ロボティクスも活用し人が働きやすい現場作りへ デンソー「DENSO DIALOG DAY 2021」開催

株式会社デンソーは5月26日、「DENSO DIALOG DAY 2021」をオンラインで開催し、環境、安心、財務、ソフトウェアそれぞれの事業戦略を発表した。Tier1の総合システムメーカーとしてクロスドメインでのソフトウェア開発に挑む方向性だけでなく、デンソーが「非デンソー分野」と呼ぶ新事業創出や、安心関連の取り組みにおいては、ロボティクスの活用例も紹介された。レポートする。


ビジネス・消費の価値基準が変化するなかで「インパクトある価値」を

株式会社デンソー取締役社長 有馬浩二氏

冒頭でデンソー取締役社長の有馬浩二氏は「2020年度は大惨事の一年だった。多くのステイクホルダーに支えられてなんとか生産活動を維持し供給活動を続けることができた。危機管理の重要性を痛感した一年でもあった。東日本大震災など過去の経験を生かし、速やかな連携と迅速な初動対応によって被害の最小化と早期復旧ができた。今後も危機管理を最重要課題の一つに位置付ける」と語った。

さらに「昨年は世の中の価値基準が大きく変化した。仕事の価値、人と接することの価値、移動を見つめ直すことにもなった。カーボンニュートラルもビジネス・消費の価値基準を変化させつつある。製品を作る・運ぶ・廃棄するすべての過程がクリーンであることが取引の条件となる。企業の基準がガラリと変わる。これまでデンソーはものづくりを主戦場としてきたが、これは非デンソービジネス開拓が必要となる。昨年から変革プラン『Reborn21』という取り組みを始め、体質強化・土台作りに専念した。今年は新しいスタートを切り、新しい選択肢・価値の創造に臨みたい」と述べ、CO2排出ゼロ、交通事故ゼロを目指す技術開発を加速すると語った。

そしてモビリティのみではなく、街づくりや農業支援のような「非デンソー」領域にも力を入れると述べ、トマト収穫ロボットの様子を示した。「デンソーが貢献できることであれば選択肢は絞らない」とし「社会にインパクトある価値を届けたい」と語った。

農業領域など「非デンソー」領域にも力を入れる


人工光合成にも挑む環境戦略

株式会社デンソー経営役員CCRO 篠原幸弘氏

続けてそれぞれの担当役員が事業戦略を述べた。まず、篠原幸弘氏は環境戦略について語った。デンソーでは内燃機関の効率向上、電動化での回生技術などで環境価値向上に取り組んでいる。いっぽう世界は「低炭素」から「脱炭素」へ向かっている。デンソーは2035年までにカーボンニュートラルを目指す技術開発に取り組んでいる。製造工程に自然エネルギーを活用し工程を効率化。さらにCO2を回収しエネルギーとして活用する。また新たな移動技術の開発に取り組む。モビリティの最適管理による使用エネルギー減少などにも取り組む。

デンソーの考えるカーボンニュートラル

カーボンニュートラル工場では従来の省エネの枠を超え、抜本的変革を行う、分子結合などの新工法、 Factory-IoTのフル活用による生産ロス・ムダゼロ化、ハイブリッドカーのようにエネルギー回生を取り込んだ設備などに取り組んでいるという。安城製作所には実証設備を導入している。海外にも順次準備を進める。

■ 動画

モビリティ製品では駆動システムとサーマルを核にエネルギーマネジメントを実現する。カーユーザーにとっても快適かつ移動の自由を拡大する方向で、非車載技術を含めた技術開発を行う。モビリティ技術を車だけでなく空にも展開する。そして航空機事業で高効率・軽量技術を培い、自動車にも還元する。

エネルギー利用については太陽光を使った人工光合成などの新技術にも取り組む。植物のように、家庭や産業から排出されるCO2をどこでも回収し再エネ・再資源化する技術開発に取り組んでいるという。CO2回収ユニットと炭素変換ユニットで炭素を回収し活用する。篠原幸弘氏は「製品を普及させることでカーボンニュートラルな社会を実現する」と語った。

デンソーが開発している人工光合成技術。左端がCO2回収ユニット、右端が炭素変換ユニット


ロボティクスを活用した安心戦略

株式会社デンソー経営役員CTO 加藤良文氏

安心戦略については加藤良文氏が解説した。自由な移動を実現しながら後付け可能な高度運転支援機能により交通事故のない安全社会、健康意識が高まるなか車内空間を「安心できる空間」とし、人を支援し人の可能性を広げる社会を目指す。製造分野ではロボットを使って外観検査などを自動化するほか、搬送自動化などにも取り組む。

デンソーの「安心」3本柱

デンソーは80年代後半から衝突安全技術を提供しており、90年代からはLiDARやミリ波レーダーなどを製品化している。これからは交通事故ゼロを目指し、より多くの車への普及と、より最先端を目指す。事故の事前防止においてはインフラ情報の活用によりセンサーを補完。より多くの事故シーンに対応する。AIによる危険予知と危険情報の提示も行う。後付け安心製品の提供、電子プラットフォーム普及により安全安心の向上に挑む。

有害物質・ウイルス感染など密閉空間の危険性についてはエアコン技術や音環境技術などを使って、快適空間化を行う。浄化センシング技術を革新によって、2021年2月に発売した車載空気清浄機「Puremie」では従来比で25分の1の大きさの粒子まで捕捉できるようになったという。

デンソーのソリューション

働く人の支援にも取り組む。農業・物流・製造では人手不足が深刻化し、コロナが拍車をかけている。デンソーは自動車技術で培った技術はこれらに相性がいいと考えて、特にフードバリューチェーンの改善に取り組んでいる。小型モバイル冷凍機やロボットを使った搬送などに取り組んでいる。農業・物流・FA3分野で2030年には売上3000億円を目指す。

自動化に加えて工場内労働者の負担軽減を進める

運行管理や搬送自動化を進める

誰もが働きやすい農業ハウスにも挑む


クロスドメインで開発を行うソフトウェア戦略

株式会社デンソー経営役員 CSwO 林新之助氏

ソフトウェア戦略については林新之助氏が説明した。環境・安心などを実現するためには自動車はさらに進化し、社会のノード化・インフラ化する必要がある。そのための鍵はソフトウェアだと述べた。これまでの車は単一ドメインごとに進化していたが、これからはクロスドメインでの価値が重要となる。すなわち、様々な技術領域を超えた協調型の技術やクロスドメインのECUが重要となる。デンソーではクロスドメイン価値の提供と、全体の利便性を向上させる業界標準の基盤づくりに挑む。クロスドメインとなるとソフトウェア開発は大規模化し、設計も難しくなるが、デンソーにはこれまでの経験があると林氏は強調した。

これからのソフトウェア開発はクロスドメインで

社内の改革も進める。人材面ではソフトウェア人材のスキルアップを目指し、スキル定義、教育カリキュラム、認定制度を整えて運用している。2025年を目指し人材の最適配置を行う。各事業部のソフトウェア人材を横断組織に集約し、電子PF・ソフトウェア統括部で運用する。

クロスドメインでの開発事例




投下資本利益率を重視する財務戦略

株式会社デンソー経営役員 CFO 松井靖氏

CFOの松井靖氏は財務戦略の目標を述べた。事業を通じて社会に貢献することを使命としており、具体的には交通事故ゼロ、ROE(自己資本利益率)10%超を目指す。ROIC(投下資本利益率)向上を目指し、成長事業を伸ばし、成熟領域を縮小するために事業ポートフォリオを入れ替え、資本コストや効率性を意識し構造改革を行う。CASEは拡販を進め、新事業はエネルギー活用などを加速し、理念と収益の両立を目指す。

デンソーの戦略目標

電動化のためには既にインバータなど多くの製品があり、これらは売上・利益両面で会社全体の成長を支えているという。今後は電池ICUや熱マネジメント製品なども成長する、ADAS製品売上も2030年には1.5倍になると見込む。新規ビジネスについては航空モビリティのほか、農業などにも取り組む。コストが増す大規模ソフトウェア開発は、効率化によるコストを抑制しつつ新価値創出を行う。低収益資産も圧縮する。

資本構成も改善する。株主資本から借入にシフトする。そして資本コストを意識した株主還元政策を実行する。2021年度は売上が急回復するなか、成長に投入する。そして積極的に株主還元を行うと語った。


未来を作る選択肢を技術で広げる

最後に社長の有馬浩二氏は「これからはゲームルールが変わる。これまでの方程式では生き残れない。改革しなければいけないと走ってきた。新型コロナウイルス禍でさらに加速したことも実感している。デンソーは技術で成長してきた会社。未来を作る選択肢を技術で広げ、可能性の扉を開けていきたい。それが我々の果たす役割だと考える。総合システムメーカーだからできることもあると認識している。そんな会社はそんなに数はない。責務を果たさなければならない。そうはいっても人がやる仕事なので、熱量大きい会社になっていかなければならない。機動力や俊敏性をもっともっと磨き上げなければ、期待に応えられないと思う。引き続き応援してもらいたい」と締めくくった。

■ 動画


関連サイト
株式会社デンソー

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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