学生たちが自律移動ロボットを走らせて競う「AWS Robot Delivery Challenge」(AWSロボットデリバリーチャレンジ、以下 AWSロボコンと表記)の決勝ラウンドがおこなわれ、5月11日(火)にAWS Summit Online – Developer Zoneで配信された。
決勝ラウンドには予選を勝ち抜いた10チームがリモートで参加。AWSロボコンでは高精度の自動運転技術が求められるコンテストだ。会場に設置された住宅街をイメージしたコースの中を、実機の自動走行ロボット「TurtleBot3 Burger」をオンラインで走らせて競った。
AWS Robot Delivery Challenge 動画配信はこちら(AWS Summit Online のログインが必要)
2台が同時にスタート、ルールも変更
コースは昨年と比較して約2倍に拡大され、「TurtleBot3 Burger」はLiDARがより高い位置に設置され、その関係で身長が高くなった。これはルールの大幅変更に伴う影響だ。今回は、コース上を2台が同時にスタートして、指定したポイントを通過して得点を獲得していく。
コースレイアウトは下記の通り。青チームと赤チームがそれぞれの開始地点からスタートし、1~12までのチェックポイントを早く通過した方がポイントを獲得していく。競技時間は10分間。
12個のチェックポイントがすべて獲得されたら、両チームはスタート地点に戻って再スタート。チェックポイントはリフレッシュされ、再度早い者勝ちで獲得していく。
動く障害物の存在
前回はマップ上を1台で走るタイムトライアルだったが、今回は他のチームが動く障害物になる可能性がある。相手チームのロボットの予期せぬ動きを判断して走らなければならない。
動く障害物はもうひとつある。マップの中央にサークル(ラウンドアバウト:環状交差点)があり、そこには常時2台のトラックがサークル上を移動している。これもうまく避けながらタイムアップをはかった走行、つまり戦略が求められるコース設定となっている。
自律移動と遠隔操縦
ロボットはオンラインで指示を受けると原則的には自律的に走行する(自動運転)。自律的に走行する以外にリモートで遠隔操縦することもできる。ただし、遠隔操縦が中心になってしまうとリモコンでの競技になってしまうので、自律走行時の方が遠隔操縦時より最高速度が速く設定されている。
自律走行 最高速度 0.22m/秒
遠隔操作 最高速度 0.1m/秒
2チームで競技、勝ち抜けでトップを目指す
今回は「初心者部門」と「カスマイズ部門」が用意され、それぞれ5チームが決勝ラウンドに参加した。
初心者部門
参加チームの皆さん(予選順位順、メンバーは順不動)
信州大学チーム (古川 樹さん) 画像はありません。
カスマイズ部門
参加チームの皆さん(予選順位順、メンバーは順不動)
初心者部門は南多摩が制す
「カスタマイズ部門」が独自開発のアルゴリズムによる競争であるのに対して、「初心者部門」はAWSが用意したアルゴリズムやツールだけを使って競技にのぞむ。戦略や戦術、操作の仕方が重要になる。
初心者部門の決勝には予選トップの福島工専と南多摩が勝ち上がった。
決勝戦は接戦になった。残り4分を切ったところで12個のチェックポイントが獲得され、6-6のタイ・スコアでリスタートとなった。
リスタート後、いち早くスタート地点に戻ってポイントの取り合いとなった末に、合計ポイント8-10で南多摩が制した。
カスタマイズ部門は豊田工業高専
「カスタマイズ部門」はAWSが用意したアルゴリズムやツールだけでなく、独自に開発したアルゴリズムやアプリを利用できる点が特徴。そうなると画面上の各チームのマップにもそれぞれユニークなデザインが見て取れる。
また、戦術的にも大きく違いが出てくる。中央大学は実際に走行している車両と、マップやオドメトリーのズレをいち早くリカバリーするしくみを導入。実機で最も難しいとされるオドメトリーのズレを短時間で補正するしくみを導入した。
スタートダッシュが特徴的だったのは豊田工業高専。開始すると予め予定していたと思われるルート「7-5-1-2ライン」を迷わず走行して4ポイントを短時間で稼ぐ作戦が功を奏した。初回のスタートと、全チェックポイントを獲得後のリスタートの2回で「7-5-1-2ライン」の戦術が使えるため、得点を稼いだ。
決勝は豊田工業高専と昨年覇者の千葉工業大学が激突。豊田工業高専チームは相変わらず「7-5-1-2」ラインをきれいにトレースしてポイントを稼ぐ。
しかし、連覇を目指す千葉工大チームも負けてはいない。着実に巻き返して6-6でリスタートにこぎつける。制限時間をなんと6分以上も残してリスタート、まさに高レベルの競い合いの展開へ。
ただ、リスタート後の争いにはめっぽう強い豊田工業高専チームが得意の「7-5-1-2」ラインでポイントを奪取、さらには3も獲得して千葉工大を引き離す。
千葉工大チームは焦りもあったのか、サークル内を周回するトラックに接触、大きくタイムロス。更には両チームがぶつかるアクシデントも発生。
そうこうするうちに、リスタート序盤に大量に得点を稼いだ豊田工業高専チームが合計13-9のスコアでふり切った。
正確に着実に、スタート直後にきっちりと決めたルートを走って短時間にポイントを稼ぐ豊田工業高専チームの戦術が光ったカスタマイズ部門となった。
表彰式「日本全国から57チームの学生の皆さんが参加、とてもうれしい」
決勝戦の後、表彰式がおこなわれた。参加チームがすべてリモート参加だったが、前回と同様、AWSの長崎忠雄社長が登場して賞品等を授与、華を添えた。
長崎氏は「今回は、日本全国から57チームの学生の皆さんが参加してくれました。とてもうれしく思います。今回は2回めの大会と言うことで、前回からいろいろ変更して創意工夫をしました。初心者部門を新設したり、得点の方法を変えたりなどです。そしてなにより、参加された学生の方々が、プログラミングスキルを磨いて頂き、この場でスキルを発揮し、創意工夫をして頂きました。将来の社会を担う皆さんには、未来に向けて羽ばたいていって欲しい、と思っています」とコメントした。
コロナ禍でコンテストの運営や参加が非常に困難な中で実施されたが、学生たち参加者の熱意と工夫が画面越しに届いた素晴らしいイベントだった。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。