農業課題をロボットで解決せよ 収穫ロボのAGRISTと搬送台車のDoogがつくばで議論

AGRIST株式会社とつくば市スタートアップ推進室の共催で、2021年3月12日、「ロボットが解決するつくばの農業課題 近い未来の農業DX コロナ禍のデジタル化の進め方とスマート農業」というオンラインイベントが行われた。自動収穫ロボットのAGRIST(アグリスト)と、搬送ロボットのDoog(ドーグ)の2社がプレゼンを行い、農業分野の課題解決に技術が貢献できる方法をディスカッションした。


自然と最先端が共存する街・つくば

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司会はつくば市政策イノベーション部スタートアップ推進室主任の永井将大氏がつとめた。永井氏は2019年からスタートアップの支援を担当している。つくば市は駅から徒歩5分の距離に「つくばスタートアップパーク」を構え、大学や研究機関発の起業推進・企業間の交流を促進している。つくばスタートアップパークでは専門家相談のほか、今回のようなイベントも週1以上のペースで行っているという。

永井氏は「つくばは、自然と最先端が共存する街だ」と紹介。キーワードはディープテック、アジャイル行政、社会実装の3つで、技術スタートアップが多く、行政としてもそのムーブメントを推進しようとしており、スタートアップ戦略を立てて事業を行っていると述べた。永井氏は「つくばが持つ科学技術をいかに市民に使ってもらい、生活を豊かにしていくかを重視している。つくば全体を実験室とした取り組むを進めている」と紹介した。つくば市では内閣府「スーパーシティ構想」への申請も視野に入れている。


空中吊り下げ型収穫ロボットでピーマンを収穫 AGRIST

AIを活用した自動収穫ロボットの開発を行うAGRIST(アグリスト)株式会社は、つくば市スタートアップ推進室より「つくば市未来共創プロジェクト」に採択され、つくば市内のきゅうり農家・ピーマン農家のハウスにて収穫ロボットの社会実装に向け、つくば市との地域連携・協力を2020年4月1日より開始する予定。全国の自治体と様々な連携を行いながら、農業課題を解決する社会的企業として、地域への貢献と農業所得の向上を実現し、持続可能な農業を目指している。

今回のプレゼンはまずAGRIST取締役COOの高橋慶彦氏が行った。AGRISTは2019年10月創業。人口17,000人の宮崎県 児湯(こゆ)郡 新富町に拠点を置いている。町役場が設立した一般財団法人こゆ地域づくり推進機構(地域商社こゆ財団)の代表理事に2017年に就任した斎藤潤一氏が、地元農家と「儲かる農業研究会」を立ち上げて、農業分野の課題解決に取り組むなかから、「収穫ロボットが必要だ」という声を受けて会社設立に至った。現在、宮崎県では児湯郡が主な産地であるピーマンの収穫ロボット開発に取り組んでいる。

高橋氏は「宮崎も茨城も地方。地方から世界を変えるイノベーションを起こしたい」と述べ、農業のDX化、スマート農業の実践を目材していると語った。農業は平均年齢67歳と高齢化している。既に収穫する人手が足りなくなっている。このままでは収益率をあげられない。そのためにロボット技術の導入が期待されている。

だが農場へ行くと、通常の地面を走行するロボットを入れることは極めて困難だ。そこでAGRISTでは空中を移動しながらカメラで作物を自動認識して収穫するロボットを開発した。

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ロボットはロープウェイのようにハウス内に張られたワイヤー上を移動する。そして機械学習を使ってピーマンとそのサイズを認識。独自に開発したハンドでピーマンを把持し、茎を切断して収穫することができる。5kg 溜まったらコンテナに放出する。ロボットは自己位置を把握しているのでハウス内各所の収量分布をデータ化したり、病気を早期発見することもできる。

人間と比べると時間あたり収量は落ちるが、夜間・休日も作業することができる。開発目標は1分あたり0.4個。

AGRISTは「100%可能なロボットを作ろうとしていない」という。100%を目指すとコストが高くなるからだ。農家と協議する中で、まずは年間収穫量の2割をとるロボットを考えて開発しているという。

実現できたのは農家からビニールハウスを作って開発を行っているからだという。農家と共同開発することで顧客に近い製品を開発することができている。

従来の農業ビジネスと比較すると、従来は年間数ヶ月くらいしか収穫期間がないが、ピーマンはほぼ通年収穫で、導入コストも低い。移動方法は空中であり地面状況は無関係だ。高橋氏は「現場で使えるロボットを作っている。農家が使える価格帯で提供したい」と強調した。

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ビジネスモデルは初期導入費150万円に加えて、売上に対する10%手数料。ロボットを使うことで、農家は面積あたり収穫を最大化することで、ロボットコストを払っても収益が上がるようになるという。将来はピーマン・きゅうり・トマトのビニールハウスに導入することで、市場全体の1683億円のうち、導入率2割で336億円の売上規模が見込めると踏んでいる。人を雇用するよりもロボット導入のほうが費用対効果が高くなるようにする。

AGRISTはJAグループとも連携している。くわえて、自治体からスマート農業実証業務を委託し、ピーマンについては日本一の生産量をほこる茨城と宮崎から全国に展開していくことを考えているという。吊り下げ式収穫ロボットと独自機構のハンドについてはPCT(Patent Cooperation Treaty)国際特許も申請しており、海外進出も視野に入れている。ENEOS他との資本提携もその一環だ。具体的には中国、インド、アフリカなどを目指している。

AGRISTはチームのなかに農家が入っていることも特徴だが、資金調達によって現在、エンジニアを採用しようとしているとのこと。関東ではまずはJAなめがたしおさいと連携し、茨城から導入を進める。高橋氏は「データを活用しながら人とロボットが共存共栄する農業、きちんと稼げる農業を実現できるようにしていきたい。地方から社会課題を解決していくグローバルベンチャーを作っていきたい」と述べた。

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農業用搬送台車の「メカロン」 Doog

株式会社Doog(ドーグ)の大島氏は、同社が最近発表した農業用搬送台車の「メカロン」を中心に紹介した。Doogは移動ロボット専業メーカーとして移動ロボット台車を販売している。道具として役に立ち、導入が容易で安全確実に動作する協働型ロボットを目指している。

メインとなっているのは協働運搬ロボット「サウザー」。完全無人ではなく、人と一緒にものを運ぶロボットだ。メイン市場は物流倉庫や製造業。そのほか、空港、飲食、介護施設、図書館、建設現場などでも使われている。「サウザー」は「第9回ロボット大賞」の中小・ベンチャー企業賞(中小企業庁長官賞)、日本ロボット学会・実用化技術賞も受賞している。

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「メカロン」は農業分野での軽労化のためのロボットで、クローラーで動く。その場でターンができ、小回りが効く。仕様はまだ検討中だが、積載量は100kg-200kg程度。IP44の防塵防水で水洗いもできる。ベースは農機具メーカーとも共同で開発している。追従操作や操縦は誰でも簡単にできる。320度のセンサ視野があり、人を見失うことは滅多にない。日々の作業で人と共に常に使えるロボットだという。

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「サウザー」同様、自動農業ロボットの開発用プラットフォームとしても用いることができる。大島氏は、その場で実機のデモを行いながら解説した。これから、実際にどのような作業に使えるかを実証していく予定だ。噴霧器を持って回るときや鶏舎での作業、草刈りや剪定などに活用できるのではないかと考えているという。

現在は共同研究と並行して検証や実証を目的とした研究所や試験場などと話をしている段階で、果樹園などを対象に先行導入のためのモデル検証を行う。


議論「世界のあしたが見える街」での農業へのロボット技術導入はどうなるか

パネルディスカッションでは、AGRISTはCTOの秦裕貴氏に登壇者が変わり、つくば市の農業政策課の猪圭氏も加わって議論が続いた。司会は引き続きつくば市政策イノベーション部スタートアップ推進室主任の永井将大氏。

茨城県は農業では全国3位の生産量を誇り、ピーマンは全国1位だ。農業は全国的に大きな課題に直面している。高齢化や担い手不足である。課題は同じように存在しており、ここに技術、ロボットががどう貢献していけるかは大きな課題である。

つくば市の農業政策課の猪氏は、まず、つくば市の課題を紹介した。つくば市の農業産出額は年間88億円。コメと野菜で85%を占める。暖かい地域のものも寒冷地のものも作れる茨城だが、特にねぎやブルーベリーが特産品とされている。最近はワイン用ブドウの栽培も増えているという。

茨城県のなかでつくば市の総農家数は県内1位。科学の街だけではなく農業の街でもある。だが5年間の農家戸数減少数も茨城県1位となっている。後継者が不足しており、遊休農地が増え、農産物の販売額は300万円未満が88.2%と儲かっている農業者が少ない。グローバルな視点で見ても気候変動による生産量減少が見込まれており、食の安定供給にも問題が発生する可能性が高い。日本のカロリーベースの食料自給率は38%程度になっている。

それらの課題に対してスマート農業が期待されている。ロボットやAIを使って一人あたりの管理可能面積の拡大、データ化による新規参入の容易化、環境負荷低減や持続可能な社会へのシフトも求められている。


農業ロボット実証フィールドとしてのつくば市

AGRISTの秦氏は、宮崎の状況も茨城の状況も基本的には同じだが、宮崎のほうが人手不足はより深刻だと指摘した。大都市からの距離という地理的な部分や市場規模もあり、宮崎のほうが危機感は強いという。宮崎で始まった事業を、茨城にもってきた経緯については、宮崎県新富町はもともとスマート農業を推進している街として、つくば市からもその取り組みに注目されていて、声をかけてもらっており、茨城はピーマン生産日本一であり、「どう考えてもやるよね」というかたちだったという。

初期導入費用+手数料モデルは農家からも評価されているという。農家はサブスクには馴染みがなく、むしろ安心感につながっているという。また今後、スマート農業に対する助成金が出て来るだろうことから、導入費用にたいする助成金や補助金への期待もあるそうだ。ロボットについては儲かってるところからすれば「すぐにでも導入したい」、収穫するパートの確保が難しいので、だから多少スペックが劣っていてもすぐにロボットが欲しいと言われているとのこと。いっぽう茨城はそこまで人手を確保できなくもない状況であり、ロボットのスペックへの要求シビアさについては茨城のほうが高い。それはAGRISTの目指すべきところでもあるので、実証フィールドとしてはすごくいいと考えているとのことだった。

Doog大島氏は農業に注目したきっかけとして、茨城で事業をやっているなかで「使えそうだな」という声も以前からあったと述べた。だが主力製品の「サウザー」そのままでは農地では使えないこともわかっていた。出荷場や床が整地されたハウスであれば使えるが、それではカバーできる範囲が広くない。そのなかで農業に使うならどういうかたちしなければならないかヒントを得て、「メカロン」に至ったという。現在はつくばのパパイヤ農園などでテストしてもらっており、高い期待をしてもらっているとのこと。汎用ベースとして作ってはいるものの、走れない畝もあるので、どこにフォーカスするかが課題だと考えているという。


農業ロボットではなく農業器具へ

つくば市の永井氏は「どうしたら農家が使いやすくなるかもトピックだと思う。コストや身近に感じてもらうかわいさも必要。農家は若い人ばかりではなく実際に使いこなすことができるかも課題だ」と指摘し、どうするべきかと話を振った。

AGRIST秦氏は以前からDoog社のことを知っていて、社名にあるように道具として仕上げているところは参考になると思っていたとコメントした。そしてAGRISTでも「最終的には収穫ロボットではなく収穫機にしていきたい。その感覚は重要」と述べた。ワイヤーにひっかけてボタンを押すだけで収穫ができるようにすることが重要だと考えているという。なお移動に用いるワイヤーはもともと農業資材であり農家も馴染みがあり「これなら自分たちでも張れそうだね」と言われるそうだ。また、地域によって農法が異なり、畝の間隔幅やハウスの構造が違うといった側面があり、AGRISTとしても敢えて広げていく地域を絞り、まずはそれぞれの地域の農法に合わせたかたちで適用領域を広げていこうとしているという。

導入コストについて、Doogの「メカロン」は、年中通して使うなら購入、一部季節ならレンタルになるのではないかと考えているという。Doogのロボットに関しては基本的には汎用なので、「使い方次第」ということになる。


農家とロボットスタートアップの連携のあり方

農家との連携についてはAGRISTはもともと「儲かる農業研究会」という勉強会からの出自であり、宮崎の農家さんと一緒にはじめた感覚であり、チームメンバーとして入ってもらっており、開発前のコンセプト段階から農家さんに聞いて、スケッチベースで話をすることで「的を外さない、現場ニーズにあったものを作れていると思っている」とのことだった。

いっぽうDoogはまったく違っている。スマート農業の取り組みをやってる研究機関・行政などととの取り組みが多く、ある程度汎用性をもっているベースの活用性を模索してもらっているという。

「農家が新しい技術を使いたい時には、どこに相談すると良さそうか」という問いに対して、大島氏は「新しい技術に関心がある人がいる農業センターに問い合わせるといいのではないか」と答えた。AGRIST秦氏は「直接、農家から問い合わせがくることもあるが、一番良いのは最寄りのJAや自治体。地方の自治体は農家の声を無下にできない。複数の農家から声がよせられると『大きなうねり』ができる。我々としても自治体さんとは具体的な話をしやすくなる。急がば回れではないが、そういうかたちが一番いい」と答えた。


人のパートナーとしてのロボットが助けるべきこと

最後に「ロボットやAI活用が当たり前になり農業DXが加速していったとき、どういった姿になるか、その理想像のようなものはあるか」という問いがつくば市・永井氏から投げかけられた。

AGRIST秦氏は「農業は単なる作業、労働ではないと思う。五穀豊穣を祈ることからもわかるように日本の祭りなどの根幹は農業にある。すごく効率化されたなかでも、その精神性はなくなってほしくない。『なぜ農業をやるのか』というところをより深く考えながらやっている状態がいい。農家さんの創造性をもっと時間が使えるようにしたい」と答えた。

Doog大島氏は「高齢化・人手不足は数字としては現れやすい課題だが、実際には若い人もいる充実感のある仕事。農業には楽しい部分と辛い部分があるが、自動化によってもっと充実した仕事にできればと思う」と語った。

つくば市の猪氏は「農業の楽しい部分を増幅し、辛い部分を少なくしていくことが技術で促進できるといい。農業をずっと続けたいけど高齢化すると体力的にきつくなりやれなくなる。そこをロボットに人のパートナーとして解決していってもらいたい」と語った。つくば市・永井氏も「新しくやる人を増やすことと、いまやってる人を長く続けられるようにすることの両方が重要」と述べ、ロボット技術への期待を語った。


技術を経営や実作業に落とし込む「通訳」が重要

AGRISTは今後、茨城と宮崎で初期ロットを提供し始める予定。秦氏は「最初は収穫がなかなかうまくいかないこともあるだろう。行政や支援機関と一緒に進めていけることはありがたいと思っている」と語った。Doog大島氏は「しっかり商品に仕立て上げて農家の人に喜んでもらえるところに到達したい。いろんな強みを持ったところと連携して加速していきたい」と述べた。

つくば市・猪氏は「スマート農業は農業者からすると、よくわからない魔法のように思われている。体系化されてないからだ。環境整備ができるところだとまで落とし込めばわかるようになる。経営や作業に落とし込むための通訳、シーズを農家の課題まで落とし込める通訳者がいない。いまは行政や公的機関がやってる。いずれはコンサルが出て来るといいと思う。技術を、農業をもっと楽しくするための道具として使うことを農家に伝えることが重要だと思っている」と語った。最後に永井氏は「いかにテクノロジーと市民を繋げて伝えていくかが重要。知っていただくことも重要だし実際に使ってもらうことも重要。今後の展開が生まれてくれればと思っている」と締めくくった。

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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