WWF(世界自然保護基金)の調査では全世界のサンゴ礁が生態学的多様性による経済にもたらす資本価値は、観光業、漁業、沿岸の保護、研究価値といった観点から推定8,000億ドルと試算されている。地球上の全海洋面積のうち、サンゴ礁が占める面積の割合は世界の0.2%程度にすぎない一方で、そこには約9万3000種(海洋生物種の25%程度)の生物種が生息し、1平方キロメートルのサンゴ礁が年間15tの食料を生産している。このように、サンゴは海洋生態系の中心的な機能を果たしているにも関わらず、その重要性はまだ一般的には広く認知されていない。
環境移送技術の研究開発および社会実装を推進する株式会社イノカは、サンゴの保護や飼育プロジェクトに取り組むことで企業のCSRやSDGsの推進に貢献してきた。今回の記事では同社が推進するプロジェクトを紹介する。なお、本日3月5日はサンゴの日「さん(3)ご(5)」(国際的NGOの世界自然保護基金(WWF)が1996年に制定した記念日)。
サンゴ礁生態系がもたらす恵みと抱える課題
サンゴ礁生態系は人類に多くの恵みをもたらしてくれている。しかし、近年は赤土等の流出やオニヒトデ等による食害、海水温の上昇による白化現象などが原因で大量斃死(へいし)している。
・豊かな漁場
1k㎡のサンゴ礁から水揚げされる魚介類などは、300人以上の人々の暮らしを支えているという推定結果もある(環境省「サンゴ礁生態系保全行動計画2016-2020」)。地域の暮らしや人類の生存に取ってたくさんの恩恵をもたらしてくれている。
・観光業
サンゴ礁が生息する綺麗な海の周辺では観光業が盛ん。ダイビング・マリンアクティビティ事業などで多くの観光客を魅了している。
・環境への効果
大気中の二酸化炭素を吸収し、炭素を海洋に固定するブルーカーボン生態系としても注目されている。温室効果ガスの抑制効果も期待されている。
・気候変動による危機
近年、地球温暖化による海水温の上昇によるサンゴの白化が問題視されている。ほかにも、台風の巨大化に伴う波浪の増大によるサンゴの破壊、海洋の酸性化によるサンゴの石灰化機能の低下など、地球規模で起こる環境ストレスにより危機的な状況にある。
株式会社イノカは「人と自然が、100年先も共生できる世界を創る」という理念のもと2019年に創業した東大発のベンチャー企業。日本で有数のサンゴ礁飼育技術を持つアクアリスト(水槽飼育者)と、東京大学でAI研究を行っていたエンジニアが中心となり、特定水域の生態系を陸上の閉鎖環境に再現することに成功。2020年からはモーリシャスの環境回復プロジェクトにも参画している。
イノカの取り組み
研修プログラム「オフィス型アクティブラーニングアクアリウム」
水槽の中に再現したサンゴ礁の生態系を企業のオフィス空間に設置し、海洋生態系を育てていくサービス。生き物を育てる体験や定期的なワークショップを通じて海やSDGsに関する正しい知識を提供するため、次世代型イノベーションを生み出せる人材開発を可能にする。
海を育てる体験型環境教育プログラム
都市空間にサンゴ礁を創造する環境移送技術を活用した子ども向けの体験型環境教育プログラム。子どもたちには目の前の不思議に対し「研究者」として徹底的に向き合う機会を提供する。あらゆる変化が激しく起こる答えのない時代で生き抜くための「自分なりの答えを作って発信する」力を養いながら、都会の子どもたちが自然環境に触れることができる。今後は世界中で絶滅の危機にあるサンゴの保全の現場として、さらには研究開発の最前線として活用されていくことも構想している。
水質(30以上の微量元素の溶存濃度)をはじめ、水温・水流・照明環境・微生物を含んだ様々な生物の関係など、多岐に渡るパラメータのバランスを取りながら、自社で開発したIoTデバイスを用いて実際の自然環境と同期させ、特定地域の生態系を自然に限りなく近い状態で水槽内に再現するイノカ独自の技術のこと。
閉鎖環境内で目指す日本初のサンゴ産卵プロジェクト
IoT技術により水温を沖縄の久米島付近の海面水温と同期させた完全閉鎖環境内の実験で、サンゴの人工抱卵を実現。2020年8月からサンゴの人工産卵のための実証実験を再始動し、2021年中に成功を目指している。
東大発の技術を融合し海洋環境の保護を目指す イノカとaiwellが共同事業開始 海洋環境の定義をタンパク質レベルで解明していく
東京オフィスビルで久米島のサンゴの人工抱卵を実現 世界初のIoT活用で時期制御した人工産卵へ 東大発ベンチャーのイノカが発表
3月22日にウェビナーイベントを開催
同社は世界の海環境に目を向け、海や海洋生物との共存について考える機会を提供すべくウェビナーイベントを3月22日(月)15時より開催する。参加費は無料で、Zoomで開催予定。締め切りは3月19日(金)17時まで。
【こんな人におすすめ】
・SDGsを推進する企業の担当者
・CSRの新しい施策を考案中の担当者
・水や海の環境改善に取り組む担当者
・メディア記者、ディレクター
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山田 航也横浜出身の1998年生まれ。現在はロボットスタートでアルバイトをしながらプログラムを学んでいる。好きなロボットは、AnkiやCOZMO、Sotaなどのコミュニケーションロボット。