アイリスオーヤマがロボット市場に本格参入する。
アイリスオーヤマとソフトバンクロボティクスグループ(SBRG)が合弁会社「アイリスロボティクス株式会社」を2月1日に設立、当初はソフトバンクロボティクス(SBR)が開発した「Whiz i」「Servi」をもとに、アイリスロボティクス仕様も開発、アイリスオーヤマグループの販路を中心に販売を展開していく。(関連記事「【速報】アイリスオーヤマとソフトバンクロボティクスグループが合弁会社「アイリスロボティクス」を設立」)
ロボスタは両社の社長に単独インタビューを行い、連携して新会社を設立するメリットと強み、新会社の体制、アイリスオーヤマが「Whiz」シリーズを最も多く販売してきた成功の秘訣や戦術、重点的に販売していくターゲット等などを聞いた。
アイリスオーヤマがロボティクス市場に本格参入
ロボスタ読者にとっておそらく、アイリスオーヤマは日用品や家電等でお馴染みの企業だろう。そして、同社の商品企画と開発力の高さ、リリースまでのスピード感には一目置いているという人も少なくないのではないだろうか。
東日本大震災の後、電力供給が不安定になったことを受けて、省エネ効果の高いLED照明の大増産を行ったり、沿岸部の農地被害による作物不足に対応して、精米事業に参入するなど、分野を問わず、社会のニーズに即座に対応する姿勢を見せてきた。また、コロナ禍にあっては、マスクの国内製造や、サーマルカメラとAIを活用して検温/マスクの装着有無検知システムの製品化も記憶に新しい。
アイリスオーヤマの大山社長は会見で「当社はさまざまな社会課題や消費者のニーズに対応しながら成長してきた。これからはロボティクスの分野でも社会的課題を解決するために新たな会社を設立した」と語った。
記者発表会のあと、両社の社長らがロボスタの単独インタビューに応じてくれた。
ロボスタ単独インタビュー
編集部
アイリスオーヤマの商品開発力のスピードはもの凄く速いと感じています。どんな秘訣があるのでしょうか
大山社長(IRIS)
開発やマーケの担当者がトップに対して商品企画を提案するというしくみがあります。現場からの提案を会社のトップがすぐに検討して判断するスピードが速い会社だと自負しています。
また、人的、資金的、スペース的に余裕をもった会社経営を心がけています。それによって、大震災やコロナ禍など、緊急時に生まれる社会的な課題に、他社さまより一歩くらい早い対応ができるのかな、と思っています。
アイリスオーヤマとSBRのメンバー構成
編集部
新会社の出資比率や人員の構成などを教えてください
大山社長
資本金は1000万円、出資比率はアイリスオーヤマが51%、ソフトバンクロボティクスグループが49%です。従業員は20名、アイリスオーヤマから5名、ソフトバンクロボティクスから15名を予定しています。ほとんどが専門知識が高い法人セールスで構成します。ロボットの販売だけでなく、現場に合わせた使い方を提案していける担当者たちです。実際に販売を行うのはアイリスオーヤマの法人営業チーム、500~600名が行い、アイリスロボティクスのメンバーが同行してサポートします。もちろん、その先の代理店様にもご協力頂くケースもあると思います。
売上は初年度が50億円、2025年には累計1,000億円規模を目標にしています。
また、「Whiz」や「Servi」のオプション開発等についてはアイリスオーヤマのエンジニアを中心に行い、新製品はSBRと共同で行う予定です。ロボットのメンテナンスや修理はアイリスロボティクスが担当します。
アイリスロボティクスが解決を目指す4つの社会課題
編集部
先ほど、新会社設立の目的として「さまざまな社会的課題の解決」を掲げていました。具体的にはどのようなものがありますか?
大山社長
4つあります。ひとつめは感染症対策です。これは喫緊の課題なので、ソリューションを急ぎ揃えていきたいと思っています。他に日本が抱えている課題である労働者の人手不足、少子高齢化による課題、そして世界的な課題である持続的な成長をいかに達成するか、その点に注力したいと思っています。
また、日本は課題先進国です。日本のソリューションは海外でも必要となるでしょう。その意味でも将来は海外市場も視野に展開して行きたいと考えています。
それぞれの強み
編集部
SBRGと組むことを決めた経緯や理由を教えてください
大山社長
アイリスオーヤマは、今までSBRのAI除菌清掃ロボット「Whiz」の販売を行ってきて、国内で「Whiz」の販売台数No.1です。そのお付き合いを通して、SBRさんは世界最高水準のAI技術を持っていること、ロボットやDXに対するコンサルティング能力もあり、合弁会社を設立したいと。力を併せて「B2B AsA Service」サービスロボットのNo.1企業になりたい、と思っています。
編集部
SBRGから見て如何でしょうか、コメントお願いします
冨澤社長(SBRG)
当社はPepperを発売してから7年になります。その後、AI除菌清掃ロボット「Whiz」や配膳ロボット「Servi」等を発売してきましたが、コロナ禍もあって、自動化や省力化が求められ、ロボットに対する期待が一層高まっていると感じています。そうした意味でもアイリスオーヤマさんと一緒に協業し、市場にロボットを展開できることは社会全体にとって大きな意味があるテイクオフになると感じています。
アイリスオーヤマさんはモノ作りを得意としている企業です。ダイレクトマーケティングを含めた営業力があります。なによりも社会情勢を見て、市場のニーズを捉えて商品化する企画力、需要を掘り起こすマーケットインからの開発力がすごい。両社のスキルやノウハウが融合することで、新しいロボットの商品化にも繋がると期待しています。
アイリスオーヤマが「Whiz」販売台数トップを達成した戦術
アイリスオーヤマは、2020年1月からSBRの「Whiz」シリーズの販売をはじめた。その販売力は凄まじく、「Whiz」の世界販売数の半数以上を記録した。もちろん国内でもトップだ。どうやってそれほどの販売が行えるのだろうか。成功の要因をこう語る。
吉田氏
AI除菌清掃ロボットはコロナ禍で一層、社会課題に応えられるソリューションになりました。アメリカ感染症予防センター(CDC)の見解として、中国の武漢にあるコロナ患者(仮設)病院を調査し、新型コロナウイルスがどこに滞留しているのかを調査した結果、トップがエアコンなどの「空気フィルタ」、続いて「床」があげられていました。医療従事者が装着していたマスクや手袋と比べて、実に10~25倍も多い量だったのです。
床面にウイルスが滞留しているなら、床掃除ロボット「Whiz」はウイルス除去に有効ではないかと考え、ロボットの除菌能力について検証しました。バイオメディカルサイエンス研究所が国内17施設で行った調査によれば、やはり床面にウイルスが多いのと同時に、HEPAフィルタを搭載したWhizで清掃した場合、ウイルス除去効果があることが解りました。
このような科学的データを提示して、床掃除の重要性とロボットの有効性をクライアント様に説明した結果、多くの販売台数が実現できました。
こうした背景もあり、新会社のアイリスロボティクスでは更に市場にミートした製品にするため、AI除菌掃除ロボット「Whiz」の清掃機能と除菌機能を強化したバージョンを開発、リリースしていく(予定)。ロボット本体にサイドモップを装着することで、室内や廊下等の端まで清掃機能を向上させる。除菌機能はUVライトを床面にあてることで滞留ウイルスの活性化を抑制する。また、クライアントが自身の床面のウイルス状況が確認できる検査もサービス提供していく考えだ(いずれも計画段階)。
編集部
どのような分野に対して、重点的に販売をして行く予定ですか?
吉田氏
当初は、比較的大きい延べ床面積の小売店様、オフィス、介護施設、ホテルなどに対して重点的に拡販したいと思います。除菌清掃ロボットについては約1000台のデモ機を用意しています。まずはトライアルでひと月入れて頂き、検査キットも用意して、導入前の施設の汚れと、導入後の除菌清掃の成果を見ていただくことで、実際にお客様個々の効果検証を行い、導入を促進していきます。
2022年にはロボットの新製品を投入へ
吉田氏
アイリスグループならでは連携機能も開発していきたいと思っています。例えば、LED照明と連携したフロア汚染度マップを提供したり、AIカメラとロボットを連携した防犯機能、AIカメラが商品棚を検知して品出しや欠品の管理をロボットと連携して行うなど、除菌清掃だけに留まらず、幅広くロボットの活用を提案したいと考えています。
配膳ロボットについても、コロナ対策としてUVライトによる除菌機能を追加することを計画中です。UVはヒトに直接照射すると有害ですが、ロボットの下部に設置して床面だけに照射すれば除菌効果があって人体にも安全だと考えています。この機能があった方が、飲食店様はより安心してお店の営業ができると思っています。また、ロボットとエレベータの自動連携によって、ホテルのルームサービスや小売店の売り場案内(移動しての)など、よりニーズを深掘りしてロボットを開発していきたいですね。
編集部
Pepperは販売戦略に入っていないのでしょうか?
冨澤社長
今日、会場の入口でPepperとAIサーマルカメラを利用した検温ソリューションを体験してもらったと思います。あのシステムもアイリスグループで販売してもらっています。PepperについてもAIサーマルカメラとの連動だけでなく、市場のニーズを掘り起こして、クライアントが求める機能を搭載したPepperが登場するかもしれませんね。
吉田氏
PepperとAIサーマルカメラのソリューションは当社の受付にも設置してあります。私にとって新しい発見だったのは、Pepperの機体をメンテナンスで交換することがあって、社員たちから「寂しい」という声が出ていたことです。クライアントさんを見ても清掃ロボットに固有の名前をつけて呼んでいる事例が多いですね。その点は、ロボットならではの愛着が生まれ、スタッフの一員として一緒に働いているという感覚があるんだなぁ、と実感しました。
大山社長
2022年度の発表を目指して、既に新型のロボットの開発に着手します。そちらもぜひご期待ください。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。