藤田医科大学病院で人型ロボットと自動搬送ロボットの実証実験 除菌/殺菌やコンテナの自律搬送を公開 あいちロボットショーケース

愛知県では、サービスロボットの社会実装を促進するため、様々な施設でロボットが実証実験を行う「あいちロボットショーケース」を開催している。その第一弾は「大名古屋ビルヂング」で1月18日~24日に行われた。その様子は既報(関連記事「自律移動/清掃/消毒/配膳/警備/遠隔案内など14種類のロボットが集結!「あいちロボットショーケース」レポート(1)」)のとおり。

そして2月24日、「藤田医科大学 ロボティックスマートホーム・活動支援機器研究実証センター」と「藤田医科大学病院 薬剤部周辺通路」にて実証実験の第二弾が実施された。


2月24日に参加した企業は、丸文とシンテックホズミ。丸文は人型ロボット「Aeolus」を、シンテックホズミは自動搬送ロボット「AISLE」の実証実験を行い、その様子が報道関係者に公開された。

廊下の手すりを消毒/殺菌する人型ロボット「Aeolus」

大型のコンテナを連結して運ぶ自動搬送ロボット「AISLE」


ヒューマノイドロボット「Aeolus」が消毒/殺菌

丸文はAIを搭載したヒューマノイドロボット(人型)「Aeolus」(アイオロス)を2台搬入して実証実験を行った。「Aeolus」は人間のように2つのアーム(ハンド)を搭載する完全自律型だ。LiDARや3Dビジョンを活用して自律移動したり、遠隔から手軽に指示を送ることができる。

丸文が実証実験を行なったヒューマノイドロボット「Aeolus」


ヒューマノイドロボットの利点

全般的に言えることだが、ヒューマノイドロボットの最大の利点は人間に近い作業が汎用的にできる点だ。汎用的とは、単機能ではなく複数の機能を行えること。「Aeolus」の場合は、除菌(広範囲、局所的)、巡視、運搬などができる。具体的には、2本のアームを使ってモノを運んだり、紫外線ランプを持って移動し、さまざまな場所を消毒/殺菌する実証実験が行われた。コロナ禍にあってとてもニーズの高い作業だ。
また、汎用性が高いと、朝は除菌作業、昼は運搬作業、夜は巡回・監視など、24時間働くケースも想定でき、人材不足には強力なソリューションとなる可能性もある。

キッチンを模した室内で紫外線ランプを持って殺菌作業を行う「Aeolus」(実証実験のため無害のライトを使用)

ランプの光を椅子などの家具類にあてて殺菌作業を行う


タイムスケジュールに従って、自律的に消毒/除菌作業を行う

例えば、カレンダーに作業時刻と作業内容、作業場所を登録しておけば、自動で自律的に作業を開始する。今回の実証実験でも自律での作業が公開された。紫外線は新型コロナウイルスを含めて消毒/殺菌機能が有効なことが証明されているものの、多くの紫外線は人間にも有害のため、人のいない環境でのみ、自律ロボットや遠隔操作によって紫外線ランプを使った照射が行われるケースが多い。実証実験では有害な紫外線ランプではなく、無害な紫色ライトを使用して照射作業の確認が行われた。

手すりやドアなど、人が接触しやすい部分を重点的に殺菌する(実証実験のため無害のライトを使用)

「Aeolus」は手の上下動のほか、身長を変化させることができるので、広範囲に腕を伸ばすことができるのも大きな特長だ

身長は1,023mm ~ 1,323mmで伸び縮みする機構を採用。体重は約62kg。

ロボットの指示や操作はスマートフォンのアプリから遠隔で行うこともできる

現状ではバリアフリーであることや、ドアの開閉はスライドドア限定、などの環境的な制約があるものの、介護施設や病院では環境的にマッチしていることから、実用化がはじまりつつある。丸文によれば「更に開発が進めば、将来的にはホテルやオフィスビルでの警備など、人材不足の課題を抱える他の分野への対応も視野に入れている」という。



スタッフの負担軽減に期待

コロナ禍で病院のスタッフの作業は、より煩雑で注意を払う必要がある。そのような環境のなかで、いつも以上にストレスがかかっている。「清掃や除菌など気を使う作業をロボットで代替できるのはスタッフの肉体的・精神的な負担の軽減につながる」「病院では患者安全が第一であるが、きめ細やかな巡視が可能となれば、異常の早期発見に繋がるのではないか」などという声があがった。

実証実験の場所を提供したRSH&AATセンターのセンター長、大高洋平氏(写真左)は、「ロボットなどのテクノロジーを用いて、さまざまな仕事が自動化できると、医療従事者らの負担が減ってくる」とコメント
【今回の実証実験の内容】
・手すりの局所的除菌(専用グリッパーを使用)
・部屋全体を広範囲に除菌(専用ランプを使用)
・巡視作業(スライドドアを開閉し、離床を確認してアラート発行)

■ 病院内の手すりやドアノブ、キッチン等を除菌する人型ロボット「Aeolus」


重量のあるコンテナを自律移動で運搬する「AISLE Tower Type」

シンテックホズミは、自動車等の製造工場で利用する搬送ロボットの開発を行ってきた。その技術を活かし、公共空間での人手不足解消や作業の効率化を支援するために開発したのが「AISLE Tower Type」(アイル・タワー・タイプ)だ。荷物の運搬や施設内の案内など、従来から人が行なってきた単純な作業をロボットに任せることで、業務の効率化や人手不足の解消に繋げたい考えだ。

シンテックホズミの自律移動運搬ロボット「AISLE Tower Type」

また、稼働率を高めてコストメリットを高めるため、搬送業務だけでなく、1台でさまざまな作業ができるようにマルチユース化を目指している。今回、実証実験を行ったタワータイプのAISLEは、人との協働、共存を実現しつつ、施設内の案内や荷物の運搬(最大200kgまで牽引できる)などシチュエーションに応じて柔軟に使用できる、高い汎用性が特徴だ。

病院内で使用するコンテナを牽引して運搬する「AISLE Tower Type」


運搬だけでなく消毒も(マルチユース仕様)

AISLEには「UV照射装置」付きのタイプもある。紫外線ランプに人に害のない「UV-C波」(222nmを使用)を採用する。

AISLE Tower Type(UV照射パッケージ)


カートを連結して目的地まで自動搬送

実証実験では、B1Fの薬剤部でスタッフが調剤してセットした薬剤が入ったコンテナ(カート)を、5Fのリハビリテーション科病棟前のコンテナ置き場まで搬送した。現時点では、毎日病棟スタッフがコンテナを取りに移動しているため、その作業を搬送ロボットが代替することで、時間や労力の負担を軽減したい狙いだ。
病院内で使用するコンテナを牽引、AI機能を用いて自律移動で運搬する作業が実施された。藤田医科大学病院、薬剤部の廊下では、ロボットを数日前から搬入して設定、動線をインプット、24日は取材陣や病院内の関係者の前でコンテナと接続、100数mの距離を運搬した。

ロボット上部のタッチパネルで運搬作業を指示する

シンテックホズミがこの実証実験で確認したかった主なポイントとして「病院でのロボット運用の実用化に向けた現状機能の改善点や不足点の洗い出し、実際に使用するにあたってのオペレーションの検討」をあげた。

ロボット後部。円形の磁石でコンテナと連結して牽引する。連結部の上にセンサー類が装備されているのが見える

■ 病院内のコンテナを連結して運ぶ自律移動ロボット「AISLE」

■病院内の除菌デモを行う自律移動ロボット「AISLE」

実施後の感想として、シンテックホズミは「ロボットがうまく人と共存して効果的に作業するには、実業務に即したオペレーションを考えることや、回避や安全に対する機能の充実が必要なこと、忙しい業務の中でスタッフの皆さんにロボットを活用して頂くには、より分かり易く簡単に使えるようにすること、などが再確認できました。また、薬剤コンテナだけでなく、病院内ではいろいろなものが大量に人手で運ばれているので、様々な荷姿のものを自動搬送できるようにロボットが進化していくことで、より活用の範囲が広がると感じています。搬送業務は比較的、決められた時間に作業が行われているようなので、時間をずらしてUV照射除菌等他の業務も実施させることで、マルチユースのロボットを1日の中で更に有効活用できます」とコメントしている。

【AISLE Tower Typeの特長】
・1台で複数役をこなすマルチユースロボット。搬送だけでなく、紫外線照射による除菌(オプションとして専用UV照射ユニットを用意)、パトロールなどの単純作業を効率的に行うことで、スタッフはサービスなど他業務に注力できる。
・最大200kgまで牽引可能。自社搬送ロボット技術を活かし重量物も搬送可能。
・現在使用中の台車も大きな改造なく牽引可能。(台車形状によっては使用できない場合あり)
・タブレットで簡単操作。呼出・行先指示が簡単。
・制御システムを使用し、エレベーター乗降や導入済みのシステムと連携した作業が可能。
・レーザーセンサと前左右のカメラによる障害物検知で、走行安全性を向上。
・マッピング登録によるガイドレス走行で軌道テープ等が不要。
・現場のスタッフ自身がいつでも簡単に経路設定・変更が可能。
・運用状況・現在地を常時モニタリング、管理できる。

> つづく「三菱電機「多用途搬送ロボットシステム」とパナソニック「追従型モビリティ」を藤田医科大学病院で実証実験 あいちロボットショーケース


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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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