「Beyond AI 研究推進機構」が発足記念シンポジウム「Living with AI, Going Beyond AI」を2021年2月20日にオンラインで開催した。
「Beyond AI 研究推進機構」は世界最高レベルのAI(人工知能)研究機関として、東京大学とソフトバンクらによって設立された産学連携のAI研究機関。2020年7月から共同研究に取り組んでいる。予算として10年間で最大200億円を拠出し、最先端のAI研究・事業活動を大胆に推進し、次世代AIを追求する、としている。
総合司会は東大の矢口教授が担当した。
祝辞「AIには論理的な説明と倫理的な姿勢、公正な態度が必要」
シンポジウム本編の前に、東京大学とソフトバンクを代表して、東大の総長の五神真氏とソフトバンクグループの代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義氏が祝辞を述べた。
五神氏は「近年のAI技術の躍進の立役者はディープラーニング。一気に応用が拡がり、既に日常の見えにくい場所でも使われている。同時にこの技術は不透明なブラックボックス的な要素も持ち合わせ、解析結果について論理的な説明を与えることができない」と語り、AIの社会実装を進めていく上で、AIが解析した結果に論理的な説明と倫理的な姿勢、公正な態度が強く求められると続けた。
そして「AI技術が誰によって、何のために、どのように利用されていくべきか、という問いを深く意識する必要がある」として、「Beyond AI研究推進機構は創造性を実現するための場、ソフトバンクの皆さん、世界中の人たちとともに知恵を生み出す場となる」とした。
ソフトバンクグループの孫氏は「いよいよ東大とソフトバンクの連携でBeyond AI研究推進機構がはじまる。世界のユニコーン510社の半分がAIに関連している会社で、その半分が米国、半分の半分を中国が占め、日本はわずか1社しかない」として、日本企業がAI推進に取り組む遅れを指摘した。人材育成の面では企業だけでなく国内の大学も努力しなくてはならないと語った。
インターネットが登場したときもインターネットの浸透が社会にとって良いか悪いかの議論があったが、”よかったに決まっている”じゃないか。インターネットは人々のコミュニケーションを発達させ、広告や小売りをオンラインに置き換えて来た。GDPの11%の世界をテクノロジーで変革したが、AIは残りのすべての社会、あらゆる産業に関わって変革しようとしている」として、自動運転やワクチンの開発(医療・創薬)、物流、フィンテックなど、AIが及ぼす可能性について触れ「日本国内からもっと多くのAIユニコーン企業を生み出せるように共に頑張りましょう」と語った。
■開会祝辞
Beyond AI 研究推進機構の発足記念シンポジウム
発足記念シンポジウムは昨年の実施が予定されていたが、新型コロナ感染症の影響で延期されていた。
このシンポジウムでは、「より『賢い』人工知能とは何か、AIの根本や社会へのインパクトを問う」をテーマに、台湾デジタル担当大臣 オードリー・タン氏などのゲストスピーカーを招いたパネルディスカッション、Beyond AI 研究推進機構の研究内容、東大とソフトバンクによる対談などが行われた。
国立大学法人東京大学、ソフトバンク株式会社、ソフトバンクグループ株式会社およびヤフー株式会社
“Living with AI, Going Beyond AI”
・開会祝辞:
国立大学法人東京大学 総長 五神 真氏
ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役 会長兼社長執行役員 孫 正義氏
・パネルディスカッション:
台湾デジタル担当大臣 オードリー・タン氏
アーティスト/デザイナー/東京藝術大学デザイン科准教授 スプツニ子!氏
国立大学法人東京大学 Beyond AI研究推進機構 生産技術研究所 准教授 池内 与志穂氏
(モデレーター)国立大学法人東京大学 Beyond AI 研究推進機構 大学院情報学環 教授/総長特任補佐 林 香里氏
・「Beyond AI 研究推進機構」紹介
・特別対談:
国立大学法人東京大学 理事・副学長/Beyond AI 研究推進機構 機構長 藤井 輝夫氏
ソフトバンク株式会社 代表取締役 副社長執行役員 兼 CTO 宮川 潤一氏
パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、東大の林教授がモデレーターとなって、アーティスト/デザイナーのスプツニ子!准教授、東大の池内准教授に加え、台湾から台湾デジタル担当大臣のオードリー・タン氏がリモートで参加した。
パネルディスカッションではこのシンポジウム全体のテーマである「より『賢い』人工知能とは何か、AIの根本や社会へのインパクトを問う」に関して積極的な意見交換が行われ、特に「AIの倫理」についての考えも交わされた。
■パネルディスカッション 0:15:25
「Beyond AI 研究推進機構」紹介
「Beyond AI 研究推進機構」の紹介は主にビデオ動画で行われた。
Beyond AI 研究推進機構では「基礎研究(中長期研究)」と「応用研究(ハイサイクル研究)」の二つの領域で研究を推進し、研究成果を基にした事業化によって得たリターンを、さらなる研究活動や次世代AI人材育成のための教育活動に充てることで、エコシステムの構築を目指すという。
主なメンバーと研究テーマは次の通り。
AI自体の進化
原田 達也氏
少ない教師データからの高精度予測モデル自動構築
AI自体の進化
田中 純一氏
複合AIによる問題解決手法
脳科学とAI
池谷 裕二氏
AIによる脳機能拡張
脳科学とAI
大木 研一氏
脳活動データを活用した高信頼AI開発
脳科学とAI
辻 晶氏
幼児の知識獲得メカニズムを活用したAI
脳科学とAI
池内 与志穂氏
人工脳組織を用いた脳機能解明
物理とAIの融合
齊藤 英治氏
AIを活用した物質の量子的性質の解読
物理とAIの融合
田畑 仁氏
生体ゆらぎに学ぶ超低消費電力を実現する「次世代AI デバイス」
AIと社会
林 香里氏
AI時代における真のジェンダー平等社会の実現とマイノリティの権利保障のための規範・倫理・実践研究
AIと社会
長井 志江氏
AI×発達障害当事者研究:計算論的神経科学による認知個性の顕在化
■「Beyond AI 研究推進機構」紹介 1:10:10
特別対談 東大とソフトバンクが連携する意義
最後のプログラムとして、東京大学の藤井副学長とソフトバンクのCTO宮川氏による対談が行われた。藤井氏はこの4月から東京大学の総長となり、宮川氏もまたソフトバンクの社長に4月から就任する。偶然にも次期トップの対談となった。モデレーターは林教授が担当した。
「Beyond AI 研究推進機構」で東大とソフトバンクが連携する意義と注力したい分野を問われた宮川氏は、企業は新しい技術を開発していくものの、一方で利益を求めて行かざるを得ず、短期間で成果を期待されるため、新規の研究がどうしても浅くなってしまう傾向にある。今までにない技術を研究したり、深掘りするには大学の研究機関と連携するのが最適だ、と語った。自身はHAPSモバイルや、トヨタと連携したMONET Technologiesのトップも兼任していることから、注力したい分野としてスマートシティ、MaaS、ヘルスケアなどをあげた。
一方、藤井氏はAIや脳科学研究を学問の一つとして、東京大学の強みを活かして推し進めていくとともに、大学もまた研究だけを突き詰めるのではなく、研究した成果や技術を社会に反映させたり、浸透させていく必要がある。実用化や普及に際しては企業との連携が欠かせない、とした。モデレーターから「東大の強みとは?」と問われ、脳科学、量子、素粒子など特定の専門分野で深い研究をしていること、かつ広い分野でも展開できる総合力だ、と応えた。
「AIの倫理」についてコメントを求められると、宮川氏は「AIには人類社会を変革するだけのポテンシャルがある。その上で重要なのは公平性。AIを使える者だけが利益を得るような格差を生み出すのではなく、使う人たちみんなに公平でオープンにしていくべきであり、それを率先していくのは企業の義務」と語った。藤井氏は「安心してAIの開発や研究をし、社会で活用していくために何が必要か、大学でも常に議論していくことが大切」とした。
今後、注目しているテーマとして「デジタルツイン」に話が及んだあと、藤井氏は「今までにない新しいコンセプトのAIであったり、世界と勝負できるAI技術をBeyond AI 研究推進機構から生みだしたい。そして、その技術が社会の中で活かされ、浸透し、共感を得られていくことが重要」と思いを語った。
宮川氏は「Beyond AI、AIを超えたAIとはなんだろう・・それを東大と議論していきたい。倫理も含めて、AIはどうあるべきかを徹底的に議論し、AI技術で世界に打って出るのが夢、日本は周回遅れだと言われていたのは過去の話になるように、人材の育成も含めて、このBeyond AIプロジェクトに大きく期待している。東大とソフトバンクだけでなく、他の大学と企業の連携を促進するような、産官学の成功事例、モデルケースにしたい」と語った。
■特別対談 1:28:30
Beyond AI 研究推進機構
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。