日本経済新聞社が主催する、人工知能(AI)と交通・移動技術をテーマにしたグローバルイベント「AI/SUM&TRAN/SUM with CEATEC 2020」がはじまった。「TRAN/SUM」側のイベントとして最初のパネルディスカッション「第一部 デジタル都市からみたモビリティ、MaaSの発展可能性について」が開催された。「AI/SUM」を含めた本格的なスタートは明日、菅義偉総理大臣の挨拶、つづく経済産業大臣の基調講演で幕開けする。
デジタル都市からみたモビリティ、MaaSの発展可能性について
最初のセッション「デジタル都市からみたモビリティ、MaaSの発展可能性について」は、前回のTRAN/SUMでのセッションで注目された「MaaSの発展」についてを、IT政策や投資の観点などから語る。コロナ禍の影響およびデジタル都市からの観点など、改めて現時点におけるモビリティ業界の立ち位置について振り返りと今後期待される展開の議論が行われた。
モデレーターはMaaS Tech Japan 代表取締役の日高洋祐氏、登壇者として内閣府の信朝裕行氏、投資家の立場からグロービスキャピタルパートナーズの渡邉佑規氏、日本政策投資銀行の石村尚也氏、第四次産業革命日本センター フェローの土井崇和氏が参加した。
モデレーターの日高氏は「モビリティ」と「スマートシティ(DX)」に関する課題を議論したいとし、自動運転、シャトル型モビリティ、レンタサイクルとスクーター、空飛ぶクルマなどに触れながら、各モビリティの特徴と連携のメリットを解説した。
一般的に既によく知られているが、MaaSの先行する成功事例としてフィンランドの「Whim」を紹介、成功した理由や成功によってもたらされる更なるメリット等にも触れた。
内閣府の信朝裕行氏は「MaaSはスマートシティのエコシステム形成の起点となったのか?」という問いかけをし、「UX起点に立ったデジタライゼーションの起爆剤としてのMaaS 第2章」がはじまるとした。具体的には職責認証やアクセス管理も一体化したID連携や分野間データ連携の促進(ページレジストリや連携APIなど)をあげた。
モデレーターの日高氏がMaaSはスマートフォン操作が基本になることを指摘していたことを受けて、信朝氏も、スマートシティ戦略は高齢化社会に対応するものでもあり、そのUX起点に立てば「スマートフォンが高齢者にとって使いやすいUIになっているか」も重要な課題だとした。
MaaSやスマートシティに投資が進まない理由
グロービスキャピタルパートナーズの渡邉佑規氏は、スマートシティやMaaS分野への投資はまだ、それほど実績がない、として、その理由を具体的に考察した。
投資しづらい理由は「従来からの法令的な制限を受けている」とともに、既存事業からの圧力もあって、投資家にとってもグレーゾーンと考えられている、と語った。また、交通モビリティ業界はサプライチェーンが複雑、事業者とユーザー側ともに高齢化もあって、必ずしも良いサービスが選ばれたり、評価されない、という点にも障がいがあるという。更には時間軸、自動運転の動向が読めない点もVC目線で言うと投資しづらいとしている。3~4年程度でどこまで変化が起こるのかが予測しにくいために、投資の資金が流入しにくい環境を作っているようだ。
第四次産業革命日本センタの土井氏は、現在とある公共交通政策をサポートしているが、複数の箇所で実際に実装することをやってみた上で課題を洗い出すフェーズに進んでこそ、共通の課題が見いだせる、とし、実践の重要性を指摘した。
日本政策投資銀行の石村氏は、日本はスマートシティやMaaSでイニシアティブをとろうとしている。そうであれば、前例やヒト真似ではなく、自分の頭で考えて先行していかなければならない、とした。また、いきなり大きなプロジェクトにトライするだけではなく、スモールスタートで小さくたくさん失敗しながら進んでいく組織体制が必要だ、と続けた。
「AI/SUM & TRAN/SUM」は10月22日(木)まで開催される。「AI/SUM」を含めた本格的なスタートは明日、菅義偉総理大臣の挨拶、つづく基調講演で幕開けする。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。