前回は新発売のAIコンピュータボード「NVIDIA JETSON NANO 2GB 開発者キット」(以下、Jetson Nano 2GB)の特徴とレビューを解説しました。今回は「Jetson Nano 2GB」を使って、いま話題になっているNVIDIAのAI認定制度「Jetson AI Specialist」の認定を実際に申請してみて、取得にチャレンジしようと思います。
結果から言いますと、「Jetson Nano 2GB」を使った「マスク判定と検温のAI」のプロジェクトを作成して申請し、「Jetson AI Specialist」の【国内認定第1号】として無事に取得することができました!!それほどハードルは高くないので、申請から認定までの流れをお届けしますので、皆さんも挑戦してみてください!
「Jetson AI Certification」の概要
まずは「Jetson AI Certification」の概要について解説します。
このプログラムは、開発者、学生、教育者がJetson開発者キットを使ってAIプログラムが学習できる無料のコースです。2020年10月に発売された「Jetson Nano 2GB」は学生や教育者、研究者が導入しやすいように価格が抑えされていて、勉強や研究を行う支援や目標設定のために、このNVIDIA主催のAI技術認定制度と呼べる「Jetson AI Certification」が同時に発表されたのです。そうとなったら、チャレンジしたくなりますよね。
認定には「Jetson AI Specialist」と「Jetson AI Ambassador」の2種類があり、「Jetson AI Specialist」はおもに開発者や学生向け、「Jetson AI Ambassador」は教育者やトレーナー向けとなっていて、上の図のようにAmbassadorではインタビュー(面接)が追加されます。
今回は一般の「Jetson AI Specialist」取得にチャレンジするので、取得の手順はまずは「Jetson AI Fundamentals」というオンライントレーニングコースを視聴し、Jetson Nanoを使ったシステムを開発して評価を受ける、というステップでやっていきましょう。
AI認定にはどんな知識が必要なの?
「PythonとLinuxの基本的な知識」が必要
この認証を受ける際に推奨される前提知識として明記されているのが「PythonとLinuxの基本的な知識」です。
具体的にどの辺の知識が必要かというと、
あたりになります。
心配な人は、有志の方々がこの辺を解説した動画(英語)がYouTubeにたくさんありますので、事前に見ておくとよいかもしれません。ちなみに筆者は下の動画を観たりしています。
Learning the Linux Terminal and Command Line
Introduction to Python
追加で筆者が必要と感じた前提知識
このAI認定制度にはどの程度、英語のスキルが必要なのか、心配している人も多いと思います。プロジェクト評価など、米国NVIDIA本社に申請するので、英語で入力する必要があります。Jupyter Labのテキストを読んだり、簡単なテストに回答したり、と英語のスキルは多少は必要になります。ただ、動画の音声は英語ですが日本語の字幕付きですし、この記事や翻訳サイトを活用すればそれほど心配することはないと思います。
ちなみに筆者が上記以外に感じた追加の技術的な前提知識は以下の通りです。
オンライントレーニングで使用します。
コーステキストはJupyter Labで用意されています。
「Jetson AI Fundamentals」
アカウントを新規に作成する
最初にブラウザでNVIDIAのDLI(Deep Learning Institute)サイト内の「Jetson NanoでAIを始める」のページにアクセスします。右上のCreate Accountより、DLIのアカウントを新規作成します。
(※12/3追記: 現在、日本語版のDLIページは更新中のため申請が完了できないので、英語版のDLIページからアカウントの作成を行う手順を案内します)
「Getting Started with AI on Jetson Nano」
オンラインコースを受講する(動画を観る)
アカウントが作成出来たら、「Jetson NanoでAIを始める」というコースを受講します。これは約10~15分程度の動画を4本を含めてたWebコンテンツを視聴しながら画像系の機械学習プロジェクトを動かしながら学ぶコースになっています。
動画の視聴をしながら進めていき、確認テストにパスすると修了証が取得できます。受講した動画を参考に、Jetson Nanoのセットアップを含めて以下の要領で進めていきます。
進めていく途中で、選択式の簡単な確認テストが出題されます。受講の終了をするにはテストにパスしなければいけないので、必ずパスしてください。
テキスト内に内容説明の動画があるので、観ながら進めてもよいですが観なくとも進められます。
Hello AI World
「Hello AI World」はGitHubの説明に沿って、画像系のAIサンプルプログラムを動かすトレーニングです。
必須にはなっていますが、プロジェクト評価を申請する際にはこれを受講したかどうか確認されるわけではないため、実は受講を飛ばすことも可能です。ただし内容は濃く、自分でプロジェクトを作成する際の参考になるので、個人的には受講することをオススメします。なお、ロボスタの別記事に「Hello AI World」を解説した記事があるので、時間のある方はそちらを先に読んでおくと概要がつかみやすいかもしれません。
Hello AI World – github
「Jetson AI Fundamentals」の終了条件
オンライントレーニングが完了するとDLIサイトのマイページから終了証のリンクが見られるようになります。
最終的に、プロジェクト評価を申請する際にこのURLが必要になるので忘れないようにしてください。
プロジェクトベースの評価
次は、いよいよプロジェクトベースの評価です。自身でプロジェクトを作成して申請します。
公式サイトを見るとプロジェクトに関しては以下の内容が英文で書かれています。
プロジェクトベースの評価でやるべきこと
この英文のポイントを意訳すると以下のような感じです。
・オープンソースのプロジェクトを作成して提出すること。
・学んだ内容に基づき、NVIDIA Jetsonを使ってAIの要素を組み込むこと。
・プロジェクトの審査基準は、AI、効果/独創性、再現性、プレゼンテーションとドキュメント、の4項目に関して各5ポイントで評価する。
過去にJetsonを使った作品がまとめられている「Jetson Community Projects」というホームページがあり、そこに様々なAI作品が紹介されていますので、どんなプロジェクトを作成したらいいのかわからない、作成するプロジェクトを決めかねている、という人は参考にするとよいかもしれません。ただ、そのままコピー&ペーストではいけません。独創性が損なわれるのでオリジナルでユニークな要素が必要です。
今回作成したプロジェクトは「マスク着用判定AI」
今回、著者は、Jetson Nano 2GBを使い、AIがマスク着用の有無を判定するプログラムを作って申請することにしました。以前、ロボスタの記事で作成したAIシステムを改良したものです。
■ 動画 マスク判定AIプログラム
評価の判定に合わせて、以下のように方針を固めました。
評価への対応 | 期待する評価 |
---|---|
今回はAIでマスクの着用有無を判定して表示する機能をJetson Nano 2GBで作成。 | AI |
学習モデルをTeachableMachineの画像分類モデルにして、利用者のカスタマイズを 簡易にした。 |
AI, 再現性 |
オプションのIRアレイセンサー(AMG8833)を付けると検温もできる。 | 効果/独創性、再現性 |
GitHubリポジトリにDockerfileを用意し環境構築を簡素化。 | 再現性 |
デモ用動画をYoutubeにアップ | プレゼンテーションとドキュメント |
README.mdに画像を多用 | プレゼンテーションとドキュメント |
README.mdにAMG8833のピン接続、設置、確認手順を明記 | プレゼンテーションとドキュメント |
README.mdにdockerコンテナ作成手順、プログラム実行手順を明記。 | プレゼンテーションとドキュメント |
mask_camera
今回のプロジェクト作成で苦心した点
今回は土日を使い、合計4日間くらいでプロジェクトのサブミット(申請)までを行いました。比較的、苦労したのは以下の点です。
物理ピンデバイスにアクセスできるように設定するための調査に時間がかかりました。また、Jetson用TensorFlow2コンテナが用意されていなかったので、試行錯誤しながらDockerfileを作成しました。
dockerコンテナを動かすのにメモリがギリギリだったため、かなりヒヤヒヤしました。
当初ロボット連携や音声対応を考えていたのですが、ガチガチに機能を盛り込むよりも、ミニマムで作って後で誰か(もしくは自分が)機能追加できる余地を作っておいたほうが良いと思い、最低限の機能実装として追加センサーもオプションで動くよう疎結合な設計にしました。
プロジェクト評価のサブミット方法
プロジェクトが完成したら、申請フォームに従って入力します。
「Jetson NanoでAIを始める」修了証のURL、プロジェクトのリポジトリURL(GitHub)、YouTubeにアップロードしたデモ動画のURL、あと開発記事のブログはまだ書いてないのでNVIDIAのDeveloper Forumsに入力した投稿のURLを入れて、申請しました。これですべて完了です。
AI認定を無事に取得できました!!
公式サイトでは、申請してから10~14日で結果が送られてくる、と書かれていましたが、筆者の場合は一週間でメールが届きました。認定証はPDFファイルで、メールに添付されていました。
NVIDIAの担当者の方に聞いたところ、認定者はNVIDIA本社で管理されるので、通常の資格同様履歴書などに記載できたり、社内トレーニングなどにも使えるそうです。また、なんと今回の「Jetson AI Specialist」認定取得が【国内認定第1号】だということがわかりました!(パチパチ)
これから挑戦する人へのアドバイス
高価なAI検定は世の中にたくさんありますが、7,000円程度の投資と、実際に手を動かして学べるこのプログラムとAI認定制度は、これからAI開発を学びたい学生や、AI認定証を所得しておきたい研究者や社会人にとってオススメです!
なお、プロジェクトを決める際、単に「何か動くものを作る」というより「AIで社会課題をどう解決するか」という切り口でプロジェクトを考えたほうが、きっとうまくいくと感じています。
英語が苦手な人は少し不安かもしれませんが、翻訳サイトを活用して乗り切ることかできる範囲だと思いますので、ぜひ頑張ってチャレンジしてみてください!
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高橋一行Forex Robotics株式会社 代表取締役。AI、機械学習、ロボット、IoTなどのシステム開発を行いながら、コミュニティ活動やLTにも精力的に活動。 参加コミュニティ: 「ソフトバンクロボティクス公認コミュニティーリーダー」「 Creator's NIGHT eXtreme」 2020年のロボット業界を考える飲み会 共同主催 他