Mira Robotics、シンプルな「ugo Stand」を発表 21年から警備用途に本格展開へ
遠隔操作できるアバターロボットを開発するMira Robotics株式会社は、機能を絞った新モデル「ugo Stand(ユーゴー スタンド)」と「ugo R(ユーゴー アール)」を発表した。従来の「ugo」は「ugo Pro(ユーゴー プロ)」と名称を変更し、ugoシリーズは3モデルで展開していく。より簡易なモデルを低価格で提供することで、エンドユーザーの導入コストを下げる。
「ugo」は、総合ビルメンテナンスの大成株式会社からの提供となる。既存警備システムとのすりあわせによるソリューション化も大成が行う。Mira Roboticsと大成は2019年11月から実証実験を行ない、2020年2月には資本業務提携している。Mira Roboticsも現在は主なアプリケーションを警備・ビルメンテナンス分野に絞っている。
警備ソリューションは警備業務を「見える化」する独自プラットフォーム「T-Spider(ティースパイダー)」とセットで提供される。「T-Spider」は警備業務で必要とされる現場での報告をタブレット上で簡易に入力してデータの蓄積を行い、日々の報告書(日次・週次・月次)を作成し、施設管理者にプラットフォーム上で即時共有することができる。また警備ソリューションモデルのugoである「ugo TS-P」との連携により、ロボット巡回業務後に巡回報告のレポートを自動作成することができる。MiraRoboticsと大成では、この機能によりugoによる警備業務の仕事の幅を広げたい考え。「T-Spider」は他のドローンや監視カメラとも連携できるという。
サービス予定は2021年1月からを予定。提供形態・価格の詳細は未定だが、高スペックモデル「Pro」をおよそ月額15万円前後とし、一番リーズナブルな価格帯の「Stand」を10万円前後、標準モデルの「R」はその中間くらいとする予定。単なるリースではなく、年間保守なども込みにする。年間出荷台数は数十台、数十件のオフィスビルへの導入を目指す。
ugo 製品サイト
■ 動画
移動の必要がない場所向けの立哨警備用「ugo Stand」
今回、新規に開発した「ugo Stand」は、エレベーターを用いるフロア間移動が必要のない場所にリーズナブルな価格で導入できることを想定したエントリーモデルだ。警備のうち「立哨」業務を主に担う。「スタンド」という名前のとおり、「棒」と「頭」だけに見える、空間に溶け込むインテリアのようなデザインとなっている。
高さは187cm、幅38cm、奥行き52cm。警備業務を行っていることを周囲に示しつつも圧迫感を与えすぎないように、頭部の目にあたる位置は、平均的な身長の女性の目線からやや下になるようにした。重量は30kg。カメラは二つ。通信方式は無線LAN、4G-LTE、5G。稼働時間は約4時間。
「立哨」を主な用途として想定している「スタンド」だが、移動による「動哨」警備も可能で、移動速度は約1.5-2.5km/h。2cm程度の段差なら乗り越えられる。メカナムホイールで全方向に動ける台車部分には今後、主にToFとLiDARなどのセンサー類を搭載していく予定だ。
「ugo R(ユーゴー アール)」は、双腕を持ってアームを使った軽作業やフロア移動が可能なロボットで、今回の発表で「ugo」標準モデルとなった。高さ180cm、幅38cm、奥行き58cm。重量は55kg。カメラは合計三台。基本的に従来の「ugo」から昇降機能だけを省いたものだ。
「ugo Pro(ユーゴー プロ)」は従来の「ugo」で、双腕と本体昇降機能を備える。約2mの高さから、床面近くまでの高さ調整可能なアームで、広範囲な作業エリアをカバーすることができる。様々な用途を探求する場合は「pro」を使うことになる。
現場ニーズに応え、「引き算」したモデルを開発
なぜシンプルなモデル「ugo Stand」を開発したのか。Mira Roboticsと大成は、非労働集約型の新たな警備ソリューションの提供を目指している。一人の警備員が複数のロボットやカメラをバックヤードから操るというモデルだ。大成と実証実験を行うなかで「自律走行機能とカメラ、会話機能だけをこなすシンプルなロボットも必要なのではないか」となり、上半身付きの「ugo Pro」から「引き算」したモデルを開発したとMiraRobotics取締役COOの羽田卓生氏は語る。
警備の半自動化を進めるためには、警備対象の空間利用者に対してはロボットの裏側にいる人の存在を感じさせつつも、裏側で操作している人にとっては極力負担の少ない端末であることが必要となる。そのため、「カメラだけ」のほうがシンプルで現実的だということになった。
人の気配で威圧感を感じさせない警備サービスを提供
一般に、警備ロボットはあまり人っぽいかたちではなくなる傾向がある。しかしMiraRoboticsのロボットは逆に人を感じさせるデザインを重視している。棒と頭だけになった「stand」も、同じコンセプトを継承している。これには、二つの意味が込められている。「警備」という業務上、裏側にいる「人」を感じさせつつ、同時に、監視されているという印象を和らげる効果を狙ったものだ。
デザインを行ったMiraRobotics取締役CDO(Chief Design Officer)の白川徹氏はこう語る。「普通に空間を使ってる人に対しては『監視されてるな』という印象は持ってもらいたくありません。『見ている』『警備している』ということを空間を使うユーザーに対して伝えつつも、あまり威圧感を与えないかたちで『見守っているんだな』とも思ってもらいたいんです。ですから、どんな空間にもマッチするデザインにしました」(白川氏)
球状の頭部は人との触れ合いの窓口だ。白川氏は「憑依できるポイント」を重視したという。インジケーターとして球状の頭部と、どこかユーモラスな印象の「目」をつけていることについても「警備しています、見ています、裏に人がいますということを伝えている」と語る。「目があることで『見ているな』という感じがするんです。瞬きもするんですが、瞬きすることで『生きている感』が出る。これが目じゃない表示にすると途端に無器質なかたちになります」(白川氏)。
ちなみに目だけではなく頂端のランプの点滅とも併用して「警備中」といった文字表示もできる。その場その場で臨機応変に表示を切り替える運用を想定している。
従来の「ugo pro」モデルよりもだいぶ大きい「頭」の部分の大きさについても、内部機構の都合のほか、威圧感を与えすぎず、かつ大きなビル空間のなかでも存在感を発揮する大きさとして設定した。スピーカーも「頭」部分に内蔵されている。なお実際のカメラは頭部部分の上にある。あまりカメラを目立たせすぎないように配慮したという。棒の素材はアルミで、中に配線類が入っている。棒はマットな塗装とし、光沢のある頭部とは質感を変えることで佇まいを整理した。
白いデザインは歯科医院の設備を参考に
なお、白川氏は「Pro」のデザインも手がけている。当初は警備以外の用途も想定されており、様々な場所で使うという想定があった。「まずは人が暮らす空間で用いられるものなので怖いと思ってもらっては困る」と考えた。そこで複雑な機構を隠すことを第一に、さらに怖くない印象にするにはどうすればいいかと思案した結果、白川氏が参考にしたのは歯科医院の設備や機械だった。歯科医院の設備は、白を基調とした色で威圧感を与えず、柔和なフォルムに包まれており、親和性のあるイメージを重視している。「ugo」のデザインもそれを踏襲したという。
スタートアップのフットワークの軽さで高速プロトタイピング
実証実験を踏まえて、フルスペックの「Pro」から引き算した「stand」だが、まだ簡易化することも可能だ。あるいは逆に、「stand」に腕を一本つけることもできそうだ。COOの羽田氏も「ここからまた足し算する方向、さらに引き算する方向もあり得る」と語る。「重要なことは警備ソリューション全体のなかで価値を持てること。『ugo Pro』による実証実験の結果、立哨と巡回の用途が見えてきた。そのなかで、腕がなくてもいい、昇降機能はなくてもいいという声に合わせてシンプルな『stand』と昇降機能を省いた『R』を作った。まずはスタンダードなかたちでひとまず土台を作ることが重要で、現在のニーズとして、このかたちがあるということです」。
また、「ugo」の用途自体も警備だけではない。他の用途向けにはまた別のかたちのモデルがあり得る。点検や清掃など、それぞれに特化したモデルのかたちを探しながら、現場への導入を進めながら考えていく。
現場の声に応えるためには素早い実装も重要になる。MiraRoboticsではスタートアップならではのフットワークの軽さで対応する予定だ。「stand」の場合は、デザインを決めてから実際に作り上げて動かすまでに3-4週間だったという。もともとIoT機器などを受託で開発していた「傭兵部隊」のような集団なので「仕様を決めてしまえばプロトタイプを作るのは早い」と胸を張る。
「全てが監視カメラ」にはならない
警備ロボットに対しては「監視カメラで良いのではないか」という意見も根強い。それに対してCOOの羽田氏は「全部ロボット、あるいは全部カメラで良いとはならない。『ここはロボットがあるといいよね』というところに、すっと出していきたい」と語る。ビル各所にセンサーを入れたインフラ全体の知能化も進められていくだろうが、日本には1万棟以上のオフィスビルがあり、入れ替わるにはかなりの時間がかかる。「移動体が必要がない場所もあるが、いっぽうで移動できるセンサーやカメラのニーズがなくなることはない」と見ている。そしてニーズに対して応えるソリューションとして提供していきながら、データ収集・活用も可能なプラットフォーム化を目指していく。
Mira Robotics
ABOUT THE AUTHOR /
森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!