来月11日で東日本大震災から10年の節目を迎える。福島は東日本大震災で大きな被害を受けたことでも知られている。その中で歴史と観光のまち「会津若松」は、2011年からアクセンチュアらによって「震災復興支援」が行われてきた。また、先端デジタル技術(ICT)を駆使し「市民参加型のスマートシティ」として生まれ変わったことでも世界的に注目されている。
アクセンチュアはどうやって成し遂げたのか。同社は10年間の軌跡について記者向けに勉強会を開催。成功に至った経緯と8つのポイントを公開した。
■アクセンチュア 福島県会津若松市スマートシティプロジェクト紹介(2019年9月)
一極集中から機能分散型社会へ
中村氏によれば、会津若松の復興に際しては従来の会津若松に戻すだけでなく、地方創生を意識し、自立分散社会型のスマートシティを目指したという。日本は首都圏への依存度が高く、都市部の一極集中がしばしば課題としてあげられる。一極集中から機能分散型社会に移行することで会津若松を自立した「スマートシティ」に成長させた。
同社はまず、地域の資源も再確認した。会津地域の再生可能エネルギー、ICT専門の会津大学、充実した医療環境(日本で最も重要な課題のひとつ)、更には歴史・文化・観光・自然・農業を洗い出した。これにより、会津若松が持つポテンシャルや可能性が見えてきた。
自立した「スマートシティ」を実現し、機能分散型社会を確立するには、この地域だけでなく日本全体が抱える課題「超少子高齢化」「医療費の拡大」「社会資本老朽化」「エネルギー問題」「低生産性」にも向き合う必要がある。(下の図の左)
その上でアクセンチュアは地域自立8策を掲げている(上の図の中央)。
【アクセンチュアが考える地域自立8策】
1.一極集中から機能分散へ(自律・分散・協調)
2.少子高齢化対策としてのテレワーク推進
3.予防医療の充実のためのPHR(健康長寿国)
4.データに基づく政策決定への移行(オープンデータ・ビッグデータ・アナリティクス)
5.高付加価値産業誘致と起業支援
6.観光・農業・製造業の戦略的強化と生産性向上
7.再生可能エネルギーへのシフトと省エネの推進
8.産・官・学による高度人材育成
「オプトイン」方式が重要
ここで重要となるのが「市民主導」であり、「市民参加型」のイノベーションだ。当事者である市民を置き去りにするのではなく、市民の同意/許諾を得ながら進める「オプトイン」方式が重要だと中村氏は強調した。それには理由がある。
スマートシティ構想の実現にはデータに基づいた取り組みが必要であり、ビッグデータ中心のプロジェクトとなる。「電気やガスメーターのデータ、バイタルや電子カルテの診療データなど、日々のビッグデータの発生源と所有者は多くのケースで市民そのものであり、リアルタイムで発生する自分たちのデータを市民が地域のために提供することに同意する市民参加型のオプトインでなければスマートシティは成立しない」とした。
会津若松の市民・観光客・事業者にとってのテーマを「モビリティ」「フィンテック」「教育」「ヘルスケア」「エネルギー」「観光(インバウンド)」「食・農業」「ものづくり(Industry 4.0)」「防災」など、9つにカテゴライズした。これは市民(約12万人)プラスαとして14万人が対象となる。
「モビリティ」で言えば、市街地・郊外・山間過疎地域を連携させ、抜本的に今後のモビリティの在り方を見直して実証を行った。具体例のひとつがスマホで行きたい場所を予約するとAIがリアルタイムに最適配車・運行してくれるダイナミックルーティングバス「MyRideさわやか号」。これは2/15から運行が開始されている。
https://www.aizubus.com/rosen/myride
「ヘルスケア」では、AI/音声認識自動入力のカルテによる医師の効率改善、患者へのデータ分析FBによる予防医療へのシフトなどをあげた。また、ICTを活用した遠隔業務を進める例として「遠隔教育」「遠隔診療」「電子通貨システム」「交通網」等が考えられる。
これらのテーマに対するソリューション開発のためのエンジニアが必要となる。データサイエンティストやAI開発エンジニアだ。中村氏は更に日本では「APIエンジニア」や「プロックチェーン・エンジニア」が不足していると指摘した。
「スマートシティAiCT」
ITエンジニアの人材育成を含めた具体的な施策として「スマートシティAiCT」をオープンした。AiCTには会津若松をデジタルの先端実証フィールドとして、国内外の大企業、IT企業の32社が入居して事業に取り組んでいる。
また、データアナリストの育成を積極的に行った会津大学の世界ランキングも向上している、とした。
市民と企業のベネフィット
では、ICT導入によって会津若松市民にとってはどのようなメリットが具体的に提供できているのだろうか。
中村氏はこの質問に対して「市民はパーソナライズされた地域ポータルによるインタラクティブな状況提供を受けることができている。個別サービスでは学校と家庭をつなぐアプリ「あいづっこプラス」で学校情報を取得、共有したり、電力の見える化による電気料金の27%削減(電気料金の負担軽減)、除雪車ナビによる冬の除雪状況の確認など、14のサービスを享受している」と回答した。
■ アクセンチュア・イノベーションセンター福島 取り組み紹介
会津で成功したモデル、都市OSプラットフォームを広く日本全国へ展開
企業側はどのようなベネフィットを享受しているのか。
「企業はDXを推進している。新規サービス開発を進めようとする企業は、実証のフィールドを求めている。オープンデータをプラットフォームの公開やデジタル化に積極的な自治体、理解のある地元市民がいるからこそ、会津に着目し、機能移転などが進んでいる」と回答した。
今後は、標準化するため「都市OS」プラットフォームや「API」を会津若松発のスマートシティの成功モデルとして広く日本全国へ展開可能としていく考えも示した。分散化した社会を繋ぐのに、プラットフォームやシステムの標準化は必要不可欠、という考えに基づくものだ。
プラットフォームが全国展開した際は、既に会津若松で参加している企業も容易に全国にビジネス展開できることも見込める、というメリットも期待できる。また企業にとっては「会津大学との連携によりDX人材確保が見込めるようになった」点も紹介した。
【スマートシティによる自立分散社会を実現する8策】
【三方良しの地域社会】
スマートシティから「スーパーシティ」へ
更にスマートシティの先に「スーパーシティ」構想への発展を見込む。「スーパーシティ」構想とは、AIやビッグデータを活用し、社会の在り方を根本から変えるような都市設計の動きを内閣府がとりまとめたもの。
アクセンチュアは「スーパーシティ」構想の実現を推し進めるために、様々な規制緩和を政府や地方自治体に働きかけていくという。
1.これまでの自動走行や再生可能エネルギーなど、個別分野限定の実証実験的な取組ではなく、例えば決済の完全キャッシュレス化、行政手続のワンスオンリー化、遠隔教育や遠隔医療、自動走行の域内フル活用など、幅広く生活全般をカバーする取組であること
2.一時的な実証実験ではなくて、2030年頃に実現され得る「ありたき未来」の生活の先行実現に向けて、暮らしと社会に実装する取組であること
3.さらに、供給者や技術者目線ではなくて、住民の目線でより良い暮らしの実現を図るものであること
という、この3要素を合わせ持ったものであると定義しており、これを「まるごと未来都市」と呼ぶ。「スーパーシティ」構想はこうした「まるごと未来都市」の実現を、地域と事業者と国が一体となって目指す取組み。
アクセンチュア関連記事(ロボスタ)
ABOUT THE AUTHOR /
神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。