量子技術による社会構造変革を目指す民間企業11社(以下に記載)は、本日5月31日、業界の垣根を越えて、量子技術を応用した新産業の創出を図るための協議会「量子技術による新産業創出協議会」の設立発起人会を開催した。
今後、企業や専門家に対し、本協議会への参画を募るなど、今夏の設立に向けて具体的な準備を進めていく、としている。
発起人会は「来たる量子時代に向け、我が国は技術等における優位性を生かし、コンピュータ、通信、シミュレーションなどを利用し、サービスなどを含めた新産業を創出することで、グローバルで確固たる「量子技術イノベーション立国」を目指す」としている。
JSR株式会社
第一生命ホールディングス株式会社
東京海上ホールディングス株式会社
株式会社東芝
トヨタ自動車株式会社
日本電気株式会社
日本電信電話株式会社
株式会社日立製作所
富士通株式会社
株式会社三菱ケミカルホールディングス
株式会社みずほフィナンシャルグループ
新協議会設立の目的、主な活動内容
量子技術の基本原理、基本法則に立ち戻り、これらを正しく理解し、その応用可能性を見出し、最終的に産業応用するための、企画・検討を行う事を目的とする。
(1)量子技術の動向に関する調査・研究
量子技術の全般の動向の調査・研究、産業界トップ層の間で情報共有
(2)量子技術の産業活用に関する調査・研究・提案
複数分野についての応用可能性の調査・研究
(3)量子関連技術に関する調査・検討
量子コンピュータや量子通信に必要となる材料、デバイス等についての調査・検討、情報共有
(4)量子関連人材に関する調査・企画・提案
量子技術に関連する人材の育成に関する調査・企画・提案、意見交換
(5)制度・ルールについての調査・検討
量子技術の実装に際し必要となる知財・標準化、倫理、トラスト等の調査・検討
(6)その他
普及広報、政策提言など
量子技術は、古典的手法を凌駕するものとして1980年代より注目され始め、21世紀になって既存技術が限界に近づく中で、関連技術が進歩してきたことにより、その開発が一気に加速してきている。例えば、2050年が開発時期と言われた、誤り耐性量子コンピュータについても、関連技術の応用は既に始まっており、まさに今が量子の時代の分岐点となっている。
設立発起人会、参加者のコメント
報道関係者を中心に行われた設立発起人会では、設立発起人らが登壇してコメントした。内閣府が主導してきた「光・量子を活用したSociety5.0実現化技術」等を意識した内容が多く見られた。また協議会発足前ということもあり、「量子技術による新産業創出協議会」の具体的な活動や目標等については語られなかった。
会の冒頭では、来賓として参加した、内閣総理大臣補佐官の和泉 洋人氏が冒頭にコメントした。
「量子技術によって、産業界がイニシアティブを持って、社会産業を変革する新産業が創出されることを期待する。量子技術は世界各国が競って研究が行われている。日本もスピード感を持ってこの協議会が中核となって、研究が進められることを期待している。政府としてもしっかりと支援していく」と語った。
以下、「量子技術による新産業創出協議会」設立発起人会の方々のコメント(一部抜粋)は下記の通り。なお、設立発起人会の会長には、東芝の取締役会長代表執行役社長 CEOの綱川智氏が選出された。
日本電信電話株式会社 取締役会長 篠原 弘道氏
「量子は特異的な振る舞いによって、従来の技術では達成できなかった大容量、高精度、高信頼、省電力などの性質を実現できる可能性を持ち、様々な産業でイノベーションを起こすポテンシャルを持っている。研究者達と産業界が早い段階から連携し、実用化と社会実装に向けた準備を並行して進めていくことが重要だ考えている。3月に閣議決定でも産官学の重要性が指摘されている。量子計算、量子暗号、量子センサー、量子マテリアル、量子デバイスなど、産官学で連携して、幅広い技術が産業界で活用できると期待している」
日本電気株式会社 取締役会長 遠藤 信博氏
「NECは黎明期よりすでに20年間、量子技術の研究を行なってきた。日本では現在、DXが注目され、全体最適の価値創造が求められ、そうした中では量子技術はなくなてはならないものになるだろう。そして、この協議会に期待されてるのは、開発から産業界での実用化のスピードが求められているだろう。発起人企業と一丸となって早い時期の実現を進めたい」
富士通株式会社 代表取締役社長 CEO 兼 CDXO 時田 隆仁氏
「当社も量子コンピューティングの研究をはじめたところ。そして理化学研究所とともに4月に研究センターを設立して、1000量子ピット級の開発を目指す取り組みをはじめた。また、当社製品のデジタルアニーラ(アニーリング技術)は既に実践投入の段階に入り、事例が出始めている。一層、様々な取り組みが必要であり産官学の連携で実現していくことを願う」
株式会社 日立製作所 執行役会長兼執行役社長兼 CEO 東原 敏昭氏
「2050年からバックキャストしてどのような技術が必要かを検討する時期にきている。長期展望をもとに”量子技術では世界に関する日本”と言われるように勧めていきたい」
株式会社 東芝 取締役会長代表執行役社長 CEO 綱川 智氏
「量子技術による新産業創出協議会」設立発起人会の会長を務めることになった株式会社 東芝 取締役会長代表執行役社長 CEO 綱川 智氏
「この夏の協議会の説明を目指し、多くの皆さんに参加して頂けるよう本協議会に強くコミットし、オールジャパン体制で、量子イノベーション立国の実現を目指す。量子技術は国家安全保障をも左右する技術で、日本は既に世界をリードする技術を多数持っている。しかし、日本は今まで”技術で勝って産業で負ける”とも一部で言われてきたが、技術面に加えて、できるところから始める、という産業面でもスピード感をもって実現していきたい」
トヨタ自動車株式会社 代表取締役会長 内山田 竹志氏
「量子技術の登場によって、大量のデータを従来のコンピュータでは考えられなかった高速さで処理できる可能性が見えてきた。実現には高度なハードとソフトの融合が必要。それは日本の大きな強みのひとつになると期待している。オールジャパンで研究から実用化まで、スピード感を持って進めていきたい」
JSR株式会社 取締役会長 小柴 満信氏
「GoogleやIBM、ベンチャー企業等による研究、開発、実用化が世界では始まっている。この協議会の発足によって、世界との競争力を向上する取り組みになる。日本の将来、生死を決める大きな一歩だと思って、協議会に参加していきたい」
株式会社三菱ケミカルホールディングス 取締役会長 小林 喜光氏
「量子コンピューティングでは世界に立ち遅れるわけにはいけない、日本の次なる礎となる挑戦だと思って、皆さんと研鑽していきたい」
株式会社みずほフィナンシャルグループ 取締役会長 佐藤 康博氏
「金融業界では、デリバティブ商品の価格設定、各種のリスク評価、ポートフォリオ最適化、暗号化やセキュリティレベルの高度化など、量子技術は死活問題となる重要な技術として捉えている。中長期的な技術の発展を産業界が一丸となって取り組んでいくことが重要。国際競争は熾烈を極めることが予想され、産官学の連携が共創の場として機能していくことに大いに期待したい」
東京海上ホールディングス株式会社 取締役会長 永野 毅氏
「ユーザーサイドとして未来の技術を心待ちにしている。量子コンピューティングは自然災害などのリスクを予測・管理、分散することができる。また、暗号技術、サイバーセキュリティなど、保険業界とも親和性が高いので業務でも非常に重要であると共に、社会にとっても意義があり、量子技術は日本の将来に重要だと考えている」
第一生命ホールディングス株式会社 取締役会長 渡邉 光一郎氏
「金融や保険は元祖ビッグデータ業界だと考えている。量子技術は将来の中核になっていく。産官学が連携を強化して、生産性の向上や健康寿命を伸ばすことにもつながり、社会実装を目指すことが重要。世界でもまだ実用化や実践例はないのでスピード感も重要」
事業方針
まずは、関連量子アルゴリズムごとに、これらを正しく理解し、その産業応用可能性について調査・検討を行うための部会を設置する。現時点で有望と思われる量子アルゴリズムは以下のとおり。
■量子波動・量子確率論応用
量子振幅推定、組合せ最適化問題、最近傍探索 など
■量子シミュレーション(連立方程式、変分)
量子計算機暗号・機械学習、組合せ最適化問題、量子化学計算 など
■最適化・組合せ問題(量子アニーリング)
ポートフォリオ最適化、スケジューリング最適化 など
■量子暗号・量子通信
ネットワーク問題 など
合わせて、関連基盤技術(材料、デバイス等)、重要応用領域(量子マテリアル、量子生命・医薬、量子バイオ、量子センサ、量子AI等)、人材、制度・ルール等に関しての検討課題の洗い出しを行い、必要に応じて、部会を設置する。
運営組織案は下記のとおり。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。