、今回の研究はJST 戦略的創造推進事業(CREST) 研究領域「人間と情報環境の共生インタラクション基盤技術の創出と展開」における研究課題「ソーシャルタッチの計算論的解明とロボットへの応用」の支援を受けて行う。
要介護者・介護者ともに癒やしが求められている
コロナ禍により、触れ合いの機会が激減している。特に介護施設では介護者と要介護者の触れ合いが不可欠だが、高齢者は重症化リスクが高く、消毒や飛沫防止など細心の注意が必要となり、これまでと異なる介護が求められている。要介護者、特に認知症高齢者は普段と違う雰囲気に不安を感じている。また、介護者側の負担も増加している。
このような状況において、介護施設ではコミュニケーションロボットによる癒やし効果が期待されている。しかし、ロボット自体が高価であるため、1つの施設が導入できるロボットの数は1体〜数体であり、要介護者は複数人で1台のロボットを共有することになる。しかし、これでは要介護者は感染リスクが高くなり、介護者にとっては感染リスク低減のための負担がさらに増えるなど、現実的ではない。
そこでATRとヴイストンは要介護者1人に1台提供することを目指して、安価なロボット「かまって『ひろちゃん』」を開発。ひろちゃんは、石黒浩氏((大阪大学特別教授、ATRフェロー、ATR石黒浩特別研究所 所長)が提唱した人のミニマムデザインのコンセプトをもとに、人間の赤ちゃんの存在感を伝えるロボット。
2020年1月から本体価格5,000円(税別)で販売を開始した。この価格であれば、要介護者1人に1台ずつ提供することが現実的になり、ロボットを共有することによる新型コロナウィルスの感染を回避することができる。また、コロナ禍の影響により、介護施設では部外者の立ち入りを制限していることが多いが、ひろちゃんは壊れにくく扱いやすいため、介護者のみによる介護現場での運用が可能。
今後の展開
今後は、この実験の状況を紹介したり、ひろちゃんを使った介護レクリエーションの方法を紹介するWebサイト(ひろちゃんコミュニティサイト)を開設して情報発信を行うとともに、コロナ禍で孤立しがちな高齢者施設の社会的な繋がりを支援していく。ひろちゃんの長期的な導入で得られるノウハウに基づく現場での運用マニュアルの作成や、ひろちゃんを効果的に利用するためのセミナーの開催など、ひろちゃん運用専門家の育成にも取り組む。
海外では要介護者への癒しに人形を使う取り組みを「ドールセラピー」と呼ぶ。ひろちゃんのように要介護者へ働きかけ(インタラクション)を行うロボットは「インタラクティブドール」と呼び、ひろちゃんを通して要介護者と介護者を支援する「インタラクティブドールセラピー」の創出を目指す。
赤ちゃん人形を認知症高齢者に渡し、あやしてもらうことで、癒し効果をねらったセラピーの1つです。ドールセラピーで使用する人形は、基本的に声を出したりといった働きかけをしない。また、実際の赤ちゃんにそっくりの人形を用いることが多い。
「かまって『ひろちゃん』」
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山田 航也横浜出身の1998年生まれ。現在はロボットスタートでアルバイトをしながらプログラムを学んでいる。好きなロボットは、AnkiやCOZMO、Sotaなどのコミュニケーションロボット。