【デモ動画】ニコンとソフトバンクが6Gを見据えた「光無線通信技術」で連携!2台のロボットによるAIトラッキング技術のデモ公開

ソフトバンクとニコンは、光無線通信技術を連携して研究・開発していくことを発表した。それに伴って3月18日、2台のロボットがランダムに動いても双方向で追尾してトラッキングするビジュアル・サーボ技術(ロボティクス・ジンバル)を開発し、報道陣にデモを公開した。トラッキングにはAI画像認識技術が使われている。


左は、ソフトバンク株式会社 IT-OTイノベーション本部 本部長 丹波廣寅氏、右は、株式会社ニコン 執行役員 次世代プロジェクト本部長 柴崎祐一氏

2台のロボットと1台のカメラを使って、世界初の技術のデモが行われた

今回の発表会では、2つの重要な技術が紹介されている。そのため少し混同しやすい要素があるので、詳しく整理して解説していきたい。

2台のロボットが向かい合って光無線で通信を行う

技術説明と会場で撮影したデモ動画を紹介する前に、このプロジェクトの狙いとポイントが解説された公式の動画が公開されているので紹介しておきたい。

■ソフトバンクとニコンのトラッキング光無線通信技術(公式)


光無線通信技術とはなにか

2つの重要な技術のうち、ひとつめの技術は「光無線通信技術」だ。両社は「6G」(第6世代移動通信システム)を見据えた技術として今後も「光無線通信技術」を共同で研究・開発していくとしている。光無線通信技術とはなんだろうか?
スマホや無線LANなど、現在の「4G」や「5G」は、いくつもの異なる周波数を使って通信が行われているが、電波の周波数は有限のため、従来の主流だった周波数帯を飛び出し、センチ波(3GHzから30GHz)やミリ波(30から300GHz)などの高い周波数帯の電波を国が移動体通信用に割り当てることで利用を広げてきた。
これまでの経緯と同様、やがてはまた更に高い周波数が求められるようになるだろう。更に高い周波数を求めていくと、やがては光無線通信に到達する。電波の送受信を「光」で行う方式で「6G」の通信方法のひとつとして期待されている。

移動通信のニーズが高まって混雑し、大容量通信を求めて通信周波数はどんどんと高くなっていく。6Gでは光無線通信の利用も期待されはじめてきた

ところが「光」無線通信の実用化には大きな課題がある。ひとつは直進性が極めて高く、回り込みが苦手、送受信口がぴったり合致していないと通信できないという点、もうひとつは光を遮るものがあると通信できないという点だ。そのため、見通しがよくて固定された通信デバイス間では通信できるが、モバイルなどの移動体通信には不向きとされている。ここまでは一般的な「光無線通信技術」の内容となる。

光無線通信の課題、送受信の光軸を合わせなければ通信が途切れたり、中断してしまう

今回の発表でも光無線通信技術のユースケースとして、車車間通信(車両どうしの通信)、車街間通信(クルマとスマートシティの通信)、ドローンの通信などが紹介された。そして、もうひとつ重要なのが水中での通信だ。一般の無線の電波は水中では届かないが、光なら届けることができる。


いずれも動くデバイスとの通信が紹介されているが、今解説したとおり、光無線通信ではモバイル機器と通信することが困難な課題がある。今回のソフトバンクとニコンが発表した技術は、課題の前者「直進性が極めて高く、送受信口がぴったり合致していないと通信できない」を解決するためのソリューションとなり得る。次の項で解説しよう。




トラッキング技術:通信相手を追従するビジュアル・サーボ

もうひとつの技術が今回の発表で注目したい点、ニコンの「ビジュアル・サーボ」だ。
光の送受信口が常にぴったり合致していないと通信が途切れてしまうという課題を、プロの撮影でよく利用されているジンバル(回転台)の最新技術で解決しようというものだ。

この日のデモには2台のロボットが使われた。要の技術となるのはロボット「ハンド」の部分、「ビジュアル・サーボ」でカメラと光通信を搭載したインテリジェント・ジンバルと呼べそうなもの

ニコンはカメラの三脚や雲台、ジンバルで培ってきた技術と、ディープラーニングなどのAI画像認識等を掛け合わせ、通信ユニット「ビジュアル・サーボ」を開発した。ちなみにニコンはあまり一般の消費者には知らせていないが、ロボティクス分野向けにインテリジェント・アクチュエータ・ユニット(モータ)の商品開発も行っている。




お互いのデバイスにおいて、光の送受信口を常にぴったり合致させて通信するためには、通信する相手がどこにいるのか、どの方向を向いているかを緻密に把握して、光軸が合う位置や向きに自らが動く必要がある。ニコンとソフトバンクはその実証に成功し、会場では動いている2基のロボットが常に光軸を合わせて、光無線通信を継続するというデモだ。通信相手を360度追尾追従することが可能なもので、この技術を使って光無線通信技術の実証実験に成功したことが「世界初」ということになる。ちなみにトラッキングはカメラ映像のビジュアル解析だけで行われている。

ビジュアル・サーボの構成。顔のような黄色いプレートは珍しい形状をしているが、相手のロボットはこの黄色い珍しい形状をトラッキングする。搭載されているセンサーデバイスは光通信の送信/受信(各1基)、トラッキング用のカメラ1基のみ


このトラッキング技術(ビジュアル・サーボ)は光無線通信だけでなく、既にあるさまざまな分野で活用が見込める技術だ。





光無線通信とトラッキング技術のデモを公開

デモでは3つの端末が使われた。ひとつは動く車両模型とそれを映像データにするカメラだ。撮影している動画映像を向かって右のビジュアル・サーボ搭載のロボットに送る。

テーブルに乗っている動く車両の模型を撮影しているカメラ。この映像を右のロボットに送る

ここからが「光無線通信技術」と「トラッキング技術」のデモとなる。向かって右のロボットから左のロボットにカメラからの映像をリアルタイムに光無線通信で送信する。

模型の映像を右のロボットが受け取り、左のロボットに「光無線通信」で送信する

もともと2台のロボットの送受信の光軸は合わされているので左のロボットに正常に送信され、左のロボットが受け取った映像はステージの後ろのスクリーンに表示される。


実際にリアルタイム通信をしていることを示すために、右のロボットと左のロボットの間に手をかざすと通信は途切れ、映像は固まった(止まった)。


さて、ここからが「トラッキング技術」のデモだ。2台のロボットのアーム部分がお互いランダムに動き始める。当然、ロボットのハンド部分の光軸がはずれ、映像は停止してしまう・・・と思いきや、相互のロボットはアーム部分の妨害行為に影響されることなく、ハンドのジンバル部分が独立して動いて光軸を維持することで光無線通信を継続し、スクリーンの動画は停止せずに再生される。ハンドのジンバル部分に搭載されたカメラが相手のジンバルの傾きや距離を把握し、光軸を合わせて光無線通信を継続するしくみだ。




■Nikon and Softbank jointly announce


将来の展望

実証実験には成功したものの、実用化にはまだ多くのステップを踏むことが必要、それは今回登壇したソフトバンクとニコン両社とも感じている認識のようだ。例えば、今回のデモでは数mの距離で行われたが、実験ではそのとき使用していた通信機の限界距離にあたる100mでも行われ、それに成功しているという。どれだけ長距離でどれだけ高速に通信が可能か、などブラッシュアップしていく必要がある。




また、ニコンは「小型化も必要」と語った。現時点のジンバルのサイズでは搭載できるデバイスは限られてしまう。今後は小型化を考慮し、実用化にはどこまで小さくできるかもキーポイントになっていくだろう。

ABOUT THE AUTHOR / 

神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

PR

連載・コラム