IEEEが東大の新井教授のバイオメディカルロボット研究を紹介 水晶センサやAI等で超微細な領域でも活躍できるロボットの実現へ

IEEE(アイ・トリプルイー)は、電気・情報工学系、通信系の学術研究や標準化団体として知られている。
世界各国から技術専門家が会員として参加していて、ロボティクスの情報通信系においてもさまざまな提言やイベント、標準化活動を通じて技術進化と普及を推進している。

そのIEEEが、マイクロメートル(マイクロは100万分の1)や、ナノメートル(ナノは10億分の1)といった、人では作業が困難な超微細な領域でのロボット技術と活用について、東京大学の新井教授の提言を発表した。水晶センサーなど小型荷重センサーを医療用ロボティクスに活用する技術。新井史人教授は、東京大学大学院工学系研究科に所属しているIEEEメンバー(冒頭の写真)。

新井教授はマイクロ/ナノ技術は特にバイオメディカル分野への応用が有望と見ている。例えば特定の細胞を1個単位で抽出して分析することや、微量の試薬を混ぜ合わせる実験を数百、数千単位で繰り返すといった、精度やスピード、動作ミスがない環境を求められる微細作業は、ロボットが作業を担うことが適切だとの考えからだ。

実験自体はロボットが行い、結果の分析は人工知能(AI)が担い、分析結果を生かした研究のプランニングをAIの補助のもとに行うことが、これからのバイオメディカル分野の研究の効率を高めるものであり、人にかわって微細な領域で作業するロボットの重要性を訴えている。

以下はIEEEのリリースより転載。


狙った細胞を1個ずつ取り出すロボットハンドの実現

一般的にロボットは、センサやカメラによる「認知」、認知した情報を利用した「判断」、判断結果を制御技術で動きとして再現する「動作」という要素によって構成されています。産業用途を中心とした、現在活躍するロボットはそれぞれの技術がある程度確立されています。ですが、微細な領域で動くロボットは、一つ一つの要素技術が十分に用意されていないため、ないものは独自に開発し、さらにそれらを用いてロボットシステムとして統合する必要があります。

新井教授は要素技術の一つとして、目薬一滴から人の体重までという、幅広い範囲で対象物の荷重を計測できる小型荷重センサを開発しました。大きさは2ミリメートル角で、分解能が0.4ミリニュートンです。単体のセンサで、40ミリグラムから61キログラムの荷重を計測できます。一般的な荷重センサと比べ約1000倍の計測幅を持っています。一般的なセンサは、重さが違いすぎるものを同時に計測できませんが、このセンサは広い計測幅を有しているため、様々な対象物の重さを計測することが可能です。

これは、単結晶の水晶振動子を用いることで実現したもので、水晶にかかる荷重により発振する周波数の変化から荷重を測ります。どこにでも装着でき、重さや硬さや圧力など多彩な計測が可能です。大きな力を受けても壊れない高剛性も持っています。

新井教授は、このセンサをロボットの手先部分に装着し、微細な作業をしようという研究を進めています。例えば、狙った細胞を1個ずつ取り出すロボットハンドの実現です。

すでに試作機を製作しています。前述の水晶センサを6個装着し、ハンドの先端にかかる縦横と上下方向にかかる3軸の力を検知し、極めて微細な力を感じながら1個の細胞を取り出します。先端は針やはさみ状など用途別に複数用意し、工程ごとに取り換えますが、複数の作業をこなせるツールも開発中です。この先端部は、微小電気機械システム(MEMS)や3次元(3D)プリンターなどの先端技術を活用し、最適な形状や機能化に関して研究中です。

3軸水晶振動式力センサとロボット先端

水晶センサは、眼科手術で行われる、眼底の網膜表面にある薄膜を剥がす操作を訓練するシミュレータにも導入されています。現状は眼底にかかる力を数値化できていません。センサにより数値化できれば、感覚に頼っていた作業をより効率的に改善でき、スキルアップの迅速化が見込めます。そのほか、ベビーベッドにセンサを取り付け、赤ちゃんの脈拍や呼吸といったバイタルデータを計測する取り組みも進んでいます。

超微細な領域で活躍するロボットの実現には、センサだけでは十分とはいえません。制御技術や、アクチュエータ(駆動装置)も必要です。さらに、バイオメディカル分野では、対象物が柔軟であることが多く、形が変化したり、同じ形でないものをつかんだり動かしたりするには、一般的なロボットより高度な技術が求められます。まずは、5年程度をかけて微細な作業を自律的に行うシステムを実現したいと新井教授は考えています。

このような作業の自動化は、重要な研究テーマであることは間違いありません。新井教授は「理化学実験における微細な作業(タスク)がロボットで実現できれば大きな発見につながると期待している。このような技術を実用化し、次の世代に受け継げれば」と話しています。そのためにも、次世代を担う人材が求められます。今後はAI、数理、メカ、制御、ユーザーインタフェース(UI)といったロボットの知識に加え、作業対象となる植物や動物を研究で扱う研究者の協力も必要となるとしています。多くの困難が伴うと思われますが、微細領域の実験をロボットが担うようになると、創薬や物質合成などの研究が効率化され、研究の質も高まると期待されます。

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ロボスタ編集部

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