立命館大学(以下、立命館)はイノベーション・ジャパンの開催に合わせ、立命館が出展する研究シーズを詳しくまとめた特別サイト「立命館大学研究シーズ紹介サイト」を大学ホームページにて公開した。
立命館はJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)が主催し、9月28日〜11月30日まで開催されている国内最大規模の産学マッチングイベント「イノベーション・ジャパン2020~大学見本市Online」に研究シーズ10件を出展している。
国内最大規模の大学見本市「イノベーション・ジャパン」
「イノベーション・ジャパン」は大学の技術シーズと産業界の技術ニーズを結びつける、国内最大規模の産学連携マッチングイベント。技術者・事業開発担当者、研究企画担当者、研究者等らが主に参加し、昨年度は14,179名が会場へ来訪した。今年度は例年と異なり、JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)を主催として、大学等(大学、大学共同利用機関法人、高等専門学校等)の研究成果内容を産業界に対して紹介する「大学見市」のサイトが開設され、オンラインにて96日間(約3ヶ月間)にわたり行われる。事前選考により厳選された研究成果405件が出展予定。
イノベーション・ジャパン
10の最新技術とシーズ紹介
今回のイノベーションジャパン2020では立命館らしい特色ある「知」や「技」を広く社会へ還元し、社会と共に生き続ける価値を創造していく産学官連携を実現すべく、10シーズを紹介している。
以下、特設サイトより一部を抜粋(画像は特設サイトより引用)。
1.食材に混入する異物の触覚センシング
下ノ村和弘・理工学部教授
人がやる方が早いと言われるような複雑な作業を機械に置き換える際には、触覚が鍵となります。例えば、さまざまな角度から部品を組み立てる場合、部品の角度や差し込み位置を視覚(カメラ)だけですべて捉えるには時間も手間もかかるので、触覚も使って判断できると効率的です。
私は、高性能の触覚センサーを作り、ロボット作業化を進めたいという思いで研究を続けてきました。食品加工は今後ロボット化が期待される典型的な分野です。今回は、人の目で見て手で触るしかないとされている、エビの殻残留確認作業を機械化できないか挑戦しました。
ロボット作業化の鍵となる「触覚」を研究する
2.ウェアラブルデバイスによる脈波計測値を改変する技術
村尾和哉氏・情報理工学部准教授
近年、センサーで生体情報(血流や皮膚の状態)を取得し、そのデータを利用してサービスを提供する動きがあります。例えば、歩数に応じて割引が適用される生命保険などです。一方で、生体情報とサービスが直結するほど、データ改変によるサービス悪用の可能性が懸念されます。医療や介護の分野における判定・サービス料金の基準がデータ改変によって揺らぐと、社会問題につながりかねません。それを阻止するためにもまず、生体情報を改変する技術を明らかにし、正しく計測できるデバイスを開発するというものがこのシーズです。
3.あなたにだけ届くパーソナル香り環境
野間春生氏・情報理工学部教授
学生の頃からバーチャルリアリティ(VR)、とくに触覚や嗅覚の研究をしています。鑑賞者の嗅覚を刺激するには、香りをいかに素早く届け、いかに素早く消すかという課題があります。4Dムービー等において静止した鑑賞者へ香りを届ける方式は実用化されていますが、現在主流になりつつあるヘッドマウントディスプレイを装着して空間を自由に動き回るパーソナルなVRシステムでは、一人ひとりに違う香りを提示し、手早く消臭できる、新しい仕組みが求められていました。そんななか、学内の研究者からヒントを得てこのシーズをひらめきました。
VRにおける香りを研究する
4.画像解析を用いた歩行・走行動作の解析
長野明紀氏・スポーツ健康科学部教授
私の研究室には、陸上のハードル競技をしている学生がいました。この競技ではハードルを跳び越えるときに減速、地上を走るときに加速する運動を繰り返しています。どの選手がどのタイミングで、どの程度の速度変化をしているかを調べるシステムを考案しようと思ったのが、このシーズの出発点です。
スポーツの現場だけではなくヘルスケアの分野でも、歩行・走行速度は重要な指標として注目されており、幅広いニーズがあると考えています。画像解析技術を用いて人の運動について考察することは私の長年のテーマであり、好きな分野でもあるので、この知見を活用して時々刻々の位置と速度を求める方法を考案しました。
5.光の強さによって異なる物性を発現するフォトクロミック分子
小林洋一氏・生命科学部准教授
私はもともとレーザーを用いて目では見えない非常に速い現象を分析する研究をしていました。しかし、レーザーを用いた分析は物質の光機能の本質的な情報を抜き出すことができる一方、その現象は目では見えず、感じることもできないため、本当に研究を通じて社会貢献できているのかという歯がゆさを覚えていました。その後、助教として研究に従事していた時にレーザー分析だけでなく材料に関して学ぶ機会があり、両分野の知見を生かし合うことで新しいものを生み出せるという強みに気づきました。それ以来「五感で感じられる」をキーワードに、社会にインパクトを与えられる材料の開発を目指して研究を行っています。
「五感で感じる」ことへの思いが新材料を生み出す
6.ネタバレが嫌いなユーザにぴったりなストーリー検索システム
西原陽子氏・情報理工学部准教授
漫画や映画の中の代表的なシーンや小説のあらすじの説明文などを先に見てストーリーを知ってしまい、楽しみを奪う「ネタバレ」。本技術はネタバレを防ぎつつ、ストーリー検索を可能にする技術です。その仕組みは、ストーリーを構成するオブジェクトを抽出し、出現頻度を積み重ね棒グラフで可視化するというもの。オブジェクトの出現変動を可視化することによって、大まかなストーリーをネタバレなく見ることが可能です。
ここでのオブジェクトとは、キャラクターの名前や地名、キャラクターたちが使うアイテムの名前など。ある程度ストーリーを知っている人であれば、出現頻度の推移で大体の話の流れを想像して「この巻は既に読んだ」などと判断ができ、シリーズ漫画の買い飛ばしや重複買いを防ぐことが可能になります。また、新しく読む漫画や本を探している人にも活用できるシステムです。ある漫画を起点に、登場人物の出現頻度の推移が似た動きをする漫画を抽出すれば、ネタバレすることなく、似た雰囲気の漫画にたどり着くことができるでしょう。読者にとっても、販売側にとっても、作者にとっても利点のある技術ではないかと考えています。
7.異なる言語や知識をつなぐコミュニケーション能力の教育支援アプリ
ワイト・ジェレミー氏・情報理工学部准教授
現在、世の中に翻訳アプリはたくさんありますが、そのほとんどが文字から文字、ないしは音声から文字に翻訳するもの。翻訳の精度もあまり高くなく、発言の中のちょっとした感情の機微や言い回しの違いなどを正確に反映する段階には至っていません。「この翻訳アプリを使えばコミュニケーションは完璧だ」と謳っている翻訳機もありますが、まだまだ機械翻訳には不十分な点があると感じていました。また、システムに頼り切って話すだけでは、システムがなければ会話ができなくなってしまいます。この状況を解決するため、新たに開発したのが本技術。人間同士の会話に、システムあるいは評価者が介在し、話し方や情報の不足、言葉の選び方などの基本的なコミュニケーションについてフィードバックするシステムです。
音声入力された内容を機械が判断し、その内容を評価者がどれくらい理解できたかをアプリ画面に3段階の表情で表示。話者の発話が評価者に認識された・されなかったことを可視化して、相手に伝わりやすい話し方や語彙選択の能力を高めるサポートを行います。ユーザ自身のコミュニケーション能力を教育することで、システムがなくても異なる言語や知識、文化の間で円滑なコミュニケーションができるように支援します。
8.分子性材料のナノ構造制御–光学素子に超機能を創発
堤治氏・生命科学部教授
汎用性の高い高分子材料から新たな機能を引き出す技術の開発が私たちの研究テーマです。素材開発の分野で主流である分子そのものを設計・合成し、新たな性質を持たせるという方法は環境負荷も高く、コストもかかります。合成により生み出された数多ある分子を、新たな素材へと昇華し、高機能化するためのアプローチとして、私たちが目を付けたのが分子の「並べ方」。新しい分子を作るのではなく、既存の素材の中で分子の並び方を変えたり、最適な形で配置したりすることで、素材に新しい機能を与え、性能をより高度にする方法を模索しています。
9.数値的指標に基づく訓練が可能な口腔ケアシミュレータ
松野孝博氏・理工学部助教
近年、新たな発展を見せている看護理工学。工学の考え方を導入し、医療分野の知識や技術をデータとして次世代に残すための研究を行う分野です。その中で、私が取り組んでいるのが「歯の健康」。歯の状態は人間の体全体の健康につながるということが立証されています。例えば、高齢者の死因として多く見られる誤嚥性肺炎は歯を失い、食べ物をかみ砕けないために誤って飲み込んでしまうことが原因で起こっています。また、歯の健康はコミュニケーション能力にとってもプラスとなり、健康寿命を延ばす一つの要因となっています。
このように非常に重要な歯の健康ですが、維持するためのノウハウは経験値に基づいた感覚的な知識に頼りがちです。こういった現状に対して、医療現場から「体系的に学びたい」という要望があったため、本研究に取り組むことを決めました。ベテラン歯科衛生士のテクニックをデータとして蓄積し、初心者に対してそれらを活用した指導ができる技術の開発を目指しています。
10.天井、壁面を用いた物流及び空間の再構成のためのロボット
李周浩氏・情報理工学部教授
明かりをつけたいライトを指さすと、スイッチが自動的にオンになる、といったように、空間全体に知能を与え、人間の活動を支援させるという「空間知能化」が私の研究テーマです。若いころに親しんだSF映画のような世界を実現するため、ロボット単体ではなく、空間全体がロボットと連動することで人間を支えるような仕組みを作りたいと思ったのがきっかけでした。
空間に知能を与えるというのは、「空間に脳や目玉をつける」ということ。センサやデバイスを分散配置し人間の行動を認識させることで、空間が人間の要求を理解し、対応できるようにします。研究を進める中で、大きな壁となったのが動的な状態への対応です。知能を持つ空間の中で動き続ける人間に対して、常に最適な状態を作るには知能化空間の脳や目玉であるセンサやデバイスそのものを動的にする必要があるという結論に至りました。例えば、静的な空間では一度照明を設置してしまうと、動かすことはできません。その空間の中を人間は動き回ることになり、照明は常に「ベストな状態」ではなくなります。「ベストな状態」を維持するためには、センサやデバイスも空間の状態に合わせて動く必要があります。このような動的な空間の変化に対応し、人間がより快適な生活を送ることを可能にするのが、私の開発しているロボット「MoMo」です。
空間そのものが人間の活動を支える「空間知能化」
特設サイト
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山田 航也横浜出身の1998年生まれ。現在はロボットスタートでアルバイトをしながらプログラムを学んでいる。好きなロボットは、AnkiやCOZMO、Sotaなどのコミュニケーションロボット。