建設×ITのいま ConTech LABイベントで建機遠隔操作スタートアップARAVの白久氏らが講演
「ConTech LABイベント:建設機械DXの現在と未来」が2021年4月7日にオンラインで行われ、コマツのスマートコンストラクションや、建設現場のDXを目指すスタートアップARAVによる建機の遠隔操作技術が紹介された。「ConTech LAB」は株式会社桐井製作所が2020年に設立した、建設業界のデジタル化「ConTech(建設×IT)」とオープンイノベーションをサポートすることを目的とした建設テックコミュニティ。スタートアップ向けのイベントや支援プログラムを行なっている。
「ConTech LAB」の運営を行なっている株式会社桐井製作所 東京支店東京第二営業所 主任の山下幹晴氏は「建設業界のDXを推進するためのすべての人々のためのオープンイノベーションプラットフォーム」と紹介した。建設業界スタートアップは数も少なく、より広く興味・関心を持ってもらい、取り組みを推進する必要があると考えているという。コミュニティメンバーは発足半年で300名程度。これまでに2回のイベントを行った。今後も随時イベントを開催して予定。
桐井製作所は1938年創業の内装建材メーカーである。建設メーカーは自然災害リスク、少子高齢化による仕事の担い手不足、デジタルを活用した製品・サービスやスタートアップの台頭といった課題を抱えている。これらの変化を踏まえ、持続可能な暮らしと働き方の実現に向け、業務効率化が必要とされている。そこでイノベーションに関わるエコシステム作りを目的としてConTecLabを作ったと山下氏は改めて紹介した。
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コマツのスマートコンストラクション
はじめに、一般社団法人 日本建設機械レンタル協会 副会長、i-Construction委員長で、株式会社小松製作所(コマツ)スマートコンストラクション推進本部 副本部長(兼)建機マーケティング本部国内販売本部 副本部長の小野寺昭則氏が、コマツのDXスマートコンストラクションについて紹介した。
建設業界では人手不足が深刻化しており、生産性向上が急務となっている。コマツでは建設生産プロセス全行程をデジタルで繋ぎ、最短・最小人員で安全・正確に地形を変化させるサービスを「スマートコンストラクション」とし、これまでに1万3000現場に提供してきた。現場ごとに多くの課題があり、多くの学びがあったという。2019年からは経営計画の柱として、安全で生産性の高いスマートでクリーンな未来の現場を目指してDXに取り組んでいる。具体的にはモノの自動化・自律化、そして建設現場オペレーションの最適化を進めている。
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小野寺氏は「ドローンによる3D測量や3D施工計画など従来施工プロセスを置き換えるだけのデジタル化では部分最適にすぎず、プロセスを見直していないので生産性は上がらない」と指摘した。プロセスを繋ぐ横のデジタル化が重要だという。具体的にはデジタルツイン上でシミュレーションを行なって各計画のパラメーターに返していく。さらにこれが横に繋がると複数の現場間でのマルチな最適化が図れるという。
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たとえば70ヘクタールの造成工事を行うとして、100万立米の山があったとする。従来は多くの工程がアナログで進められており、大規模な造成工事だと2ヶ月程度かかる。DXではどうするか。まずドローン測量によるデジタルツインを作る。デジタルツイン作成についても以前は点群データをクラウドで処理するために時間がかかっていたが、今はエッジ側で処理を行うことで瞬時に作れるようになったという。そして盛り土、切土、つまりどこをどれだけ削り、盛るのかをシミュレーション上で高速で検証し、そのための道路をどう作ればいいのかといったこともすぐに計算できる。顧客にも3Dモデルを提供し、安全性の検証もできる。最終的にはデジタルタスクを建機に転送する。小野寺氏は、このようなサービスが実際に顧客に提供されていると述べた。
建機レンタルDXサービス SORABITO
続けて、SORABITO株式会社 代表取締役会長の青木隆幸氏が講演し、同社の建機レンタルDXサービス「RENTALAPP」や、中古建機専用オークションサービス「ALLSTOCKER」を紹介した。
SORABITOは2014年創業。事業テーマは「働く機械のライフタイムに渡り価値を最大化する」こと。建設現場では多くのものや情報を管理しなければならず、建機の正確かつ効率的な運用・管理が求められる。建機といっても幅広く、同社では車両や重機のほか発電機、投光器、工具、コンプレッサーなども取り扱っている。建機レンタル業界の市場規模は2兆円。機器の数は数百万台。この業界でもサービスの変化が求められている。同社では建機レンタル業界を業務プロセスに分解し、中古売却の適切化などを行なっている。
SORABITOではオンラインでの建機レンタル予約、リアルタイムに手配状況がわかる、返却忘れが予防できるといったことが可能なアプリ「RENTALAPP」を開発。2021年2月から提供を始めている。ウェブアプリであり、ネットが繋がればシンプルかつ簡単に使えるサービスとなっているという。SaaS型のプロダクトとしてレンタル会社に提供している。
中古建機専用オークション「ALLSTOCKER」は7年前から開催しているサービスで隔週開催。スマホ・PCに対応したリアルタイムオーションで予約入札、即決入札、複数商品への並行入札などができる。様々な機種を世界中に販売することができる。日本の機械は世界中で人気だという。
後付けできる重機の遠隔操作技術 ARAV
最後に、ARAV株式会社 代表取締役社長の白久レイエス樹氏が同社の重機の遠隔操作技術を紹介した。ARAVは2020年創業。従業員数は17名。建設業界は3Kと言われている。ARAVは建機からオペレーターが離れることが安全に繋がると考えている。そして距離制約から解放されることにより、一人が複数台の建機を操作することで生産性を上げようとしている。
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白久氏は、株式会社富士建との油圧ショベル遠隔操作化、株式会社諸岡とのキャリアダンプ遠隔操作化、株式会社日建とのキャリアダンプ遠隔化、伊藤忠TC建機株式会社との油圧ショベル・キャリアダンプ遠隔操作化の事例を紹介した。
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古い機械であっても後付けで、しかもスマホを使った遠隔操作化ができ、災害現場への遠隔操作建機派遣などが容易になると考えているという。
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また、後付けの自動運転技術の提供も目指している。白久氏が以前に経営していたYanbaru Robotics時代の技術で、古い乗用車にも後付けして自動化できる。ARAVではその技術を使って、金杉建設と一緒に大型草刈機の自動化などを進めている。
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またROSを使った事前検証や、油圧ショベルの遠隔操作にも取り組んでいる。こちらは合同会社ビスペルと油圧ショベル自動化の検証を進めている。土砂の状態を自動認識しながらダンプに積み込むことができる。
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パネルディスカッション「2021年建設機械DXの現在と未来」
このあと、コマツの小野寺昭則氏、SORABITOの青木隆幸氏、ARAVの白久レイエス樹氏の三人によるパネルディスカッションが行われた。モデレーターは、株式会社デジタルベース キャピタル アソシエイトの佐藤大悟氏がつとめた。
コマツの小野寺氏は、今の無人化技術には40年くらい前からの先人たちによる多くの失敗を積み重ねたチャレンジとその技術要素が使われていることと、そこにさらに衛星測位やビッグデータ取得技術、大容量データ通信などの技術が横から寄り添ってきたことによってICT建機が出てきたと振り返った。既存建機を新しい機械に置き換えるには何十年も時間がかかる。だから後付けデジタル化・自動化という方向は正しいと見ているという。i-Constructionは進みつつあるが、2019年ではICT施工はまだ3%程度しかなく、まだまだ黎明期にある。ただし9万件のなかの3%なので事例数自体は増えており、また実際の生産性は20-30%上がっているので、方向性は正しいと考えているという。コマツでもレトロフィット化は進めている。
■動画 コマツ スマートコンストラクション・レトロフィットキット
白久氏は「測量はドローン活用によるDXが進んでいるが施工はまだまだだと感じている」と述べ、建機の制御はレトロフィットのハードルが高く、まだまだ始まったばかりでもっと開発速度をあげないとインフラ維持は難しいのではないかと考えていると語った。
白久氏はもともと動作拡大スーツの「スケルトニクス」の開発をしていたことで知られている。そのなかでパワードスーツの開発にも挑んでいたが、当時、まったく新しいものを作るのは既存機材との比較になり導入が難しいこと、また外燃機関から内燃機関への変換時のような大きな変化は、今後も原動機部分に革新的な革命がおきないと難しい、ブレインを入れ替えるしかないと考えたことを紹介。そしてロボット工学のなかでは制御技術を提供するのが効率がいいだろうと考えて、後付けにフォーカスしたという。
SORABITO青木氏は建設機械を顧客ユーザーに届ける流通業者としての見方を語った。青木氏は自身の経験を踏まえて、林業やリサイクル業など定点で建機を動かし続けるところの作業は単純だが、他者とのコミュニケーションもなく人にとっては過酷であり、オペレーターの定着率は低いと指摘。遠隔操作や自動運転でそれが解決できればすばらしいと語った。SORABITOでもより深いところにサービスを届けていきたいと考えているという。
建設現場は日々頑張っている。そこには多様な業者がある。一社だけが進んでいてもだめで、全体がある一定水準を全体が超える必要があり、未来を描いて全体の水準をあげること、会社を超えて取り組みを推進することが必要であり、SORABITOでは流通業者としてそこをサポートしていきたいと語った。
DX人材に必要なことは対象のオペレーションの理解
小野寺氏も「先ほども述べたように全体の3%しかICT工事は行われてない。中小がデジタル化する必要があるが、そのためにDX人材を社内に置くのは難しい。レンタル業は現場に近いので、その分野にサポートが委ねられてくるだろう」と同意。ただし様々なデータを扱うためには新たな組織、能力開発も必要となり、そのためのリソース分配が重要だし課題だと語った。
また小野寺氏は個人的な意見として「DじゃなくてX」と述べた。「技術はどんどん降ってくるので、そのバンドルやパッケージ化ができる人、オペレーションを組み替えるコンサルができる人、二つの能力が必要」とし、対象オペレーションが理解できることと、そこに技術を組み合わせてどう変えられるかという設計ができることが理想的な能力だと語った。
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モデレーターのデジタルベースの佐藤氏も「DX人材は現場のオペレーションを理解し、技術を繋げられる人材が重要」と同意。白久氏は建機のDX開発側として、技術者に建設機械の遠隔化に興味をもってもらうことが難しいと指摘した。乗用車の自動運転に比べるとまだまだプレイヤーが少なく、なぜ建機の自動化が必要なのかということを説明することから始めないといけない段階だという。また受け入れ側の問題もあるとし、「新しいものを使ってもらうには、もっと使いやすくないといけない。パソコンの複雑な操作なしで、ワンボタンで誰にでも使いやすいものを作る必要がある。それも建機の自動化では大事なところだと思う」と述べ、SORABITOの中古建機専用オークションサービス「ALLSTOCKER」は多くの人に使われていて素晴らしいと話を振った。
SORABITO青木氏は、「いかにシンプルにして無駄を省くか」に注力していると語った。「多機能にしても1%、2%しか使ってくれない。まずは必要な機能に絞ってシンプル化していく」ことが重要だとし、「自然にオペレーションに組み込む」ことを重視しているという。「自然の調達プロセスのなかに必然的にアプリを開くということを心がけている。『もともとあったんじゃないか』というくらい不自然をなくす、違和感をできるだけ排除していく」とし、特に極力、シンプルを目指していると述べた。
開発とデリバリー、両方の人材が必要
ARAVの白久氏は建機遠隔操作ならではの難しさについて、ナビゲーションについては自動車の自動運転よりもむしろ低速で乗り心地などを想定しなくてもいいところもあり割とシンプルな制御則でできるが、いっぽうマニピュレーション、つまり腕を動かす部分は独自の難しさがあると語った。産業用ロボットを使ったパレタイジングロボット(荷物の積み下ろし)の場合は空中を運ぶので空気中の抵抗は問題ない。しかし掘削は対象が掘るまで、どのくらい固いかわからず、経路計画をリアルタイムに計算しないといけない。これらは建機特有の課題だ。エンジニアに対しては「解きがいのある課題だ」と言っているとのことだった。またオペレーターについてはeスポーツ経験者など、若手の副業としてもらうといったアイデアは、興味を持ってもらえる人も増えるだろうから、すごくいい展開になるのではないかと語った。
小野寺氏も「課題は人材の問題に尽きる」と述べた。コマツではスマートコンストラクションを提供してオペレーションが変わるまでを「デリバリーモデル」と呼んでいるそうだ。DXコンサル、DXセンターのデザイナー、サポートセンターのトラブルシューターの3者が、そこには入っている。スマートコンスロラクションはまだまだ手離れが悪くて、そのまま顧客オペレーションに組み込むのは難しい。だが現場では必ず問題が起こる。ズレているデータを修正するといったトラブルシューティングは必要だし、様々なアルゴリズムをシミュレーター上で選択し計画を作るためのDXセンターだ。そのための人材も必要となる。もちろん開発者人材も不足しており、「開発とデリバリ、両方の人材が必要」と述べた。
青木氏も「人だと思っている」と同意。業界課題を理解して一般化してプロダクトを開発して、適切にソリューションを提供できる人、カスタマーサクセスまで持っていける人である。そのためには業界に特化したスキルがないといけないというわけでもないという。それらの知識を持った人は業界にすでにいるので、むしろ違った経験スキルや専門性、様々な経験を持った人が繋がることが重要なのではないかと語った。
そして「この業界はまだまだ人が必要。いかに魅力を伝えるか。現場に一緒に行ったりして実際に見てもらうことが重要だと思っている」と述べた。ARAV白久氏も「現場の問題を解決するには現場にいかないといけない」と同意。「建設業界じゃないと経験できないこともある。腕がついていて移動できる機械はそんなに多くない。二つ組み合わせるのは実装対象システムとしては複雑になるが、『これができたらどこでも活躍できる制御人材になる』といって採用に繋げている」と語った。
小野寺氏はコマツでも5年間で100人以上採用していると述べ、採用のためにはビジョンを示すことが重要だと考えて、Youtubeに動画を公開したりもしていると紹介した。
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DXもステップバイステップ
小野寺氏は「DX」という言葉よりも「オペレーションを変革させていくことが重要」と強調。オペレーションを変えた先にある価値を生むためだ。そのための設計が重要であり、「建設DXはステップバイステップでいかないと難しい。まずはリアル現場をしっかりデジタルに変える。次にそのデータを使って現場課題をモニターして、最適解を計算してデジタルタスクに変えて、現場に返す。そこでPDCAを回す。そうしてはじめて生産性があがる。リアルの現場とデジタルツインができること、そこで正しい計画を作って、リアルの現場と同期させていくような理屈のかなったオペレーションができると生産性が上がるし、安全性も高まる。そういう世界を作りたい」と語った。建機の技術は日本発の技術でもグローバルで展開できると考えているという。
SORABITOの青木氏は、いかに効率化させるかが重要だと考えており、同社のアプローチは3段階あるという。最初は建設現場とレンタルをつなげるアプリ、そこからさらにレンタルの業務現場を最適化していく業務改善へと進める。そして最後に、大型現場は数千台の建機が動いているが、現場の中でいかに効率的に動かせるかについては業界を超えて一貫したサービスを整えていく必要があると考えており、一部のプロセスだけではなく広げていくことが重要だと考えていると述べた。時間的には「3−5年のなかで解決していきたい」と述べ「建設現場も変わってきたねといわれる業界にしたい。スマートで、作るの楽しいと言われる業界にしていきたい」と語った。
白久氏は「ARAVとしては制御技術を中心にして強化していきたい」と語り、やはり大きく3段階のステップを考えていると述べた。ARAVでは建設機械に取り組んできたが、建機はAPIにフルアクセスしづらい状況にある。そこでARAVは、レトロフィットで、まずは建機にアクセスして制御できる状態にするものを提供していきたいと考えているという。さらにその上のアプリケーション層は遠隔操作をいち早く提供することで距離制約をなくす。そして3番目は自動化に寄与していきたいと考えている。白久氏は「ターゲットを絞りつつ、インターフェースを整えて 誰でも建機を制御できるようにするところから取り組んでいきたい。先人の成果をもとに、業界課題を仲間を集めて解決していきたい」と語った。
Q&Aでは、自動化が進むと「オペレーターの現場感」はどうなるかという質問が出た。コマツの小野寺氏によれば、ICT建機が導入されると「腕のある人は腕のある人なりの使いかたがあり、これまではできなかったマルチな技ができるようになる」そうで、「半自動で制御される時代になると、熟練オペレーターは、より幅広い作業できるようになるので、現場感がなくなるということはない」と語った。ARAVの白久氏は「自動化に向いている施工とオペレーターじゃないとできない施工に別れる。役割分担ができるだろう」と述べた。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!