「青天を衝け」渋沢栄一翁ゆかりの里を大型バスが自動運転で走る!埼工大「渋沢栄一 論語の里 循環バス」体験乗車レポート

NHKで放送中の大河ドラマ「青天を衝け」や、一万円札の図柄で注目されている近代日本経済の父といわれる渋沢栄一翁ゆかりの地「深谷」。その地を見学する観光客の足となる『渋沢栄一 論語の里 循環バス』(深谷観光バス)にAI自動運転バスが導入されている。開発しているのはお馴染み埼玉工業大学。
循環バスが運行する最長コースの総距離は27.9km、そのうちなんと約17.2kmもの距離を自動運転で走行している。大型自動運転バスでこれだけの距離は類を見ない。
編集部は早速、深谷に向かい、試乗体験をしてきた。

自動運転バスの外観(旧渋沢邸・中の家にて撮影)






渋沢栄一 論語の里 循環バスと自動運転バス

深谷観光バスが運行する『渋沢栄一 論語の里 循環バス』は、深谷駅近くの仲町バス発着所、大河ドラマ館、北部運動公園、尾高惇忠生家、渋沢栄一記念館、旧渋沢邸・中の家(なかんち)、道の駅おかべ等を循環する。
循環バスは数台で運行しているが、自動運転が体験できるバスはそのうちの1台のみ。このバスは埼玉県先端産業創造プロジェクトのスマートモビリティ実証補助金により開発した全長9m、58人(着席23人)乗りの大型自動運転バスだ。



約17.2kmもの距離を自動運転

循環バスが運行する最大の総距離は27.9kmで、自動運転区間はこのうちの一部。「実際の運行を通して自動運転区間を増やしていきたい」としており、開始当初の自動運転の距離は約8kmだったが、それを現在は約17.2kmにまで増やしている。
時間の都合もあり、この日、報道関係者はそのうちの約10.9kmを乗車体験した。


ただ、自動運転というと、ハンドル操作・アクセル/ブレーキ操作、信号や対向車の判断など、運転のすべてをAIシステムに任せると思うかもしれないが、今回はハンドル操作か、アクセル/ブレーキ操作のいずれかの操作を自動でおこなう区間も多く含まれている。
その点では運転士の操作を支援する「レベル2」に相当しているが、一部の街道区間ではハンドル、アクセル/ブレーキを自動でおこなう完全な自動運転でも走行していた。

大型自動運転バスのコクピット。身体障害者用の器材等が流用されている。ハンドルのノブに自動運転のON/OFF切り換えスイッチがあり、フットペダル周りにも自動運転のON/OFF切り換えスイッチが装備されている

今回の自動運転バスについて、技術面から解説する埼玉工大の渡部教授(後述)

走行中に乗客が確認できるディスプレイ。左画像が走行用のマップ、右画像が周囲のカメラ、コクピット、運転士の足元が映像で表示されている。中央の表示で「mode」「Clutch」がハンドル操作とフットペダル(アクセル/ブレーキ)の自動運転の状態を示している。ライトグリーンの時は手動で走行

国交省などのガイドラインでは運転士がハンドルに手を添えて自動運転することになっているが、右左折時等にハンドルが自動でクルクルと回ってバスが旋回していく様子は見てとれた。なお、埼玉工業大学は信号機などと連動するインフラ協調の技術を持ってはいるが、今回は使用していない。


乗った感じは快適で、特に加減速や右左折時の動きはスムーズ、運転士が操作しているのと同じと感じた。また、速度は狭い車道ではゆっくりと走り、街道では最大で約60km/h弱で走行、制限速度や安全性にあわせて違和感なく走行する様子がわかった。

■『渋沢栄一 論語の里 循環バス』自動運転バス体験乗車(ショート版)

■『渋沢栄一 論語の里 循環バス』自動運転バス体験乗車(ロング版 約9分)


自動運転技術開発センター長に聞く

今回の大型自動運転バスの開発や技術について、埼玉工業大学の渡部教授に話しを聞いた。

埼玉工業大学 自動運転技術開発センター長 工学部情報システム学科 教授 渡部大志氏

編集部

まずは大型自動運転バスでの営業運行についてお願いします

渡部氏

今回は自動運転バスを長期間、運行する予定です。循環コースは全長27kmあって、狭い道もあれば比較的大きな街道もあるので、自動運転の技術は段階を踏んで導入していこうと思っています。
自動運転の走行距離でいえば最初は8kmでしたが、少しずつ自動運転の距離を拡大していていて、直近は17kmまで延長しています。その中には、ハンドルとアクセル/ブレーキ操作をすべて自動で曲がる交差点があれば、ハンドルは手動でアクセル/ブレーキ操作が自動の交差点、アクセル操作が手動でハンドル操作が自動の曲がり角もあります。信号がなくて他の車両も周囲にいない状況では全自動で走行しています。


自動運転技術は幅広いのですが、あまりあれもこれもと一度に盛り込むことはせずに、まずは基本である走る、曲がる、止まるを安全で確実に行い、できるところから自動運転を導入していって、走破距離を増やしていきたいと思っています。そして今、17kmを自動運転で走れるようになった、という段階です。自動運転レベルで言えば「レベル2」ですが、運行を重ねることでデータを収集していき、最終的には「限りなくレベル3に近い」ものにしたいと考えています。




LiDAR、GNSS、光ファイバージャイロ等を搭載

編集部

埼玉工大は今まで、24人乗りのマイクロバス「リエッセII」をベースに自動運転バスを開発してきました。今回は大型バスになって、どんな点が大きく変わりましたか?

埼玉工大が開発してきた自動運転のマイクロバス「リエッセII」

渡部氏

リエッセから大型の自動運転バスになって、ハンドルやブレーキが変わったことでソフトウェアは刷新しました。特にブレーキが大きく変わっていますが、大型バスでもとてもスムーズに止まる点も注目して見ていただきたいと思います。大型バスの方がハンドルのアソビが大きく、その点も対応しました(操舵はシステムがハンドルを回して行うしくみ)。



自動運転バスの前部には、上部と左右に大型のベロダイン製のLiDARが装備されている。後部にもLiDARが装備され、バスの周囲360度を監視してマップと照合しながら自律走行する。

大型自動運転バスの前面。大型のLiDARが3基装備されている(赤枠)

周辺の状況を見るカメラ

大型自動運転バスの後面にもLiDARを装備(赤枠)

編集部

センサー類はLiDARのほかにどのような技術を搭載していますか

渡部氏

バスのルーフにGNSSを搭載しています。また、高性能な光ファイバージャイロも使用しています。光ファイバージャイロは航空機にも使われている技術で、姿勢を安定して保ったり、自動運転でやさしいペダル操作を実現するのに有効です。

位置情報はGNSS等を使用して高精度に計測し、自社位置を推定している。ルーフ上に装備されているキノコ型の突起が「GNSS」のアンテナ2基

編集部

GNSSの精度はどれくらいでしょうか

渡部氏

GNSSは日本の準天頂衛星「みちびき」やロシアの「GLONASS」(グロナス)、中国の「北斗」などですが、標準誤差自体は1cm~1.5cmくらいです。GNSSだけでなく光ファイバージャイロで補正することでそれくらいの精度で自己位置が出ています。




自動運転バスの運行は土日のみ

話題になっている渋沢栄一翁ゆかりの地を訪ねつつ、未来を先取る自動運転の大型バスを体験してみるのはオススメだ。循環バス自体は2路線3系統の運行ルートで、平日7便、休日13便。1日乗車券は500円(小人250円)、1回ごとの乗車券もある。
自動運転バスは土日のみの運行で、スケジュール等は「渋沢栄一「論語の里」循環バス」のホームページで確認できる(一週間ごとに更新)。

ホームページでは「条件付き自動運転」となっているが、乗客が全員が着席できる20名を超えた場合は、安全性を考慮してその区間は自動運転でなく運転士による手動運転で運行される、等の条件があるため。その他、状況によって自動運転ではなく手動運転で走行する場合があるため、このような表記となっている。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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