学生たちが自律移動ロボットを走らせて競う「AWS Robot Delivery Challenge」(AWSロボットデリバリーチャレンジ)の予選が4月5日に終了し、決勝ラウンドに進出する10チームが決定した。今回は「初心者部門」が新設され、従来の「カスタマイズ部門」と併せて2つの部門で行われる。決勝ラウンドは5月11日に「AWS Summit Online – Developer Zone」内で配信される。
予選最終日、トップをめぐる白熱のタイムアタックの応酬
予選は数週間にわたってシミュレータ上で行われ、参加チームは設定ファイルをオンラインでアップロードすることで走行、何度でもタイムアタックできる方式が採られた。そしていよいよ迎えた予選最終日、シミュレータの予選会場では白熱したタイム争いが繰り広げられ、トップタイムの更新が予選終了ギリギリまで行われていた。
「カスタマイズ部門」をトップタイムで予選通過した宮崎大学の上田さんは予選最終日の様子をこう語る。
宮崎大学の上田さん
予選の最終日、お昼過ぎくらいだったと思いますが、僕たちのチームはトップタイムを出せました。それを区切りに”もう充分だ、これ以降は更新するのはやめよう”と決めていたんです。ところが、予選終了が近くなってきたので、ランキングページをもう一度確認してみたら、他のいろいろなチームがどんどんタイムを更新していて、僕たちのトップタイムも更新されていたので、あわてて設定をブラッシュアップしてタイムアタックをしました(笑)。その結果、予選終了の5分前くらいに再びトップに立つことかできました。本当にギリギリでした。
AWSの運営事務局も最終日の様子についてこう続ける。
AWSの運営事務局
予選タイムの公開はそれまで定期的に行っていたのですが、私達も “予選の最終日はタイムの更新が頻繁に行われて、順位が変動するかもしれない” と思い、公開する間隔を短時間にしてランキングページを更新していたんですが、その予想を上回る競争が繰り広げられ、最後の数分まで本当に激しいタイムアタックが行われていました。我々も興奮して見守っていました。途中で”この熾烈なタイム争いをリアルタイムで皆さんに見ていただく方法がないだろうか”と社内で検討したくらい見ごたえのある競争になっていました。
「初心者部門」をトップタイムで予選通過した福島工業高等専門学校(福島工業高専)の佐藤さんもその時の思いと喜びを次のように語った。
福島工業高専の佐藤さん
最終日の22時くらいにランキングが発表され、その時点で僕たち3位だったんです。なんとかトップタイムを出したいと、そこから必死にパラメータを検討しなおして、23時50分くらいに提出したものでトップタイムが出て、本当にギリギリで予選1位になることができました!!
参加者を熱くする「AWS Robot Delivery Challenge」、今回の記事では「初心者部門」と「カスタマイズ部門」、予選をそれぞれトップタイムで通過した下記の2チームにインタビューをおこなった。専攻している学科、ロボコン出場の経験の有無、速く走らせるポイント、決勝ラウンドにのぞむ意気込みなど聞いた。
「初心者部門」ランキング1位通過チーム
福島工業高等専門学校 佐藤 龍熙さん、岸本 篤さん
「カスタマイズ部門」ランキング1位通過チーム
宮崎大学 上田 高寛さん、東郷 拓弥さん、浪崎 誠也さん
学生対抗ロボットアプリコンテスト AWS Robot Delivery Challenge
AWSロボコンは、学生対抗ロボットアプリコンテスト。コースに沿って自動搬送ロボットを走らせる。コースにはチェックポイントが設定され、障害物を避けながら疾走させる。
主催はアマゾンウェブサービスジャパン(以下、AWSジャパン)が主催する。「予選」はシミュレーション上のタイムトライアル形式で行われ、「決勝ラウンド」は住宅地をイメージしたジオラマ・コースで自律走行ロボット「TurtleBot3 Burger」を走らせる。参加する学生全員に、人材育成支援を目的にしたクラウドを使ってプログラミング学習やスキルの育成を支援する無料のオンライン学習プログラム「AWS Educate」も提供されるため、何も買わずに、費用もかけずに参加することができる。
予選トップ通過 2チームにインタビュー
今回、トップ通過した皆さんは、どのような学科に在籍しているのだろうか?
編集部
福島工業高専と宮崎大学のチームの皆さん、決勝ラウンドへの進出おめでとうございます。学校では主にどのような学科を専攻していますか?
福島工業高専
僕たちは電気電子系の学科を専攻しています。普段は電気や電子回路などの理論を学んだり、実験するなどの授業が多いです。
佐藤さん「僕自身はどちらかというと情報系が得意でソフトウェアのプログラミングなどを主に行っています」
岸本さん「僕はソフトウェアとハードウェア両方を勉強しています。」
宮崎大学
メンバー3名とも同じ専攻で、情報システム工学科に在籍して、主にソフトウェアを勉強しています。最近ではそれぞれ卒論のためのソフトウェアを制作しています。
上田さん「僕は通信系の研究をしています。」
東郷さん「リモートなどで学業に使えるソフトウェアについて研究しています。」
浪崎さん「Python等を使って機械学習に関連した理論寄りの研究をしています。」
編集部
他のロボコンを含め、普段からコンテストには出場していますか?
AWSロボコンに出場しようと思った理由やきっかけはなんですか?
チーム内で役割分担はありますか?
福島工業高専
ほかのロボコンに出場した経験はありません。AWSロボコンに参加したのは前回に続いて2回目です。前回、初めて出場したきっかけは「オンラインでの競技に参加してみたい」と感じたことと、他のロボコンではハードウェア系の知識が必要なものが多いですが、AWSロボコンは「シミュレーションなどソフトウェア系の知識やスキルで勝負できる」かなと興味を持ちました。
前回はAWSロボコンを研究する時間がなかったこともあり、残念な結果(予選敗退)だったので、今回は十分に時間をとってのぞみました。役割分担は特に決めず、各自でシミュレーションして相談しながら改善していった、という感じです。
編集部
なるほど。予選はAWS上でシミュレータが動作していたわけですが、AWSの操作面ではどうですか? 簡単に操作できましたか?
福島工業高専
僕たちは「AWS」をAWSロボコンで初めて使ってみましたが、システムやツール、シミュレーションとも、とても使いやすかったです。座標や角度を調整して何度もトライしましたが、その操作面でも難しいとは感じませんでした。
編集部
宮崎大学の皆さんはいかがでしょうか?
宮崎大学
AWSロボコンは前回に続いて2回目です。前回も決勝ラウンドに進出できましたが、決勝ではロボットが動かなかったり、思ったようにはうまく走らせることができずに5位でした。
上田さん「他のコンテストでは「ETロボコン」に出場しています。AWSロボコンと同様にハードウェアは均一のものを使用し、ソフトウェアのスキルや設計図の出来具合で競います。」
東郷/浪崎さん「僕たち2人は上田君にAWSロボコンへの参加を誘われたのがきっかけで「ROSも面白そう」「どういう技術が使われているか勉強してみよう」と感じて参加しました。他のロボコンには参加したことはありません。前回はロボットを勉強したことがなかったので、いろいろ難しい点を実感しました。
前回はそもそもロボットをどうやって動かせば良いのか解らない、というレベルからはじめました。結果は悔しいものでしたが、3人で知恵を出し合って取り組めたこと、自分では思いつかないアイディアをのメンバーが出してくれて、それでタイムが良くなったりした時はすごく楽しかったです。
一番難しいと感じたのは実機がどれだけ進んだのか距離を推定したり把握する「オドメトリー」です。シミュレーション上と実機では誤差が発生するため、それを制御するのが難しかったです。」
速く走るためのポイントは
編集部
予選に参加して「速く走れた決め手」はどこだと感じていますか?
福島工業高専
「初心者部門」では独自のソフトウェアやモジュールを使うことはできないので、最適な走行ルートや速度を探っていきます。「座標を決めてそこまで自動運転する」という作業を繋げていきますが、座標は少しの数値の差でもスピードやタイムに大きな違いが発生します。コーナーに入る角度や速度、距離などを考えながら、最適な座標の数値をみつけるのが勝敗の決め手になると思います。数値が最適でないと、10~20秒も一気にタイムが落ちてしまったり、障害物にぶつかってしまうこともありました。特に自動運転のコース取りでは「角度」を決めるのが難しかったと感じています。
タイムアップできそうな座標や角度などを指定した結果、思った通りにタイムが上がるときはとても楽しいです。
宮崎大学
僕たちにとっては、パラメータなどの設定だけで競う「初心者部門」の方がむしろ”差別化が難しい”と感じ、「カスタマイズ部門」を選びました。「初心者部門」は各チームがアプリなどを独自に追加したり、プログラムの変更が許されていないので、自分たちで独自のノードを追加して差別化できる方がスキルを活かせると感じました。予選では標準で用意されている走行制御プログラムではなく、独自のオドメトリーを使った制御プログラムを開発して動かしました。
また、ほかのチームの戦略は解りませんが、僕たちは「最短距離を走る」ことを重視しました。
宮崎大学の上田さんは、実際のコース取りの画面を画面共用して見せてくれた。コーナーや曲がり角、障害物をギリギリで攻めるコースを走る(下の画面の赤丸が自車)。
決勝ラウンドのポイントは?
編集部
決勝ラウンドの勝敗のポイントはどんな点になりそうですか?
宮崎大学
前回、良い成績が得られなかった最大の理由、「オドメトリー」の攻略が鍵になると思います。予選はシミュレータのため、オドメトリーの誤差はほとんどありません。そのため、予選では昨年決勝にのぞんだソフトウェアを使って良い結果が残せました。でも、決勝では実機のロボットで自律走行するのでそうは簡単にいかないと思っています。
前回も距離を測定しながらロボットを自律走行させましたが、実機では車輪が滑ったり、壁などぶつかると計測がズレたりして、計算上とは違う場所を走っていることがありました(オドメトリーの誤差)。距離を車輪の回転数だけに頼っていたのが敗因だと思いますので、今回はLiDARやセンサーを使い、SLAMなどの技術もきちんと使って、正確にロボットの自車位置とコースを把握してのぞもう、と考えています。上手くいくかは解りませんけれど(笑)。
また、「移動する障害物」にも注意が必要です。移動する障害物の動きを予め予想して避けて走行することでタイムが大きく変わるのではないかと思っています。
編集部
最後に決勝ラウンドへの意気込みを聞かせてください
福島工業高専
佐藤さん「予選はシミュレーション上で何度もタイムアタックができましたが、決勝は一発勝負なので、当日までシミュレータで何度も調整しながら、失敗がないように調整していきたいと思っています。また、決勝で想定外の事態になってしまわないよう、予めトラブルが起こりそうな点を予想して対策していきたいと思います」
岸本さん「僕は初めてAWSロボコンに参加するので、他のチームとの競争を含めて楽しくチャレンジしたいと思っています。もちろん決勝でもトップを目指したいと思います」
宮崎大学
前回の反省を活かして、誤差が少なく「正確に走行できる」システムで臨もうと思っています。また、前回は自分たちのソフトウェアで全部やろうとしていましたが、今回はROSのライブラリなどソフトウェア資産を上手く使ってスマートに勝ちにいきたいと思います。
あと、前回もそうでしたが、今回も「WEB UI」(操作画面)に力を入れたいです。決勝で不測の事態が起きたとしてもブラウザから簡単な操作で柔軟に対応できるように、画面デザイン(UI)に工夫したいと思っています。
決勝は5月11日(火)、「AWS Summit Online – Developer Zone」内で配信される。
決勝進出チーム
1位 53.045 秒
佐藤 龍熙さん, 岸本 篤さん チーム (福島工業高等専門学校)
2位 55.064 秒
須山 凌さん, 天野 匠さん, 東 綺羅さん チーム (東京都立南多摩中等教育学校)
3位 56.115 秒
森田 優希さん, 藤岡 凌司さん, 柳内 幹太さん チーム (東京工業大学 / 千葉大学大学院 / 北海道大学)
4位 62.213 秒
花澤 怜さん, 深谷 拓実さん チーム (東京都市大学)
5位 64.078 秒
古川 樹さん (信州大学)
カスタマイズ部門ランキング
1位 40.42 秒
上田 高寛さん, 東郷 拓弥さん, 浪崎 誠也さん チーム (宮崎大学)
2位 40.465 秒
池邉 龍宏さん, 岩井 一輝さん, 高橋 秀太さん, 春山 健太さん チーム(千葉工業大学)
3位 40.553 秒
小島 潤也さん,石塚 博之さん, 水谷 林太郎さん チーム (中央大学)
4位 41.753 秒
播磨 朋紀さん, 後藤 恒星さん, 宮前 潤也さん チーム (豊田工業高等専門学校)
5位 43.268 秒
羽鳥 優平さん, 櫛部 諒大さん, 仲保零二さん, 小和瀬 加奈さん チーム (芝浦工業大学)
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。